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第9唱 夢と理想は人生の道しるべである

「あ、こら。動かないでよ。上手く洗えないじゃなか。」

 黒猫3匹がシャワーを嫌がり逃げ回る。

僕は一生懸命になって子猫を捕まえて、丁寧に洗ってやる。

親猫を埋めてやった後、僕は子猫三匹をマンションまで連れて帰って来た。この後、猫を引き取ってくれる人を探すかどうかは後で考える。でも、できればこの子達を飼ってやりたい思いも確かにある。

「この子達を飼うには、・・・管理人さんにばれちゃダメだよねぇ・・・・はぁ。」

僕はため息をつく。いつまで置いておいてやれるかなぁ、と思案する。

 僕は洗い終わった子猫たちに、猫用の粉ミルクを用意してやる。親子にソーセージをあげたが、食べるのは親猫だけで、子猫は少しかじったり、遊んだりしていただけだった。どうやら、まだミルクを与える時期らしい。

 子猫がおいしそうにミルクを舐めている姿に心が和む。

『とおる、この猫を使い魔にするのか?』

 トールの問いに僕は首を振る。

「このマンションで飼えるかどうか、まだ分からないよ。とりあいず、今は面倒見てやるだけ。」

 僕はそんな風に考えながらも、マンガの使い魔みたいに人間の言葉を理解出来たら、こっそり隠れてもらったりして、管理人さんにばれずに飼えるかな?とも思った。

 お父さんは5日後に帰ってくるから、その時までに考えておこう。

 ミルクを飲んだ猫達はうつらうつら眠そうだったので、古ぼけたクッションの上に乗せてやった。もちろん、少し離れた所に猫砂を置いておく、あっちこっちでされたらたまらない。

 猫の世話に満足し、僕はマンガとかゲームとかファンタジー小説とかに勤しんだ。無論、勉強の「べ」にも手を出さなかった。



 (翌朝)

 僕はiPodにセットしたアラームのアニソンで目が覚めた。最近スガシカオにはまっている。カラオケで歌うと声がかすれて歌うのが難しく、この前はトールにも駄目出しをくらった。

 僕は寝ぼけながらテキト―に朝食を取る。眠くっても、朝飯を食べれば少しマシになる。

 学校に行く準備ができた僕は、子猫たちにミルクを用意してやった。

 寝ぼけているようだったが、ミルクの匂いにつられてトコトコ歩いてきて、ペロペロ舐める。その仕草に胸がキューンとする。

 眺めていたいが時間が無い。僕は学校へ向かうとする。

「いってきます。」

 僕は子猫たちに挨拶をして、出かける。何年もの間、決してする事が無かった挨拶だった。


 

 

 僕は歩いて学校に着いた。もちろん瞬間移動で登校してはいけない、という校則も無いし(そういう校則があったら驚きだ)、瞬間移動の方が早い。しかし、突如、学校の屋上に現れる少年が目撃されたら困る。僕はできるだけ魔法を使わないで登校するようにした。

 教室に入ると、まだ半数ぐらいの生徒しかいなかった。

「おはよう。」

「ちわー、田中。」コントトリオのリーダーが挨拶に応えた。

 念を押します。この小説の中で、登場人物はコントトリオの事を名前で呼んでいます。

これからもコントトリオの事をリーダー、チビ、デブと小説には書くが、決して作者が名前を考えるのが面倒になったのでは決してない。ホントだよ。絶対だよ。

「とおる、灰かぶり姫という芸名のアイドル知ってるか?」

「いや、シンデレラの事?そんなアイドル知らないけれど。」

僕は記憶を探りながら答える。なんだか昔のアイドル名みたいだなぁ。

「シンちゃん可愛いぞ、萌え萌えだ。いじめたくなるぜぇ。」

デブが答える。

 どうやら、一部の人達に大人気のマイナーなアイドルらしい。恐らくシンデレラのシンなのだろうけれど、シンちゃんじゃ、某アニメキャラみたいだな

 一般的な男性はAKB48のファン

 一部のオタッキーな男性は灰かぶり姫のファンらしい。

「田中、知らねぇなら見てみろよ。」

 チビがPSPを差し出してくる。そこに録画した画像を移したらしい。

 僕は画像を覗く。

 白く、膝上までのスカートのドレスみたいな衣装を来ている。化粧も程良くきれいだ。彼女は笑顔で手を振った後、マイクを口元に持っていく。彼女のサクランボみたいな色の唇から美しい、天上の声を紡ぐ。


 

雌豚なんて呼ばないで

そんな目でみつめないで

 私はかわいいだけじゃないの

 私は我儘な女なの

 

 目障りなんて言わせない

 ずっとあなたのそばにいたいから

 私はちょっぴり寂しいだけ

 あなたのぬくもりが欲しいの・・・

 

 


「・・・・・。」

 なんて自虐的な歌だ。最近はこんな歌が人気あるのか?いや、一部の人間だけか・・。

 コントトリオはにやにや笑いながら見ている。

 そんな感想が浮かんでいるうちに歌い終わったようだ。最後に顔がアップで映る。

 でも、その顔を見ていると、どっかで見たことがあるような気がした。

 僕達と同じぐらいのこの女の子をどこで見たんだろう? と考えていると、急に頭の中に小学生の幼馴染の顔が浮かんできた。

 えっ、この子は、何だか安奈(あんな)に似ている!?

 小学校の頃、僕と黄麻(おうま)と安奈はとても仲良しで、安奈が歌手になると言っていたのを思い出す。

 しかし、この子が安奈だとしたら、これは安奈の理想とはだいぶ違うと思うんだけど・・・。

 僕は目を閉じて、あの頃を思いだす。



(小学3年生の回想)


 安奈は能天気なほど明るい女の子。黄麻は良く勉強をして、運動もそこそこな男の子だった。

 僕と黄麻と安奈は学校が終わり、ランドセルを背負ったまま公園で遊んでいた。

 3人はブランコでどこまで飛べるかをやっていた。今思うと結構危なかった。

 ブランコで遊び終わっても、ブランコに座ったまま御喋りをした。

「私ね、いつかね、歌手になりたいなぁ。コンサートを開いて大勢のファンの前で歌うの。テレビにだって出ちゃうぞ。」安奈が楽しそうに言う。

「そうか、アンナちゃんは歌うの、大好きだもんね。」黄麻も楽しそうに答える。

「へぇ、すごいね。どんな歌を歌うの?」僕が尋ねる。

「うーんとね、みんなを元気にするような歌がいいな。ジーンと感動する歌もいいなぁ。」

答えた彼女が少し考え込む。しばらくして、いい事を思いついたというような顔で言った。

「ねぇ、私達で歌を作ってみない?」

「おもしろそうだね♪」

「でも、ちょっと難しそうだよ?僕達に作れるかなぁ?急に何で?」

僕はすぐに頷き、黄麻は疑問を口にする。

「もちろん、子供の頃に作った歌の方がデビューした時に話題になるでしょう?」

安奈は自信たっぷりに答える。

「へぇ、アンナちゃん、頭いいね。」黄麻が感心し、

「アンナは計算高いね。」僕が感嘆する。

「とおる、それ褒めてないでしょ!」

彼女は笑いながら僕を拳骨で殴るまねをし、「へへへ。」と笑って僕も殴られるまねをする。

「未来の人気歌手の私があなた達に私の歌を作る手伝いという名誉な役を与えてあげる。」

安奈がふざけて笑う。

「ねぇ、歌詞にどんな言葉を使うと良いと思う?」

僕と黄麻は考える。僕は思いついた事を言う。

「大航海、というのはどう?」

「とおる、それはもしかして、ワンピースの影響?」黄麻が笑う。

「いいじゃない、大航海。『人生は大航海』なんて、かっこいいと思うよ。まぁ、『海賊王に俺はなる』なんて、歌にできないけどね。著作権に引っかかっちゃう。歌手を目指すなら気をつけなくちゃ。」

安奈はふざけた後、歌詞についてまた考えた。

「大航海か。他に何にしようかな?」

安奈がまたブランコを軽く漕いだ。

青空を眺めている内に何か思いついたようだ。

「『太陽と星は夢と理想、太陽と星を道導(みちしるべ)にして、僕らは新大陸を目指して航海する』なんてどう?」

 僕は首をかしげる。

「どうして、夢と理想が道しるべなの? 夢と理想は目指すものじゃないの?」

 僕の疑問に彼女は得意気に笑う。

「それはね、夢と理想ってさ、人が前に進むのに必要な物だと思うの。」

「どういう事?」 僕はさらに首をかしげる。

「もちろん、夢とか理想は叶った方が嬉しいよ。でもね、どうしても叶わない事だって、きっとあるの。だけどね、きっと夢とか理想を目指した分、自分の望む未来に少しは近づく事ができると思うの。」

「どういうことさ?」

 僕の疑問に安奈はじれったそうにした。

「だからね、人は夢とか理想が無いと、何処かへ目指そうとする事ができないの。きっと、立ち止ったままになってしまうの。でもね、夢とか理想を目指す事で、より幸せな未来に辿り着く事ができるかもしれないの。夢とか理想は、人生で未来を目指すための道しるべで、夢とか理想を頼りに前に歩いて行くの。太陽や星を頼りに新しい世界を目指すように。」

 頭が混乱する僕を余所に、黄麻が納得したように答えた。

「つまり、人は幸せな未来を掴むために、夢とか理想を追い求める。でも、夢とか理想は幸せな未来を掴むためであって、夢とか理想が叶わなくても悲嘆する事は無い。夢とか理想を追い求め続ける事にきっと意味がある、って事かな?」

「黄麻くん、分かってるー。太陽と星が夢と理想で、新世界が私たちが目指す未来なの。」安奈が手を叩く。

「野球選手になりたい男の子はその夢を目標として未来に向けて頑張るの。『優しく、勇敢であろう』と理想を掲げる人は、それを目標として頑張るの。目標であって、それは目的ではない。私も歌手になろうと夢を掲げて努力をするの。」安奈が夢をみながら言う。

「えっと、・・・そっか、そういう事か!?ナルホドナルホド!?」

安奈がジトッと僕を見つめる。

「本当に分かっているの?」

「ほ、本当に分かったさ。船で星に届かないなら、ロケットに乗ればいい。」

「もう、やっぱり分かって無い!」

僕達3人は笑う。





夢とか理想は未来を目指すための道しるべ・・・か。

僕は見せてもらった画像の中の彼女を見て、昔の事を思い出した。

「・・・・おい、田中。聞いてるのか。」リーダーが声をかける。

「あ、ごめん。何?」

 昔作った歌を思い出せなかった僕はリーダーに返事した。

「この子どうだよ?」チビが聞く。

「うーん。一風変わったかわいいアイドルだね。」と、僕は無難に答える。

「そうだよな。ちょっと変わった所が良いよな。」デブが賛同する。

 僕はうなずいて思案する。

 この子が本当に安奈だとしたら、彼女が昔描いた歌手の像とは違う気もする。

 でも、夢と理想を追い続けるのが大切なら、彼女は今も夢と理想を追い求め続けているのだろうか?


そこそこ良い話を書こうしたつもりですが、うまく表現できたか不安です。

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