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第17唱 人は数に流される

 じかんは、やのように、ビューンっと、すぎていくのかな。それとも、みずたまりのように、どこにもいけず、にごって、とまったままなのか。

 ぼくはかがみがきらいだ。ぼくはじぶんのかおをみたくない。

 ぼくのかおは、おにんぎょうさんのようになにもない。

 ぼくのくろいめは、ビーダマみたい。くろいめのおくは、からっぽのようなきがする。

 おかあさんはいない。

 おとうさんも、いえにいつもいない、ずっとでかけている。

 なんどもなんどもおひっこしもした。

 でも、それをかなしいっておもわない。

 ぼくはずっとへやのなか。さよならをする、ともだちもいないから。

 ぼくはへやのなかにただいるだけ。

 ただ、いるだけ…………。


 でも、さいきんは、ぼくにかまってくる子たちがいる。

 おんなの子とおとこの子。

 たべものをかいにおそとへでたときにあった。

 ふたりがぼくにはなしかけてくる

『『とおる! 朝ごはん!!』』

「うわっ!!」

 僕はビックリして飛び起きる。どうやら、僕は夢を見ていたらしい。僕は寝ぼけた頭を振る。

「しっかし、ずいぶんと昔の夢をみたなぁ」

『早く、早く! 御飯だよ、ごはん!!』

 感慨にふけっていると、エルフィーとラジーがエサをねだってくる。

『まったく、二人ともはしたないですわ。紳士淑女はお食事にガッツクものではありませんわ』

『なら、マリーは朝ごはん食べないの?』

『どうしても、と言うのなら、食べてもよくてよ』

 彼女も朝ごはんを待っているようだった。

「はいはい、今用意しますよ」

 僕はふと時計を見る。

「ま、まずい! 遅刻だ!」

 僕は急いでパジャマを脱ぎ棄て、着替える。ヤッ●ーマンも顔負けのスピードだ。

『とおる! ごはんは? ごはん!?』

「あぁ、もう! 時間がないのに!?」

 僕はキャットフードの箱を乱暴に開け、三皿一杯に盛る。

「朝ごはんと、お昼ごはんはそれで済ましてね」

『は~い!!』『ふぁ~い!!』『よろしくてよ』

 三匹がニャーっと鳴いて返事をする。

『でも、貧相なお食事ですこと。お昼はお肉屋さんに行きましょうか?』

『僕は、僕はお魚屋さんでまぐろが食べたい!』

『僕は、料亭でふぐが食べたいんだなぁ。ふぐの肝は料理人さんが独り占めしているらしいんだなぁ。一度でいいから、たらふく食って、ごろごろしたいんだなぁ』

「ラジー! 君は永久にごろごろするつもりか!!」

 ラジーの危険極まりない発言に突っ込みながらも、僕は仕度をする。三匹の相手をしている暇はない!

「さてと、行ってきます!!」

 僕はノンオーブントースト(=生食パン)を口にくわえて走る。

『おい、とおる。瞬間移動の魔法は使わないのか?』

(うん、走ればなんとか間に合いそうだしね。魔法は使わないにこした事はないよ)

『俺としては、どんどん使ってくれると助かるのだがな』

 僕はトーストを加えているため、トールとは心の中で会話する。トールは僕の中に居るので、口にして会話する必要はない……のだが、慣れないのでどうしても口にして会話してしまうのが常だ。

『おいおい、早く走らねぇと遅刻するぜ。魔法を使って方がいいんじゃないか?』

 僕はトールを無視して、駆ける足を速める。

こういう時の主人公は、かわいい女の子とぶつかって、桃色スクールライフを送るフラグが立つのだが……。

 僕は十字路を走り抜けようとした。

 ドン!!

 お約束通り、僕は十字路から飛び出してきた人影とぶつかってしまった。

「い、痛い……」

 僕は腰をさすりながら起きると、僕の目の前には熊のように大きい高校生が道路の上に倒れていた。

「嘘!!」

 高校生は上着とズボンのすそがボロボロで、口に葉っぱを加えている。絶滅危惧種である番長という生物らしかった。

 フラグはフラグでも、女の子とぶつかって仲良くなる恋愛フラグではなく、番長に追い回される死亡フラグでした。

「う……いってぇなぁ……。テメェ!!」

「やばっ!! ごめんなさい!!」

 僕は謝ると同時に走りだし、十字路という十字路をとにかく曲がって逃げる。

『たいへんだなぁ、トオル。魔法で学校に向かったほうがいいぞ?』

 トールがにやにやしている顔が思い浮ぶ。僕をせかしたのも、こうなる事が分かっててしたのかもしれない。

 背に腹は代えられない。僕は走りながらも、精神を集中させた。

「ぜぇ、 地獄の鐘が、はぁ、キーンコーンキーンコーン、ぜぇ、悪魔の声がぁ、キーンコーンカーン、ぜぇ、どうしたらいいの? はぁ、なんでもいいから助けて、ぜぇ、あの地へつれてって♪」

 僕は息絶え絶えになりながらも、遅刻しそうな時に学校へ瞬間移動出来る『遅刻しちゃうよ!』を歌った。

『うぉ~!! 短縮呪文(ショートスペル)じゃねぇか!? トオルと同化した三週間前は、俺の人生は終わったと思ったが、ここまで上達するったぁ、すげぇじゃん!』

 幸いにも誰にも見られていない時だったので、思いっきり瞬間移動の魔法を使った。逃げる僕の体は眩しい光に包まれた。

「待ちやがれ!!」

 曲がり角の向こうから怒った声が聞こえた時にはすでに、僕は一筋の閃光となって、大空へ飛び出した。



「あれ? 何かしら、あの光……」

 渡辺薫は蒼い空を見上げる。

 流れ星のように細い光の筋が尾をひいて、一瞬で消えて行ってしまう。空には太陽が昇っていて、光の筋は見えにくく、姿を見たのも一瞬だけだったが、そこに確かにあった。

「……UFO? それとも……、誰かが瞬間移動していたりして……」

 しばらく驚いた彼女だが、笑って首を振った。

「……まさかね、この世界にそんな事できる人は……」

 彼女は足を止め、顔を陰らせてうつむく。

「ギン……」

 ぽつりと呟くが、彼女は内側に沈む思考を振り払った。

「あっ、いけない! 急がないと遅刻しちゃう」

 彼女は学校に向かって走り去った。


◆◆◆◆


 僕は屋上の鍵を忘れずにかけ直してから、教室に向かった。

「よう! おはよう、田中」

「おはよう」

「ちわ~」

 前の席に座る清水が、後ろを振り返って挨拶する。彼の席にはアイフォンを持ったコント・トリオがいた。

「田中! やっぱり、AKBよりシンちゃんの方が断然かわいいよな!?」

「いやいや、訳のわからないアイドルより、AKBの方が断然上だよな?」

リーダーが凄い勢いで聞きてきた。しかし、僕が答えるよりも早く清水が聞いてきた。

「僕は……その……」

『ふん、下らない事で言い争っているな』

 トールからしたら、自分以外の全ての人間は馬鹿だと思っているのかもしれない。

「AKBなんて、可愛い子をステージに並べただけじゃねぇか! 等身大のリカちゃん人形をずらり並べたようなものだ!」

(いや、等身大のリカちゃんを並べたら、なんだか凄身があると思うけど……。)

「いや、キショイ男たちが「萌え萌え」言っているアイドルのどこが良いんだ? 一部の人間だけでなく、男も女の幅広く愛されるのがアイドルっていうものだろう?」

「ふん、数は関係ないね。人は人気があると宣伝されれば寄ってくるものだ。ベストセラー本、ナンバーワングルメ、ベスト観光地! 半数ぐらいは流行に乗り遅れたくないだけで、マスメディアに踊らされているんだ。世間は数に流されているだけだ!」

「そうだ! そうだ!」

 激昂するリーダーに、チビが賛同する。見事なまでの脇役っぷりだ。

「世間は数だよ! 山根君(リーダーの名前)」

「くっ! 資本主義の先兵めぇ!」

 リーダーが机を叩く。

「アイドルの話から、なんでそんな話になるのか……」

『まぁ、どっちも馬鹿だな』

 僕はため息をつき、トールはあきれている。

「あ、そうだ、田中。ニュースだよ、ニュース!」

 リーダーが僕に話しかける。さっきまで激昂していたのに、ずいぶんな変わりようだ。

「シンちゃんの噂だよ。う・わ・さ! 田中は聞いたか?」

「な、何?」

 話しこんできた彼に、僕は少しひく。

「シンちゃん、ここらへんに住んでいるらしいぞ。もしかしたら、ここの近くかもしれない」

 コント・トリオが色めき立つ。

「もしかしたら、俺と同じマンションに住んでいたりしてなぁ。遅刻しそうになって走る俺と、スタジオに急ぐシンちゃんがぶつかってフラグがたつとか?」

 うん、とっても慨視感(デジャヴ)がある。僕が立てたフラグは番長とぶつかる死亡フラグだったが……。

「そんな事あるわけないだろう。お前、夢見すぎ」

『たしかに、こいつは妄想で米を食えそうだな。梅干を見るまでもない。こいつは、落語のネタになりそうだな』

 トールが馬鹿にしている事に気がつかずに、リーダーは清水に反撃する。

「ふん、お前は同じマンションに住んでいても、AKBを普通の女子高生と勘違いしそうだな」

 二人が火花を散らす。

滅茶苦茶無意味に敵意をほとばしる。

男子中学生の青春の半分は馬鹿で出来ているのだ。

『やれやれ、だな?』


◇◆◇◆


 学校と部活を終えた僕は帰路につく。部活では、結局ミュージカルのシナリオは出来ず、

再来週の月曜日に延期になった。なんでも、アキバで大流行のコミックのアンソロジーのシナリオを部長がビリビリに破ったのだ。著作権問題でコーラス部が廃部になる日も、そう遠くないかもしれない。

 少しお腹が空いた僕は、学校に一番近いコンビニに入る。

「おっ! シャンデーが置いてある」

 僕はマンガ雑誌を立ち読みする。これぞ、コンビニの醍醐味だ。

 やる気のない店員は、僕を注意する事もしないで、ただボケっとしている。

「あら、田中君。クスクス笑って、大人な雑誌でも読んでるの?」

「うわっ」

 僕の隣にはいつの間にか渡辺さんが立っていて、彼女は妖艶にほほ笑む。

「い、いやだな。マンガ読んでいたんだよ」

『おい、トオル。大人な雑誌とはなんだ?』

 トールの事は無視する。

「別に、ごまかさなくたっていいわよ。だって、男の子だもん♪」

 絶対にからかっているよ、この人。

 僕は少し顔を赤らめながら、マンガをおく。別に、アダルト雑誌でなくたって、マンガ雑誌を立ち読みするところを知りあいに見られているのも少し気になってしまう。

 僕は黒猫たちへのお土産にビーフジャーキーを手に取った後、自分のおやつにシュークリームを取ろうとした。

「あっ!!」 ボテッ!

 シュークリームを床に落としてしまった。

「あらら」

 渡辺がシュークリームを拾い上げた。

「だめよ、そんな乱暴にしちゃ。……皮からはみでちゃったわね」

『ありゃりゃ、もったいねぇな』

 彼女の手にある袋の中は、内側にクリームがべっとりついている。

「こりゃ、責任を取らなくちゃいけないわね……」

 彼女はシュークリームの残骸を僕に手渡す。

「うん、そうだね」

 これは、幸先悪そうだ。まるで、僕の未来を暗示しているようだ。被害妄想だろうけど。


「よう!最近、題名に使う格言に疑問を持ってきたトールだ。全く、作者は意味ありげに意味のない格言を作りまくるよな。ほんとに無駄の好きな作者だ。以前に出した次回予告が役に立ったと思ったら、ホントにただの無駄だしな。こんなの伏線にならねぇよ! こんなんじゃ、物語の進み方も、かめより遅くて、なかなか核心まで辿りつかねぇ。早くこの物語を終わらせて、元の世界に帰りたいぜ。

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