第7唱 勇気とは、誰もが持っているが、それを示すのは難しい!
僕の自信な処女作なのに、おもしろ半分で作った「最弱勇者とチートな勇者御一行様」よりアクセス数が少ないのはショックです。
僕はコント・トリオ(勝手にユニット名をつけました)から逃げて帰路に着いた。
「はぁ、ああいう人たちは苦手だなぁ」
僕はため息をつく。友達が欲しいとは思っているけど、あの三人は別だ。トールも僕に賛同する。
『そうだなぁ。俺は賢者としてそれなりに世の中の事を悟ったつもりだったが、この世は多くの神秘で満ち溢れている。……俺もまだまだ修行がたりないな』
コント・トリオは偉大なる賢者様に神秘の扱いをされました。
「ははっ、あれが神秘? たしかに理解できないけどね」
僕はトールの言葉にクスクス笑った時だった。
「何だー、テメぇー。俺達の事をオチョくってんのか!」
大きな怒鳴り声に僕はビックリした。クスクス笑ったのが悪かったのだろうか……。一難去ってまた一難とはこの事でしょうか?
僕が首をぶんぶん振り、あたりを見渡したが……、誰もいない。一瞬空耳かなと思ったけど、再び声が聞こえてくる。
「出すモン出してようぅ!ドラ●もん!」
ヒャハハという笑い声が聞こえる。
「い、いったいなんだ? 毒電波攻撃でもくらったのか?」
『とおる、あっちだ。十時の方向の路地裏』
「どこさ!?」
『左前にある、いつもペコペコしてるおっさんの絵が貼られた柱の所!』
電信柱に、政治家のポスターが貼られていた。
「あそこだね」
僕はトールの言葉に従って、路地裏を恐る恐る覗いて見ると、ガラの悪い高校生らしき不良三人が、まるまると太った中学生を囲んでいる。中学生は怯えて今にも泣きそうであり、良く見ると僕と同じ学校の制服だった。
――はぁい、みんな。この近くで、不良にたかられた事件が起こったらしいから、みなさんも気をつけるんですよ。いいですね――
峰高春奈先生のかわいらしい、のんきな注意が頭の中に響いたような気がした。
な、何だ、このマンガのような展開、実際にあるのかぁ!? ど、どうしよう……。
僕は声一つ出せなかった。
『助けないのか?』
僕の様子を怪訝に思ったトールが聞いてくる。
僕は恐怖で足が動かせなかった。手は緊張で汗がにじんでくる。
警察を呼には電話が必要だが、携帯はまだ持っていない、近いうちに買ってもらう予定だった。となれば、近くにいる誰かに連絡してもらう他ない。すぐそこにコンビニがある。そこまで行けば警察を呼んでもらえる。
しかし、怖くて上手く体が動かない。思わず後ろに後ずさる。
三人の内の一人は見張り役なのか、ふと僕の方を振り向こうとした。
僕は思わず逃げ出してしまった。
警察を呼ぶ事なんて考えずに。
自分の事すらよく考えず、ただ、ただ、恐怖で逃げ出した。
結構な距離を走り、もう動けなくなる程息が切れ切れになって、ようやく僕は立ち止った。
「僕は……、ぜぇ、……最低だ……」
そう呟いた瞬間、自分がみじめになってきた。
理不尽だと思ったのに、間違っていると分かっているのに、それに立ち向かわなかった。
結局、僕は自分の事しか考えない弱虫で、へたれ虫、泣き虫だ。
『まぁ、仕方ねぇんじゃねぇの?お前の実力じゃ3人相手にできねぇし。近くに衛兵も居なかったんだから。お前が出しゃばっても、カモが増えるだけだ』
「でも、僕の所では警察、その、衛兵みたいなのはすぐに呼ぶ事ができるはずだったんだ。でも、僕はそうできなかった……」
『ふーん。つまりお前が最低な意気地なしって事か。そういえば、バカトリオにからまれた時、何も言い返さなかったしな』
トールの言葉に僕はさらに落ち込む。まさに、賢者様の言う通りだ……。
次の日、僕は学校に行った。
昨日の事が頭から離れず、僕の友達の輪を広げる作戦は進まなかったし、コーラス部の初の活動もあまり身が入らなかった。
部活が終わって、僕は一人でとぼとぼ帰り道についた。
帰り道、コンビニで肉まんの新商品があったので、コンビニでジャ●プ、サ●デー、マガジ●をまとめて立ち読みし、肉マン一つ買って出た。(コンビニは大迷惑!)
「まぁ、僕はジャ●プのヒーローみたいに、悪と立ち向かえないさ……」
袋から出して肉マンにかぶりつこうとしたら、急に黒い影が迫ってきた。
「うわっ」
僕の体がよろめき、僕の手から肉まんの重みが消える。
「痛てて、な、なんだぁ?」
僕が驚いて尻もちをついた目の前に昨日の黒猫がいた。子猫三匹も一緒だった。
憎たらしくも愛嬌がある母猫は僕の手から肉マンを奪った事に勝ち誇っているように見えた。
「僕はよほどぼんやりしていたなぁ。……はぁ」
人の手にある肉マンをかっさらうとは、よほどお腹をすかせていたのだろうが、それは甘い。その肉マンはアッツ、アッツなのだ。
予想通りに黒猫はくわえていた肉マンを離し、フシャーっと警戒している。毛が逆立って、少し膨らんだように見える。
そんな猫の様子を見て、再びため息をつき、僕はコンビニに戻る。
僕はコンビニでソーセージを買った。ビニールを不器用に引き裂き、猫の親子の前に置く。
「ほらよ。食べれば。」
黒猫親子はソーセージにかぶりついて食べた。
尻尾をピンと立てながらガツガツ食べる姿に少し癒されながら、僕は昨日の事をまた思い出していた。
きっと、昨日の罪悪感ゆえに、僕はこの黒猫親子にソーセージをあげたのだろう……。
どうしたら勇気を出す事ができるんだろう。
僕はこんな弱虫なまま過ごしていくんだろうか。
「弱虫なままなんて・・、僕はいやだ。」
僕の呟きにトールは
『なら、勇気の出る魔法を作ればいいじゃないか』と、言った。
ごく当たり前のように言うトールに僕は目を丸くする。
「ヘッ……、そんな都合のいい魔法あるの? 小説でも聞いたことない」
『馬鹿、魔法は祈りを込めて、歌を歌う事で、力を発揮する。つまり、人の「何かを願う心」が魔法となるんだ。現実を捻じ曲げる魔法よりも、人の心に届かせ、心に働きかける魔法の方がずっと簡単だ。お前は心から勇気が欲しいと願っている。ならば歌え、トオル。その心を歌にするんだ』
しばし、茫然としていた僕だが、自然と微笑んで頷けた。
「うん分かったよ」
トールの言葉に僕は元気がでてきた。トールも『そうか』と笑う。
『ついでに、少しだけ幸運になる魔法もミックスしたらどうだ。自分は幸運だと思うと自然と勇気が湧くものだ』
僕は静かに目を閉じ、心の中の願いを膨らませる
弱虫な心を克服したいと願う
しっかりと自分の心を貫きたいと願う
これはずっと前から自分を変えたいと願ってきた事だ
絶対にこの魔法を成功させて見せる
題名;一握りの勇気
歌詞;田中 徹
作曲;田中 徹
歌手;田中 徹
君が目の前で泣いているの見て
僕の心は痛む
君の涙がふるえるたびに
僕の心もふるえてしまう
本当は君に優しくしたいのに
僕の心は迷う
君に手を差し伸べようとして
僕の手が傷つくのを恐れる
ほんのわずかな
一握りの勇気が欲しい
君のもとへ駆けつける足が止まらないように
ほんの少しの
一滴の幸福が欲しい
僕のさしのべた手が君の手を握れるように
きっと誰もがそう思うはずさ
きっと誰もが優しくしたいはずさ
だからこの歌に勇気を乗せて
どこまでも届いて欲しい
世界中のどこまでも……
僕は歌った。
あの時、路地裏で助けられなかった事を悔やみながら、
勇気が欲しいと渇望しながら
弱虫な自分を乗り越えたいと願いながら
ちなみにドラ●もんと呼ばれてた、太っちょ中学生を、僕の脳内で幼馴染に変換しながら歌った。(感動的な歌を歌いながら、何気にひどい事をしている)
……でも、これで勇気が出たのかなぁ?
僕は目を閉じたまま、ふと思う。
『なら目を開けてみるといい、トオル』
トールの言葉に目を開けてみると、僕の目の前にはなんと10人近くの人が手を叩いていた。
「坊や、歌手目指しているの?とってもいい歌だったわよ」
「中学生にしてはなかなかだったぞ」
「いい歌声だった。もっと練習すれば、立派な歌手になれると思うよ」
そう口々に褒めて、戸惑っている僕に硬貨をにぎらせてくる。
「ねぇ、他に無いの?」
茫然とみんなの顔を眺めていた僕におばさんが聞いてくる。
「えっと、じゃぁ……。後はコミカルな歌だけですが、もう少しだけ」
僕は今まで、魔法のために作った歌を歌った。
「坊主、お前の歌に大満足だ。コミカルのも面白かったぞ」
「新作出来たら、また歌ってね」
10人位の人達が、僕にお金を渡して行ってしまった。
ようやく我に返った僕は、手の中にあるお金に視線を落とす。
「僕、どうやらミュージシャンと間違えられたようだね。」
『まぁ、魔法が知られていない、この世界。まさか魔法を使うために歌っているとは思わなかったんだろうさ。』
しかし、小銭ばかりだけど、五百円玉が多いので、中学生の僕にしては結構な額だ。お金を貰おうと意図してやったわけではないが、貰えるのなら貰っておこう。
「まぁ、そうだろうね。……でも、さっきトールが言っていた、勇気が出たかどうか、どうやって確かめるの?」
お金を貰う為に歌を歌ったわけではない。重要なのは、今の魔法で勇気を得られたかどうかなのだ。……あっ、お金をいらないと言っているんじゃないけど……。
僕の疑問に賢者様が自信満々で答えてくれる。
『さっきの人達、お前の歌を聴きにきただろう。玉なしの弱虫なお前じゃぁ、きっと逃げ出しているだろう? でも、お前はリクエストに答えて歌った。勇気が出た証拠なんじゃねぇか?』
確かにそうだ。以前の僕ならあがって逃げ出しただろう。これは勇気が出た証拠、なのか?
勇気の証拠に納得した僕は、再び首をかしげる。
「ん?なら、このお金は幸運の証拠?」
手の中にある五百円玉は、まるで太陽のような黄金色で輝いていた。