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第35唱 真に自分の人生を笑うのは自分自身だけである

 いきなり扉を蹴り破られたと思ったら、気を失って、いつのまにかガムテープでがちがちに拘束されていた。腹に鈍い痛みが残っていて、息苦しい。

「……な、なにが……」

 俺は龍田(たつた)組とこのジョジョスで強盗を企てた。金のやりくりが難しくなって、少し借りただけなのに、俺を切り捨てたこの会社への恨みを晴らすためだった。

 龍田(たつた)組の参謀と念を込めて計画したはずだ。いったい、何が悪かったんだ! 俺は悪くないはずだ!

 俺が起き上がろうとしたが、縛られているせいで上手く起き上がれない。そのもがく様子に放送室の女が気付いたようだ。

「副社長、お疲れ様。噂のヒーローが来て下さったのですよ。もう、他の仲間も全員倒される所ですよ」

 うざったい。さっきまで怯えていた女が俺を笑って馬鹿にしやがって……。どいつもこいつも……。

 俺は歯ぎしりしたが、ポーンという機械音が耳に入ってきたので、そちらに目を向ける。

 テーブルには小型のテレビが置いてある。ニュースを見て、警察や政府がどう動いているのか、少しでも多くの情報を得ようとして持ち込んだ物だ。それが、緊急ニュースをニュースキャスターが告げようとしている。

『ニュース速報です。20××年 5月26日 土曜日 午後四時。東京都目黒区の郵便局に強盗事件が起こりました。犯人は龍田組の組員六名であり、警察の見解によるとジョジョスの強盗事件は、こちらの郵便局強盗のための囮ではないかという意見も……』

 俺はニュースキャスターの淡白な声に頭の中が真っ白になった。

 ジョジョスも俺を切り捨てて、俺の仲間だと思っていた龍田組にも裏切られた。

 あの野郎! 何が、綿密なプランを立てているだ。最初から俺を囮にするつもりだったのか!? どいつもこいつも!

「は、はは……。俺を、エサか。最初から踊らされていたのか。ピエロか。俺はピエロか。何も知らずに笑っていたのか!?」

 このジョジョスも、俺の最後の舞台だったわけだ。それも知らずに今後の暮らしを夢想していたのか。はは、何も分からずに笑っていた。

「全て、消えちまえ!」

 俺はそう叫んで笑う。笑うしかない。今の俺は馬鹿みたいに笑うことしかできない。

 すると、突然頭の中に、人を馬鹿にしたような、おどけているような声が響いてきた。

――フフ、あなたはそれを望むのですか?――

「誰だ!」

 俺は突然の事態に恐怖する。ここには俺の仲間と、俺の様子を怪訝そうに見つめているクソな女しかいない。こっちに機械で通話しているようにも見えない。

――フフ、自分が道化だと思うのであれば、最後まで踊ってみてはいかが?――

 いかにも人をあざけるような声に、俺はいら立ちを隠せない。

「何だ! お前も俺を馬鹿にするのか!?」

――ふふ、あなたは自分を道化だと思っているのでしょう? 伯父に泣きついて副社長にしてもらって、どうでもいい仕事を与えてもらって。単なる厄介払いだと分かっているのでしょう? 自分を滑稽だと。自分は愚かだと。自分は無力だと――

「ねぇ、あなた、いったい誰と……?」

 クソ女が声をかけてくるが、そんなの気にしていられない。何もかもを見透かすような声が恐ろしい。

――いいではありまえんか、道化だっていいではないですか。舞台の上で踊って笑うのも、楽しいですよ。最高のショーをしましょうよ。血と悲鳴に満ちた最高のショーを! 恐ろしくも、魅力的なショーに観客は眼が離せないでしょう! あなたを笑う者たちに、あなたの力を見せつけてやりましょう!――

 謎の声が歓喜に満ちた声を漏らす。最初はいら立ち、次は恐怖を感じたが、だんだんとその声に惹きこまれてしまった。クソ女が怯えて逃げていくが、そんなのどうでもいい。

「俺は、どうしたら……」

――ふふ、ただ私に任せて頂けたら良いのです。私が最高のショーへとみなさんをご招待しましょう!――

「あぁ、分かった。奴らに、思い知らせてやる」

――さぁ、私のショーをご覧あれ――

 俺の視界は全て真っ黒に染まった。全ての音が遠くなり、意識も混濁して闇に沈む……。


◆◇◆◇


「お久しぶりでございます。偉大なる賢者のトール・T・ナーガ様。あなた様のご尊顔をご拝見できまして、私は大変歓喜しております」

 腕を二対生やした異常で異形なピエロが、人を小馬鹿にするようにお辞儀してくる。

『……暗黒の道化師、フールか。お前までこの世界に来るとは、いったいどうなってんだ?』

 トールが険しい声で語る。そんな彼の様子に、フールと呼ばれた道化師は笑う。

「ふふふ、知らないならいいのですよ。むしろ好都合です。何も知らないままの方が私のショーのお楽しみになられるでしょう。サプライズは突然だからこそサプライズなのです」

 フール手を前に突き出すと、虚空にラッパが姿を現す。

『横に飛べ! トオル!』

 僕はトールの言葉に従って、全力でラッパの真正面から避ける。フールが笑いながらラッパを吹くと、そこから猛烈な音波を発し、商品の棚が倒れ、蛍光灯が割れる。

『トオル、あれをくらっても死ぬ事はないだろうが、鼓膜を破壊され、平衡感覚を奪われるぞ』

 僕はその被害を目で確認したが、床や柱が無傷な以上は即死しないだろうけど、耳を破壊されればその後に響く。

「ふふ、手の内を知られているのは嫌いです。ビックリさせられないですから……」

 フールは手の中にカラフルなボールを出現さえ、投げつけてくる。

「……でも、トオル様にサプライズは提供させて頂けそうです」

「おわっ!?」

 僕は飛んでボールを避けたが、床にぶつかったボールは小さく爆発する。これもまた指が吹き飛んだりはしないだろうけど、やけどぐらいはしそうだ。

『トオル、こいつの攻撃は手札が多いが撹乱系が多く、一つ一つは大した威力もない。あと、こいつは影と本体を入れ替える事ができる。まぁ、ここなら弱い光が四方から浴びせられているから、入れ替えが出来る程の影はなさそうだ!』

「分かった」

 僕は走ったり、飛んだりして爆弾ボールを避け、フールに接近する。

「おっとっと」

 フールが後ろに下がりながらラッパを構えるけが遅い!

「ガット・ネロパーン、……ち?」

 大きく振りかぶった拳が空振りする。急にフールの姿がかき消え、いつの間にか少し離れた所にたたずんでいたのだ。

「……こいつ、テレポートしたのか?」

『……そんな能力もあったのか……?』

 テレポートはトールも意外だったようだ。驚きを隠せていない。

「ほっほっほ、驚いていただけたなら、光栄でございます」

 戸惑う僕らをフールが笑う。ゆがんだ笑みを浮かべる。

「トール、今こいつに【Tother】を歌ってやれば、こいつを浄化できるかな?」

 僕の問いに、トールは固い声をもらす。

『いや、無理だな。【Tother】は相手に直接干渉する魔法だ。その分、相手の精神力の影響を受けやすい。精神力が弱い奴ならともかく、ここまでの奴だと簡単に魔法を破られるだろう。やるなら、相手を弱めてからでないと』

 僕は散らばった商品の中からカッターを拾い、ケースから取り出して右手に構える。

「いやはや、とっても懸命な少年ですなぁ」

 フールは上着の中から白いハトを沢山出す。ハト達は鋭いくちばしで僕を突こうとする。

「ガット・ネロトルネード!」

 クルクルと回転して、ハトのくちばしをはじいて防ぐと同時に、拳でハトを殴ったり、蹴飛ばしたりする。そうしながらもフールへと再び距離を詰める。

「ガット・ネロキーック!」

 再びフールの姿が消えるが、それも想定済み。少し離れた所に現れたフールにカッターを投げつける。

「ガット・ネロスロウ!」

 さすがにフールも反応できなかったようだ。カッターの刃はフールの胸を貫いて、背後へすり抜けてしまった。

「『なっ』」

「おやまぁ、見事な腕前でございます。私は、全く反応できませんでした」

 フールはけがをしていないどころか、服の乱れ一つもない。完全にすり抜けていた。

『どういう事だ。あのすり抜け方は、影と入れ替わりをした幻覚のみたいだ』

「なに、じゃぁ、やっぱりあれは影と入れ替わった偽物って事?」

 僕はフールの足元に目をやるが、影なんて見えない。もしかしたら、よく見れば薄い影があるのかもしれないけど……。

「ねぇ、トール。もしあいつが影と入れ替わっていたら、影を攻撃すればいいの?」

『いや、影の中に潜む奴に直接攻撃する事はできない。影の中は一種の亜空間になっている。影にダメージを入れようとしても、地面を傷つけるだけで終わる』

「じゃぁ、どうするのさ!」

『俺達の世界でこいつと戦う時は、奴の影を消す事。光を遮って、さらに大きな影で奴の影を覆った。影は己の分身であり、己のもう一つの魂である事を意味する。影と入れ替わるには、ある程度、己の姿形を写していなければならない。だから、見て分からない程に薄い影では入れ替わりできないはずだが……』

 フールの余裕の笑みに僕らは緊張する。フールは初めから誰も自分を傷つけられないと知っていたのだ。知っていたゆえの余裕の笑みだ。こちらの攻撃力がいくら勝っていようと、当たらないのでは意味がない。

 戦いは膠着状態に陥ってしまったが、相手の攻撃を防ぐ事ができるのと、こちらの攻撃が無意味なのでは、心理的にこちらが押されている。

……なんとか、奴へ攻撃する方法を見つけないと……。

 僕が考えをめぐらしていると、人の足音が沢山聞こえてくる。ようやく魔法少女ピングルがみんなを避難誘導したらしい。いかにも怪しい格好をした彼女の言う事を聞けなかったのかもしれない。初対面だったら僕も聞かなかっただろう。

黒猫仮面(くろねこかめん)! その変なピエロを倒せそう!?」

 彼女と黒いサンバイザー越しに視線を交わし、僕は小さく顔を横に振る。

「そんなに強いの? 今、どういう状況なの?」

 彼女はこんな非常事態に慣れているのか、冷静に問いかけてくる。

「このピエロは、人に何かがとり憑いた化け物。そして、今あそこにいるピエロに攻撃してもすり抜けてしまうんだ」

 僕は彼女に、ピエロは影と本体を入れ替える能力を説明し、その肝心な影が薄くて入れ替えできないはずだという話をする。

「なるほど、やっかいで、よく分からない能力を持っているのね。まるで、陰陽師の人型みたい」

「えっ、あの災厄を代わりに受けるという、お守りみたいなの?」

「えぇ、あれは木の板に人の名前を書いたり、藁人形に髪を入れたり。ひな祭りでも人形を川に流して災厄を流す。このピエロの影も、そういう災厄を代わりに引き受けているって事じゃないかな?」

 しかし、

 全く打開策なんて思いつかない。このままじゃジリ貧だ。

 焦る僕らの様子を楽しむかのように、フールが笑う。

「ふふふ、ご相談はお済でしょうか? 私のマリオネットのショーを最後までお楽しみください」

 フールが四本の腕をまっすぐにのばすと、細長い板を十字に重ねた物が四つ現れる。それから手首を返すと、板は僕らの方に飛んでくる。

『まずい、トオル! その板に上を取られるな! 壊せ!』

「きゃっ!」

 僕はとっさに彼女を突き飛ばし、飛び上がって板の二つを、木の破片もまき散らしながら破壊するが、他の二つは階段の方へ向かう。

「今のは何!?」

『今のはだな……』

 トールの言葉が終わる前に、階段から体格がふくよかすぎるおばちゃんと、もやしみたいに細いサラリーマンっぽい中年が、頭の上に先ほどの木の板を浮かべながらこちらに歩いてくる。

「助けて! 体が勝手に!」「助けてくれ!」

 おばちゃんは包丁を、中年男性はゴルフクラブを手にこちらへ向かって来る。

『あれ、操り人形を頭の上に浮かべられると、体を操られてしまう。腕一本につき一つ出せるから、気を付けろ!』

 僕は殴られないように天井すれすれを飛んで、二人の上に浮かんでいる操り人形化する道具を粉々に蹴り飛ばす。解放された二人は怯えたようにへたり込むので、僕は怒鳴る。

「早く逃げて!」

 二人は我に返って、転げるように階段を下りて行った。

「ふふふ、正義の味方も大変、ですね? ふふ、ふ、うおっ、おっとっと。危ないじゃないですか。まぁ、私には意味がないですが」

 笑うフールに魔法少女ピングルがフライパンを振りかぶったが、僕の時と同じようにすり抜けてしまう。

「ふふ、そんな事に意味はないと、先ほど彼と確認し合ったのではないのですか?」

「私は、自分で見た事しか信じないの」

 彼女はフライパンを構える。

「ふふ、賢明で懸命な愚者でございますね。あなたなら、素晴らしい道化になれるのでは?」

「はん、あんたほどの道化になれないし、なりたくもないわ」

 彼女はフールがいるあたりの床を叩いてみるが、なんの変化もない。実は薄い影があって、その影と実体を取り換えている、という線はなさそうだ。

「はたして……、どうでるべきか……」

 この道化のショー、……どうやら長引きそうだ。


 Hi! ディズニーランドのサーカス「ゼット」を見に行って、半分ぐらい眠ってしまったトオルです。

 サーカスって見ていておもしろいんだけど、なんか眠たくなっちゃうんだよね。ハラハラする空中ブランコ。あれの揺れを見ていると、だんだん催眠術をかけられたみたいにだんだん頭が重たくなっちゃうんだ。

 結構いい席で入ったのに、めちゃくちゃもったいないことしちゃったなぁ。

 まぁ、今日はここまで。僕の活躍、次回も見てよね。

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