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第27唱 平穏は簡単に壊れる

 ある時、人類はタイムマシンを作ってしまった。人類は、その技術を応用して、己の肉体の時間を操り、人は不老不死となった。

 しかし、その恩恵はわずかな人間しか得る事ができず、その恩恵を得るために人間同士による核戦争が起こり、世界は滅びかける。

 それでもわずかに生命は残り、数千年の時を経て回復していった。

 これは遥か遠い未来、科学技術の代わりに特殊な能力に人間も含めた動物たちが目覚めた世界。

 とある弱虫な少年と冒険好きな猫がタイムマシンを巡って、悪党たちと戦う物語……。


「できた!」

 僕は思いっきり伸びをする。ようやくパソコンのモニターから目を離す事ができるようになった。目がしょぼしょぼして、もうずっとこのまま目を閉じていたいぐらいだ。

『もう、あれから二週間の月日がたったな。卵ひとパックの賞味期限を切らすのに、十分な時間だ。俺もこの世界の技術は好きだが、しばらくテレビは見たくないぐらいだ』

 トールも疲れたように言う。基本的に彼は僕に憑いているだけなのだが、別に見たくないものを強制的に見せられる点については、憑いているだけの生活も楽じゃないのかもしれない。

 二週間前、僕は小学生に忘れてしまった過去を見せる魔法を使った。その時の事をヒントに、タイムマシンのシナリオを作りあげる。それが、今完成したのだ。題名は「C・Jキャット・ジャンプ」。僕にしてはなかなかの出来栄えだ。

 僕とトールが完成した事への喜びを分かち合っていると、黒髪を後ろで束ね、ペンギンの刺繍が施されたトートバックを肩にかけ、ボーイッシュな服装の女の子が僕の後ろから声をかけてきた。

「あら、田中君。ついに、シナリオが出来たのかしら?」

「あ、渡辺さん。そうだよ、読んでみる?」

 彼女は微笑んで頷き、僕の隣に座って読み始める。

 しばらく僕がボケっとしていると、何十分かして、彼女は顔をあげる。

「しかし、よく図書館で書けたわね。ここ一週間、パソコンを一人で占領できたものね」

「はは、うちでやれば、電気代がもったいないからね。……で、どうだった?」

 彼女は少し言葉を探してから答える。

「ストーリーはなかなかいいわよ。文章がちょっとあれかもしれないけど……、まぁ、何人かで台本にするから問題ないかしら」

『たしかになぁ。これじゃぁ、七、八歳が書いたような文章だよな、これ』

 感心したような渡辺さんの意見にトールが賛成の意を示す。さすがに、僕も口をとがらせてしまう。

「……うるさいなぁ」

「えっ、何かしら?」

「い、いや。なんでもない」

 トールに向かって呟いたのだが、渡辺さんは自分に向かって話しかけられたと思ったようだ。僕はあわてて誤魔化す。

 渡辺さんは「そう」と、気にしたような顔も見せなかった。あまり興味がなかったのか、それとも僕がときどき独り事を言う変な奴と思われているのかもしれない。

「それにしても、よく頑張ったよね。ここで……」

 彼女はあきれたように言い、僕に見せつけるように周りに視線を配る。僕らがいる場所は、図書館だ。図書館の中でも大きめな方で、自由に使えるパソコンが数台置いてある。図書館とは、みんなの物であり、僕の物だ。だから、その一つを僕が一週間、時間が許す限り占領してシナリオを書いたのだ。電気代もかなり浮いたはずだ。

「ところで、渡辺さんは何かシナリオを書いたの?」

「えぇ、書いたわよ。家にあるから、今度見せてあげる」

 満面の笑みで頷く彼女。どうやらシナリオに自信があるようだ。

「うん、今度見せてよ」

 僕は大仕事が終わり、気が抜けていた。

少しの間、読みたかった本を探したが、すでに借りられていた。図書館と言う存在は読者にとってお金がかからず、彼らのふところには優しいが、作家の大事な収入源を奪い取ってしまう悪魔みたいな存在なのかもしれない。

あきらめてパソコンに戻ろうとすると、薄茶のコートを着た男とぶつかってしまった。

 その際に、パソコンで最終確認しようと思って持っていたUSBを落としてしまう。

「すみません」

 男の顔にいら立ちの色が浮かんだが、黙したまま何かを拾うと、足早に立ち去って行った。

『感じの悪い奴だな。トオル、あんな奴のタマを蹴り飛ばしてやれ!』

 トールも同じ男なのに容赦がない。ちなみに、感じの悪さならトールとどっこいどっこいだと僕は思う。

 僕はUSBを拾いあげて、パソコンで確認する。

 所が、へそを曲げてしまったらしいUSBを読み込む事ができなかった。

「嘘! せっかく書きあげたのに!」

 僕はUSBの接触部分に息を吹きかける。スーファミはフーフーする事で、ゲームを復活させるという神の息吹なる技があるらしい。それが出来る人は一緒にゲームを楽しむ友達から尊敬されるそうだ。

USBにそれを試してみてから差しこんでみても、やはりダメだった。

「何がだめなんだよ」

 僕はUSBをじっと睨んでいると、へそではなく、接触部分が微妙に曲がってしまっているのに気がついた。

 ダメ元で反対に曲げてまっすぐにしてみると、幸運な事にUSBを読み込む事ができた。これから、機械類は丁寧に扱っていくと、僕はその場限りの決意を固める。決意と言うものは、ドライアイスみたいなものだ。白い煙をだして、とても存在感があるのに、いつの間にか消えてしまう。

 僕はパソコンでUSBを読み込むと、なにやらデータにロックがかかっていた。

「パスワードなんて、作ったけなぁ?」

 僕は適当に「クロネコクルクルどっとこむ」と打ちこむと、ファイルを開く事ができた。

「僕はこんなへんてこりんなパスワードを作ったのかなぁ?」

『ははん。お前以外には作りそうにないパスワードだな。』

 ファイルの中身を読んでみると、なんだか訳の分からない化学式や、実験データやらなんやらが並んでいて、僕の書いたシナリオでない事ははっきりしていた。

「な、なんじゃこりゃ!?」

『おいおい、さっきの奴の物と入れ替わったんじゃねぇのか? 急いで追いかけねえと、明日の部活に間に合わねえぞ』

 僕は急いでUSBを抜き、図書館の玄関へ急いだ。

『おい、あっちの方にいるぞ。黒い車とやらが止まっているだろ。もう少しで、乗っちまうぞ! 俺はまたテレビとにらめっこなんて、うんざりだからな!』

 僕はトールに返事もせずに、限界ぎりぎりで走る。

「はぁ、はぁ、待てー!」

 僕が男に向かって叫ぶと、男はギョッとしたように振り向いた。

 やっと追いついたが、息を切らして何も言えないでいた。

「お、お前は、なんだ?」

 ようやく息を整えた僕は、なんとか口を開く。

「はぁ、はぁ、あなた、USB……」

 そう言って顔をあげた僕は、男の顔をはっきりと見る前に腹を殴られた。

「『!?』」

 僕とトールは声にならないうめき声をもらす。声は僕ののどから腹の方に引っ込んでしまったようだ。

 それでも気絶しなかった僕に、今度は首の後ろに衝撃が走り、うずくまってしまう。

 気絶できずに呻いていると、車のドアが開く音がして、車内に引きずり込まれた。

『トオル!』

 トールの叫び声が聞こえたが、僕には何もできない。訳も分からないまま布のようなもので口を押さえられて、嫌な薬品みたいな匂いが鼻孔を満たす。

今度こそ僕の意識は闇に沈んだ。

 

◆◇◆◇


「あら。田中君、荷物忘れちゃって……」

 渡辺薫は彼が忘れてしまった荷物を手に取る。彼女はとりあいず図書館の中を探してみたが、見つからなかった。

「もう、帰っちゃったのかしら?」

 二階の窓から図書館の玄関口を見てみると、田中徹らしき少年が車に引きずり込まれる所が見えた。

 車はそのまま急発進して、どこかへ走り去ってしまった。残念ながら、ナンバーは確認できなかった。

 彼女は手の中にある荷物に視線を落とす、

「……これ、どうしたらいいかしら?」

 そう呟きながらも、彼女は返却口に向かった。彼女の相談は、図書館史上初の相談として図書館の職員の間で語り継がれることになるだろう。


◆◇◆◇


 頭が重たい。両の手首が冷たくずっしりと重い。僕は再び閉じそうになってしまう瞼を薄く開く。僕がいる部屋はコンクリ製ではなく、以外にも畳の和室だった。畳の上になげだされた両手両足には手錠がしてあり、よちよちとペンギン歩きしかできないだろう。

 徐々に頭がはっきりしてくるにつれ、腹と首の痛みを思い出す。気絶させるために殴ったのだろうけど、最初から薬で眠らして欲しかった。痛いのは嫌いだ。僕に特殊な性癖はないのだもの。

『トオル、頭は平気か? 腐ってないか?』

「うん、今の所はね……」

 馬鹿にしたようなトールの言葉には、僕を心配する様子もある。

 畳以外に何もない和室だったが、ファンシーな未来からきた猫型ロボットの柱時計が飾ってあった。時間はすでに六時。そろそろお腹が空いてきそうな時間だ。

「明日の学校まで、あと十五時間しかないな」

『明日の学校なんて、心配している場合か?』

 もちろん、そんな余裕なんてあるはずがない。僕がなんで襲われたのかも不明だ。

「何が悪かったのか。……あのUSBは暗号化された秘密の日記で、それを見られて怒ったのか」

『お前の頭が悪い。あきらか、何かヤバ気なデータだったんじゃねぇか』

 僕のおバカな疑問に、すぐさまトールが返してくる。

 僕はなんとか起きてふすまに向かおうとしたが、人の気配を感じてその場で横になる。

 ふすまがこすれた音を出して開き、薄茶のコート男が姿を見せた。その後からもう一人男が姿を見せる。黒いスーツに白いワイシャツ。クールビズだか知らないが、ネクタイはしていない。

 二人とも、人相を隠すためか真っ黒いサングラスをかけていて、不気味さに箔をかけている。

 僕は緊張してつばを飲み込もうとしてしまったが、緊張ゆえに口の中は舌が張り付きそうなぐらいに干上がっていた。

「お前は、どこの手のものだ? FBIか?」

「いや、どう見たって少年探偵団みたいなガキじゃねぇか。こいつは小林みたいな名前じゃねぇか?」

 二人の男は僕を見下ろし、薄茶のコート男が脅すような口調で尋ね、黒いスーツ男は不機嫌そうに言う。

 コート男が爪先で僕の腹を蹴ってくる。

「『うぐっ』」

 腹を走る鈍い衝撃に僕らは呻く。

「おい、お前! お前の目的はなんだ!」

 僕とトールは痛みに耐えながらコート男を見上げる。僕は怯えながら口を開く。

「ぼ、僕のUSBが入れ替わった、ようだから……」

「ははは……」

 僕の怯えた返事を聞き、スーツ男が肩を揺らして笑う。

「……って、お前の早とちりじゃねぇか!」

 まるでスイッチを切り替えたかのように、スーツ男の笑いが怒りに変わって隣に居たコート男を殴り飛ばした。

「ぶ、ぶえ、兄ギ」

「お前がドジッたからこうなった! 例の物を取り違えなくちゃ、このガキを捕まえなくちゃ、何もかもうまくいったはずだ!」

 スーツ男がコート男を二,三発殴る。

 殴り終えた男は、次に僕を睨みつけてくる。僕の番かと、僕の背筋は凍りつく。

「お前も、よくも俺たちの物とすり替えてくれたな! あんな、ガキみたいな落書きを誰が読みたがるんだ!」

「あぁー!!」

 スーツ男が僕のUSBを畳に叩きつけ、足で踏みつける……が、靴下で踏みつけたので、USBは壊れずに済んだ。ただ、僕とトールが不機嫌になる。

 しかし、それもつかの間。スーツ男に髪をむんずと引っ張られ、体が固まってしまう僕の耳に口を近づける。

「USBはどこだ!?」

「し、知らない。……手に持っていたけど、襲われた時に……」

 それだけ言うと、スーツ男は僕を乱暴に離した。

「やっぱり、手前のミスじゃねぇか! こいつの持ち物ぐらい、確認しとけ!」

 コート男は「すみません」と情けないほど卑屈になる。

「はぁ、しかし、やっかいなのは、こいつをどうするかだな」

「口封じに、殺しますか?」

 物騒な相談を始めた二人に、僕はじっとしているほかに何もできない。

 スーツ男はしばらく考えていたが、やがてゆっくりと首を振る。

「いや、死体の処理をどうするか考えてからでないと……。今回も、お前の計画性の無さが失敗の原因だ。死んだ奴を生き返らせるのは無理だが、生きている奴はいつでも殺せるからな。とりあいず、ボスに連絡だ。こっちの首が飛ばねえように、しっかりと押さえていねぇとなぁ」

 一旦、二人は相談しながら部屋から出て行った。

『……こりゃどうする。ひさびさのピンチだ……』

 トールの危険をおもしろがっているような声に、僕は何も言い返せなかった。


 学校が始まるまで残り 〈14時間23分56秒〉


「どっひゃー! いつもに増してギリギリなトオルです。なんだか、今までで一番ひどい話になりそうな予感。ひどい話と言うのは、お話の内容が陳腐になりそうという意味です。もしかしたら、作者がこの話をなかったことにしちゃったりして……。そうしたら、僕って殴られ損? ひどい目にあうなら、もっとカッコよく活躍したいものです。

では、今日はここまで。次回をお楽しみに」

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