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第20唱 再会はいつだって唐突である

「シンちゃん、お疲れ様。アパートまで送って行くわ。車に向かうわよ」

「はい、ありがとうございます」

 一日の仕事が終わり、車の中でようやく緊張をほぐせる。もちろん、私は中学一年生で、八時より遅くなる仕事はほとんど無い。今日も六時に終わった。それでも、仕事、仕事、仕事、たまに勉強していれば、疲れてしまうのも当然だ。

もちろん、私は、アイドルをやって、なおかつ勉強とスポーツも万能! ……なんてマンガの中の超人みたいな存在ではない。テストも出席日数もぎりぎりのボーダーラインに、ダイビング滑り込みセーフな状態だ。ただ、スポーツに関しては、それなりに自信はある。美容の為に、それなりに鍛えてはいる。

 そんな、勉強が絶望的ではあるけれど、最近は光明がわずかに見えている。

 私は現在、大学生である従兄の小百合(さゆり)姉さんのアパートに住んでいる。

 父は、仕事で東京に移れないので、私だけ従兄のアパートに引っ越した。母の情報によると、父は毎日のようにアルバムを眺め、『シンちゃんグッズ』をひたすら集めているそうだ。

ちなみに、従兄を小百合姉さんと呼ぶようになったのは、小学四年生の時、彼女にお世話になるようになってからだ。彼女曰く、「世話になる人をいたわりなさい」との事だ。彼女の事を、姉さんと呼ばなければ、私の存在をOTAKU達にばらすそうです。私はOTAKUとのカラオケ大会を緊急回避するため、彼女を怒らせないように過ごす。

 母は週に一回ぐらい私達の部屋を訪れて、肉と野菜たっぷりのカレーを作ってくれる。カレーばかりで飽きそうだが、「カレーは肉と野菜が取れるし、日持ちだってするのよ」だそうだ。もちろん、文句はあるが、料理が出来ない私達に拒否権はない。

 えっと、何の話だっけ? ……そうだ、勉強の話だったね。もちろん、小百合姉さんが勉強を教えてくれる―わけが無い。彼女は現在、大規模なIT企業の若手エリートとの交際に忙しい。相手の家はそこそこの土地を持っていて、そこへ玉の腰を狙うらしい。小百合姉さんは、自分が幸せになるためになら、努力を惜しまない人だ。勉強以外で。

 小百合姉さんがあてにならないのであれば、いったい誰が私に勉強を教えてくれるのでしょうか!?

 それは、幼馴染の鈴木黄麻(おうま)である。彼は、親の転勤で、東京の学校に通う事になのだ。電車で三十分ぐらいかかるのだが、彼は快く私に勉強を教えに来てくれる。明日は二回目の約束である。

しかし、彼もまだ中学生で、夜遅くに外を歩かせるのは心苦しいけど、ロースにカルビは代えられない。……なんか、おなか空いてきちゃったかも……。まぁ、彼が私に勉強を教えてくれる事を、彼の両親は理解してくれているので、彼らの善意に甘えましょうか。

私が幼馴染の黄麻の事を考えると、決まってもう一人の幼馴染を思い出す。トオルの事を……。

私の両親と黄麻の両親は仲が良く、物心がついた時には、私達は一緒だった。

そしてトオルは、私達が小学校に上がる前に、近くへ引っ越してきたのだ。

いつも一人だったトオルと、私達二人は仲良くなった。トオルと遊んでいて、彼のお父さんに一度も会った事は無く、トオルも自分のお父さんがどんな仕事をしているいのかを知っている様子はなかった。

私達はいつも三人だった。

帰り道の交差点で「一緒に帰ろう」って声をかけたり、一緒に花火を見たり、冒険も色々して、秘密基地で遊んだり、……なんか、パクリっぽいな? 思い出話しもここまでにして、知らんぷりしましょうか。十年後の夏に再会しようなんて約束は、決してしていません。

私は、アイドル活動のため、小学四年生の時に引っ越しをしてから、トオルに会っていない。電話や手紙のやりとりも、一度もした事がない。最近黄麻に聞いた所、トオルは小学校を卒業して、すぐに引っ越しをしたそうだ。その時のトオルも自分がどこに引っ越すのかも知らなかったようで、戸惑っていたみたい。黄麻は苦笑いをしながら、「まるで夜逃げのようだね」と言っていた。もしかしたら、彼の父親の仕事は堅気でないのか、あるいは社会の裏を暴くための国家機関で働いているのかもしれない。日本版FBIかもね。映画の見すぎだろうけど。

つまり、私も黄麻もトオルと連絡を取る事ができず、私達が再開する事は難しいのかもしれない。ひょっとすると、十年後の夏までかかるかもね。

ごほん、訴えられないように、この話はここまでにして、別の話しにしましょうか。

アイドル活動をして、一流の歌手を目指している安奈と、鏡の私であるアンナの物語を……。

それは、私が小学六年生の十二月のクリスマスの時の事だった。


◆◇◆◇◆◇


小百合姉さんは彼氏とデートで、朝まで帰って来なかった。クリスマスなんて、絶好のチャンスを彼女が逃すはずがない。

「何で、歌いたいように歌えないのよ。……もうすぐ、アイドル始めて二年目なのに、三人で作った歌を一度も歌えないじゃない……」

アパートに戻って来た私は、アイドルとしての自分に疑問を持っていた。昔は、歌手に憧れていた。ステキな曲で、読み返せば読み返すほど輝く歌詞で、綺麗な歌声で観客を魅了する。決して、自分を偽り、ファンに笑顔を振りまくだけの存在ではなかったはずなのに……。

私はむしゃくしゃして、夕食をやけ食いした。もちろん、肉とかではなく、野菜をやけ食いした。アイドルしての生活が、板についたようだ。イライラしていても、食生活に気を使ってしまう。

「ごくごく、……げっほ、ごっほ!」

 きなこ牛乳を一気飲みしたのだが、きなこの量が多すぎて牛乳とうまく混ざらず、その粉っぽさにせきこんでしまった。苦しくて、涙が出て来る。

「もう~! なんで、うまくいかないのよ!」

私が指で涙をぬぐった時だった。

『泣かないで。生きていれば、きっと良い事があるわよ』

「はりゃ? なんか声が聞こえたようなぁ?」『しまった!』

 不思議な声がしたので、私は部屋を見渡すが、周りに人は見当たらない。

「あれ? 私ったら、幻聴でも聞いたのかな? いくら寂しいとはいえ、幻聴を聞くほどとはねぇ」

『そ、そうよ。幻聴よ。あなたは幻聴を聞いたのだわ』

 慌てた声が、私の考えに賛同する。

「いや、ちょっと待て。幻聴がそう何度も聞こえるわけないし、私の言った事に返事をするわけないでしょ」

『そ、そう言われれば、そうねぇ』

 謎の声はかなりの天然さんのようだ。

「声は聞こえるのに、姿は見えない」

 私は緊張して辺りを見渡す。そして、一つの回答が頭の中に思い浮んだ。

「もしかして、|愛の聖戦士(OTAKU)がオーラの力を駆使して、カメラとマイクをセットしているんじゃないでしょうね」

『いえ、良く分からないけど、私はそんなものでは……』

「じゃぁ、自分達の世界を救ってと私に頼み込みにきた妖精さんね。言っておくけど、私は歌手を目指していて忙しいの。異世界で勇者なんて、やっていられないわ」

 私は空中に向かって、「シッ! シッ!」と、手を振る。

『おしいけど、違うわ。それに、あなたに勇者をするよう頼みに来たわけでもないのだけれど』

「ふーむ、格なる上は……、分かったわ! あなたは、一流の歌手が死んで未練を残した幽霊ね! それで、私が一流の歌手になれるように助けてくれるとか! そして、私はZA●D再来の伝説となるのね」

『……それは、あなたの願望だと思うけど……』

「そう、彼女は永遠の歌姫なのよ! 例え、モーツァルトが忘れ去られても、彼女の魂は人類が滅びるまで生き続けるの」

 私の熱い口調に、不思議な声は困り顔で言う。まぁ、顔は見えないから、私の想像だけど。

『まぁ、まぁ、落ち着いて私の話を聞いてね。少し長くなるけど、いいかしら?』

「え~、私は夜十時前には寝なくちゃいけないの。お肌を守るためにね。だから、四十文字以内で説明して」

『えっ! そんな!』

「いまので、五文字ね。感嘆符は勘弁してあげるわ」

『……。私はアンナ・S・ガーワラー。異世界から、この世界に事故で来てしまったの。あなたに、私が元の世界に…「はい、四十文字をすでにオーバーしたわ。話しはまた今度ね。おやすみなさい」…ちょっと!』

 私は布団の中にもぐりこみ、ニ,三分で眠りに堕ちた。

 その後、私はちょっとだけ、話を聞いた。ただ、彼女は天然だし、私もアイドル活動で忙しいから詳しくは聞いていない。

魔法の存在を聞いた時、魔法について教えてもらったのだけど、上手くいかなかった。何度か歌を歌っているのだけど、全く成果を見せない。ようやく、今年の三月に入ってから、テーブルの上にある鉛筆をこちらに転がす事ができた程度だ。


◆◇◆◇◆◇


「……ねぇ、シンちゃん、アパートに着いたわよ。どうしたの? 疲れているでしょうし、しっかりと休みなさい。体調を整えるのも大事なお仕事よ」

「あ、あ、うん。分かった。ありがとうございます」

 村上さんの声に、私は我に返った。

「それにしても、あまり良いマンションでは無いわね。もっとセキュリティのしっかりした所に移らないの? ファンやストーカーが心配だわ」

 村上さんは渋い顔をして、車内からマンションを見上げる。

「いえ、両親とは一緒に住めず、従妹と暮らしているの。ご心配なく」

「そう。なんだったら、うちに住む? 夫がいるけど、忙しくてなかなか帰ってこられないし、あなたの生活の面倒も見やすいわ」

 村上さんは心配げに聞いてくる。色々と厳しいようで、結構面倒見が良い人だ。

「いえ、今のところは大丈夫です。従姉はしっかりしていますし(自分の利益に関しては)、大丈夫ですよ」

 私は笑って彼女に手を振る。村上さんは、心配げな顔をしながらも、車を発進させた。

「ふぅ、食べるものに気をつければ、スーパーの御惣菜や冷凍食品でも大丈夫でしょ。小百合姉さん、ずいぶんと買い込んでくれたし」

 私はマンションのエレベーターに向かおうとする。

『あれ? ねぇ、安奈。あそこに黒猫がいるわよ。三匹も』

「えっ? 三匹もいるの?」

 私が視線を横に向けると、暗かがりに黒い子猫が三匹いた。

「本当ね。階段を上がって行くけど、誰か飼っているのかしら? このアパート、ペット厳禁だけど」

 私は好奇心が押して、三匹の子猫の後を追った。ある程度近づくと、子猫達は立ち止って私の方を振り返る。

「あら、ばれちゃったかな」

 私は子猫達に警戒心を持たれないように、立ち止ってそっぽを見る。すると、子猫達は私に興味を失くしたのか、何事も無かったかのように歩きだす。

『ここに住んでいるのかしら?』

私は再び子猫達を追う。幸いにも、小走り程度で追いつけるスピードだった。

 このアパートは七階まであり、アパートの住人はたいていエレベーターを使う。ここの階段は狭くて、一段一段が高めで、人に優しくない構造だ。全力で駆けのぼれば、ぐるぐる回って目を回す事は確実で、バターになってしまうかのようである。

 私は子猫達を追って、二階、三階と登って行き、六階にまで辿り着く。

 私が六階の廊下でキョロキョロ子猫達を探していると、アパートの一室の前に三匹がいた。

 私は差し脚、抜き足、忍び足で三匹に近づく。

 あと少しで五メートルぐらいの所まで近づいた時だった。

 ガチャッと、金属がこすれるような音をたてて、三匹がいる所の扉が開いたのだ。

 私がビクリとして立ち止っていると、私と同じ年頃の男の子が出てきた。男の子は私に気づいていない様子で、子猫たちに押し殺したように話しかける。

「……全く、誰かに見られたらどうするんだよ。……えっ、もう遅……」

 男の子は一瞬、ビクリと動きを止め、恐る恐るこちらに顔を上げた。

 私と彼の視線が交わる。私達は数秒間そうしていた。

 私の心臓が少しだけドキドキする。そう、彼は……。

「あ、あなたは……」

 私が彼を呼び掛けた時、彼も声を上げた。

「い、いや、その、こいつらは野良猫なんだ。け、けして、僕が飼っているわけではなくてね。そのね…・・」

 彼は手を振りながら、言い訳をしだした。

「ねぇ、あなた……「いや、たまに餌をあげる程度なんだ」……」

 私が声をかけても、言い訳を続ける。言い訳ばかりで男らしくないこの男の子は……。

「トオルでしょ!」

「いや、そのこいつらは……はい?」

 トオルはキョトンとした顔でこちらを見てくる。

「だから、あなたの名前はトオルでしょ!」

「君は……、もしかして安奈!?」

 お別れをしてから二年後の春の夜。アパートの一室の前で、黒猫に導かれるように私達は再会した。


◆◇◆◇◆◇


 安奈と話をしている、私達と同じ年頃の男の子を見た時、私は声をあげる事もできなかった。いや、元々声を出せないけどね。

 彼の鴉の羽のような黒髪とその瞳。雲のように色白の肌。弱弱しい雰囲気があったけど、私の愛しい人に瓜二つだった。


 ◆◇◆◇


 トオルと話をしている女の子を見た時、俺はトールをからかう事もできなかった。

 髪は栗色ではなく、黒であり。瞳は草原色ではなく、夜空のように黒かった。しかし、彼女の顔立ちは、俺の会いたい人に瓜二つだった。


(そう、彼女は俺が愛している人の……)


(そう、彼は私が、ずっと会いたかった人の……)


((―「魂を共有する者」―))




 二人の友達と、二人の恋人は再会を果たした。

 しかし、運命の恋人は、まだ自分たちが再会した事に気が付かなかった。いつ、二人が本当の意味で再会するのは、神のみぞ知る事である。


「みなさん、こんにちは。アイドルである安奈を心から支える、アンナ・S・ガ―ワラーです。安奈の話によると、この世にはお湯を注ぐだけで完成する料理があるそうなのです。私たちも一度食べてみたいと言った所、「体に悪い」と言って、安奈は食べてくれませんでした。もしかしたら、心身を悪魔にささげてしまうようなものかもしれませんね。そんな危険なものを彼女にねだれません。はぁ、でも、いったい、いつになったら彼に会えるのかしら。はぁ。まぁ、これからも頑張ります。みなさん、さよなら!」

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