第10唱 真実とは時に残酷
このシリーズのマスコットキャラが登場!3匹の名前、募集したり、しなかったり。
コントトリオとアイドル話に花を咲かせた日の放課後。
僕はコーラス部の活動に勤しんでいた。
「よっしゃー、ミュージカルに向けて気合いれたるでー!!」
部長の鋼先輩が声を張り上げた。
歌の練習をした後、3カ月後のミュージカルに向けて色々と決めるらしい。
「みんな、どんなお話が良いか、提案シイやぁ!!」
みんながざわめいて相談し合う。
「シンデレラや赤ずきんちゃんは?」
「インパクトが足りん!」1年女子の意見に鋼先輩が首を振った。
「シャーロック・ホームズ!!」「どうやってミュージカルにするや。」
ホームズが歌って、踊って、名推理を繰り広げる。そんなミステリー舞台なんて出来るわけないじゃないか!
「キューティーハニー」「セーラムーン」「プリキュアはどうだ!」
「却下!!」鋼先輩が大声を出す。
ちなみにその三つを言ったのは、女子ではなく、2年男子のオタクっぽい先輩である。ご丁寧に古い順番に並べられた。
「何かえぇアイディアはいねぇ~がぁ~。」
鋼先輩がなまはげっぽくなった。
「何かアイディアがあればねんでもえぇ。別にオリジナルの話でもえぇやん。」
いきなりオリジナルの話の方が難しいと思うけど、と僕は思う。
オリジナルの話かぁ、偉大なる賢者様、ことトールを物語にしたら凄そうだ。小説にしたら売れたりして。ただ、まだ物語が完結していないのが痛いけど。ていうか、きちんと完結するのかなぁ?ハッピーエンドなら良いけど。テレポートしたり、勇気や穴掘り、色々な魔法を覚えたけど、地味なファンタジー小説になりそうだ。なんていうか、一番最初の魔法が便秘回復魔なんて終わっていると思う。
そんな事を考えていたら僕は昨日拾った3匹の黒猫達の事が思い浮んだ。
「黒猫・・、」お腹すかしているかなぁ、と僕は思った。
そんな僕の呟きを鋼先輩は耳ざとく・・、いや、鋭く耳で捉えた。
「黒猫?・・よし、黒猫を主役にしたいわ、劇団四季っぽいし。1年、お前はストーリーとか考えられるか?」
鋼先輩がビシッと僕を指差した。
僕はキョトンとしてから周りを見渡した。
みんな僕の事を見ている。
僕が右に歩くと先輩の指と視線が右へ向き。
僕が左に歩くとみんなの視線が左へ向く。
僕はようやく絶対絶命のピンチに気が付いた。
「ぼ、僕?ちょっと、無理ですよ。」
僕はあわてて首を振る。今の呟きは別にアイディアでは無いです。
「大丈夫や、試してみるだけや。来週までにあらすじを書いてきてみぃ。私も話を考えてくるから、お前さんのが良ければ採用、駄目だったら私のを使うつもりや。気楽にしいとき。」
鋼先輩は胸をドンと叩く。頼りになる姉さんって感じだ。・・・僕は迷惑だけど。
「あのぉ、僕は・・」「(鋼先輩)ミュージカルは3カ月先だから今日はここまで。みんな、頑張ろうやぁ!!」僕の意見は素晴らしい程きれいに流された。
僕が茫然としていると、帰りの際に、渡辺さんが話しかけてきた。
「すごいね、田中君。ミュージカルのストーリー製作に関わるなんて。」
「いや、僕は・・」「じゃぁ、頑張ってね。楽しみにしているよ。」「・・いや、楽しみになんて・・・」渡辺さんも行ってしまった。
僕は去る渡辺さんを眺めながらポツリと呟きをこぼした。
「どうしてこうなるんだろう・・・?」
『お前がヘタレだからだろう。』
賢者様は僕に真理をお授けになられた。真実とは時に残酷な物だ。
「ただいま。」
「「「にゃぁ。」」」
にゃん子の声がハーモニーを奏で、癒しの三重奏となった。
子猫達が玄関で出迎えてくれた。めちゃくちゃラブリー♡
僕は猫達の姿に癒され、まるで天国にいるようだった。
「さてと、ミルクをあげなくちゃ。お腹すいちゃいましたでちゅよねぇ。」
僕は猫バカ病を発症したようだ。こんな病ならば大歓迎だけど。
僕がリビングの扉を開いた。
僕は唖然とした!
新聞がビリビリに破かれて散らかっている。
物が床に散乱している。
花瓶は倒れて、床はビチャビチャ。Etc…
とにかくカオスな状態だった。
僕は腹が立って猫達を睨みつけた。
猫達は無邪気で穢れ無き黒い真珠のような目で僕を見る。
・・・なんか、ここで怒ったら僕が悪いみたいじゃないか・・・
「泣きっ面に蜂ってことかい?」僕はため息をつく。・・・・
―79分4秒経過後―
僕は泣く泣く片づけをし、ようやく終わった。
「「「にゃーン」」」
子猫達は僕の苦労など知らん顔をし、餌をねだって鳴く。
「まったく、ギャグ漫画のツッコミ役はこんなやるせない気持ちなのかなぁ?はぁ、・・・僕は物語の主人公になれない体質なのかも。」
僕は餌を食べる猫達を見つめながら呟く。
『悔しかったら、自分でその場の主導権を一秒間だけでもいいから握りやがれ!』
僕は、僕の主導権を御奪いになられた偉大なる賢者様に、海より深きありがたいお言葉を頂きました。
「はぁ、どうしたらいいかな?お父さんや管理人さんに見つかったら大目玉くらうかな?」
二人が不気味な光を目から放つ光景が僕の網膜に焼きつく。
『隠し通したらどうだ?』
「気軽に言わないでよ。そんな事が出来たら苦労しないよ。」
僕はトールの無責任な言葉に口をとがらせる。
『はん、俺の言葉を疑うのか?とおるのクセに! この俺様、偉大なる賢者様の辞書に『不可能』という文字はねぇんだよ!』
「あぁ!今『不可能』って言ったよね。一応、君の頭の中には『不可能』という言葉はあるんだ。」
『屁理屈こくな!このヘッポコ野郎!ボケなす!おタンコなす!焦げなす!』
トールの怒鳴り声が僕の脳内を何度も反響して響いた。僕は思わず耳を塞ぐものの、僕の脳内に直接響くので意味は無い。・・・どうでもいい事なんだけど、焦げなすとはなんだろうか?・・・本当にどうでもいいけど・・・。
僕の頭の中で喚き続けた賢者様もようやく落ち着きになられたご様子でした。
『話を元に戻すが、その猫どもをお前の使い魔にすればどうだ。使い魔として魔力と知恵を授けて、お前の言う事を聞かせるんだ。人に見つかりそうになったら隠れるように言いつけると良い。』
「そうか!セー●ムーンの黒猫みたいな物か!それは良いかもしれないね。」
僕は手をポンと叩く。
トールは僕の言った事が分からなかったようだ。うーん、・・・・中学生なら、中学生らしく魔女の宅配●の黒猫に例えた方がよかったかな。異世界からきたトールにはどちらも分からないとは思うけれど、読者のためにもそうするべきだったみたいだ。
「さてと、そうと決まればどんな歌が良いのかな?」
僕は3匹を使い魔にするための歌を考えた。
人を助ける猫かぁ、まるで長靴をはいた猫みたいだ。
猫が話をし、人を助ける物語はいくつか知っているけれど、間違ってもチェシャ猫みたいなのは嫌だな。3匹がにたにた笑って僕を馬鹿にするなんて耐えられない、そんなのトール一人で十分だ。
『何か、失礼な事を考えなかったか?お前の頭の中を積極的に覗こうとはしないが、お前の残念な空っぽおつむを、気を付けなければ、俺には見えてしまうんだぞ。』
「いえ、滅相も無いです。」
トールの厳しい声に僕はとぼけた。
トールとそんなやり取りをしながら僕は必死に考えた。
僕は自分の頭の中にある物に形を与えるため、そっと目を閉じ、自分の心を見つめ直した。
難しく考える必要はない。ただ、自分の中に有るものを掘り起こして行くだけ。
彫師はこんな事を言っていたような、言ってないような。「仏様を作るのではない、ただ木の中にいらっしゃる仏様を掘り出すだけだ」だと。
その話を聞いた時は良く解らなかったけれど、トールと出会い、魔法を使うようになった今なら分かる。
魔法の歌は、自分の心を歌詞にするだけ
魔法の歌は、自分の気持ちを曲にするだけ
魔法だけではない
何かを作る事も一緒
何かを成そうとする事も自分の心に従って行動に移すだけ
誰かに思いを伝えるのも同じ事
僕は心を鎮めて、己の心の真実を探る。
僕の心の中、その深奥には広大なる宇宙が広がっていた。
そこには輝く星が散りばめられているが、僕以外に一匹の生き物もいない。
美しく、同時に凍えるような広大なる宝石箱。
とても雄大で、とても輝かしく、そして寂しい所。
僕は一人なのだろうか
・・・・いや、そんな事は無い。
ただ目には見にくいだけで、心を鎮めれば感じられる。
ようく目を凝らせば、吸い込まれてしまいそうな闇の中に見えてくる。
ほら!
あの蒼い僕らの星を追いかけて、巨大で雄大で、かわいらしい黒猫がじゃれている。
地球にかわいく猫パンチをして地球がはじかれる。
火星に当たり、木星にあたり、ぶつかった星がまた別の星に当たり、ビリヤードのようにその連鎖は繋がっていく。
そうして、僕らの星が太陽に向かってはじき飛ばされた。
その小さな星に住む、小さな多くの人々の悲鳴が
ほら、耳をすませば遠くから聞こえてくる。『とおる!!』
僕の名前を呼び、遠くから助けを求めている。『とおる!!』・・・・・
『とおる!!寝ているのか!!』
僕の頭の中で、トールの声が鳴り響く。
「あれ、地球は?猫は?」
僕は目をこすり、寝ぼけた感じの声を出す。
『よく分からん夢を見る奴だ。こんなのと一緒にいなければならないとは、これも俺に課せられた神の試練か?はぁ、・・・運命は過酷だな。』
トールが海よりも深いため息をつく。どうやら僕は歌詞を考えているうちに眠ってしまい、夢に514文字も費やしてしまったようだ。
「いけない、いけない。ちゃんと考えないと。」
僕はまた歌を考え始めた。
「猫、猫、猫、猫、猫、猫、あぁ、もう!何にも思いつかない!!何で魔法を使うのに国語の作文みたいに悩まなければならないんだぁ!!」
『くそったれ、文句を言わずに考えろ!!』
トールが怒鳴る。
錯乱した僕は、僕が国語の作文程度の努力で魔法を使えるという恩恵に気が付く事は無い。
「はぁ、イメージが湧かない。何か参考になるような小説でも読もうかな。」
僕は本棚からペーパーバックのノベルを取りだす。
電撃●庫の本で、猫になった魔道士が主人公を助ける本である。僕のお気に入りのシリーズだ。
僕はページをパラパラと捲る。
しばらくして、僕は手にしていた本を床に置き、もう一冊に手を伸ばす。
またペラペラとめくり、また別の一冊に手を伸ばす・・・・
20分経過した。
『とおる。お前、目的忘れていないだろうな?』
「も、もちろんだよ!トール!」
僕はあわてて答えた。その答えが嘘なのは一目瞭然だ。
トールはまたまた、ため息をついた。
まるで、世界の全てが凍りついてしまいそうなため息だった。
僕は猫たちをこの家で飼えるようにするため、この子達を使い魔にしようという思いを膨らませる。
どうして僕は、この子たちを一緒にいたいと思ったのか?
この子達がかわいいからなのか?
僕は目を閉じ、再び、自分の心に耳を傾ける。
時計が時を刻む音が大きい気がする
部屋の中にいるのに、やさしい風の音を感じる
車の音が聞こえる、家で待たせている子供に一刻も早く会おうとする父親か、家族で外へお食事に出かける家族か・・・
僕はただ、ぬくもりを求めている。
ただ、誰かに一緒にいて欲しいだけ。
僕にはいつもトールが憑いている。
けれども、僕はトールの手を握ることもできやしない。
そう、本当は単純な事。
3匹を使い魔にするなんて、難しい事を考える必要はない。
ただ、3匹と一緒にいたいと思うだけで良かったのだ。
僕はそっと口を開く。
3匹に出会った時の事を思い出しながら。
題名 心をつなぐ物
寂しさを感じていた僕
君達に会った時 それが優しく、薄れていった
勇気出して、歩きだした僕
君達に会った時、君達は悲しげだった
涙なんて見たくは無いから
例えそれが他人の物でも
人は無感情ではいられないから
きっと、人は独りではいられない
寂しさに押しつぶされてしまうのだろう
一緒にいられるのかな?
ただ、ぬくもりを感じたくて
君達にそばに居て欲しくて
君達の姿に僕は癒される
でも、それで十分なのかな?
できれば、もう少し・・・
目は口ほどに物を言う
そう言うけどホントかな?
僕はそれだけじゃまだ足りない
言葉を使うは 人だけ
それだから人は 言葉無しでは寂しいのかな?
お願い、君達の心を聞かせて
人は言葉なしじゃ、理解できない
見つめ合うだけではすれ違ってしまうかも
だからお願い
君達の心を聞かせてくれ
すると子猫達は眩しい光に包まれ、二本足で歩きだした・・・・ような事はなかった。
3匹はちょこんと座っている。
可愛らしい瞳で僕の事を見つめる。
「あれ?失敗だったかな?」
僕は頭を掻く。
『いったい、何が失敗だったのさ?とおる?』
幼い男の子の声が聞こえた。
「あれ、トール?僕に話しかけた?」
『俺じゃねぇよ!』
今度は幼い女の子の声が聞こえた。
『何を寝ぼけていらっしゃいますの?この、愚図な執事は?』
僕は混乱した。
「トール、君のいたずら?」
『だから、俺じゃねぇって!お前の魔法が成功して、猫どもがテレパシーで話しているのさ!』
「え、子猫たち、まるで元々話せるかのように、何だか普通に話しているけど・・・」
『それは、貴方が愚図で私くし達の言っている事を理解できていなかっただけですわ。私たちはいつも高尚にお話ししておりましたわ。ちっとあなたのおつむが今まで残念だっただけですわ。』
彼女が高慢に答える。
『ねぇ、とおる。一緒に遊ぼう。』
『僕、眠たいんだなぁ。ふかふかの寝床を用意して欲しいんだなぁ。』
『全くもう、気が効かないですわ、この愚図。早く、私の美しい毛並みのお手入れをなさい。』
子猫達がニャーニャー騒ぐ。
僕はボールと寝床を用意し、彼女をシャワーで洗った。もちろん、シャンプーにケチをつけられた。
僕はその日から色々と子猫達にこき使われるようになった。
僕の家には3匹のかわいらしい仲間が増えた。
3匹が僕を出迎えた時、僕の帰りを歓迎しているのではなく、自分たち要望をかなえるためだったりして。
ひょっとしたら、世界中の猫たちは、僕たち人間を都合の良い奴としか思っていなかったり・・・。
果たして、魔法を使って良かったんだか、悪かったんだか・・・。
猫が何を考えているなんて知らなくてもいいのかもしれない。