第5章 それでも、私はどう生きるか
ここまで考えてきて、
私は一つの事実を受け入れざるを得なくなった。
世界は、
私がどれだけ慎重に考えても、
どれだけ優しくあろうとしても、
簡単には変わらない。
争いは起こる。
誤解はなくならない。
人は人を傷つける。
この現実を否定することは、
もうできなかった。
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同時に、
もう一つの事実も見えていた。
世界は変えられなくても、
自分の振る舞いが影響する範囲は、
確かに存在する。
それはとても狭い。
目の前の人。
今関わっている人。
今日、言葉を交わす相手。
それ以上を背負おうとすると、
優しさはすぐに歪む。
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だから私は、
大きな目標を持つのをやめた。
•世界を良くしたい
•争いをなくしたい
•人類を変えたい
そうした言葉は、
美しいが、
私の手には余る。
代わりに、
もっと小さなことを選ぶ。
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私が選んだのは、
越えない線を決めることだった。
•感情が荒れているときに、誰かを雑に扱わない
•正しさを盾に、相手を追い詰めない
•自分の余裕を、他人の義務にしない
それだけだ。
積極的に善を広めるわけでもない。
模範になろうともしない。
ただ、
害を増やさない。
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この生き方は、
正直に言って、
あまり報われない。
感謝されることも少ないし、
成果として見えにくい。
ときには、
何もしていないようにすら見える。
それでも、
私はこの態度を選ぶ。
なぜなら、
これが一番、
自分を壊さず、
他人も壊しにくいからだ。
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私はもう、
「優しい人間になりたい」とは
あまり言わなくなった。
その言葉は、
いつの間にか、
自分や他人を測る物差しに
なってしまったからだ。
今は、
こう言い換えている。
私は、
自分がいることで、
誰かの世界が
少しだけ荒れにくくなる人でありたい。
それ以上でも、
それ以下でもない。
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この選択は、
逃げに見えるかもしれない。
だが私は、
逃げることと、
退くことは違うと思っている。
退くとは、
力を持たないことではなく、
力を振るわない選択だ。
私は、
その選択をする側でいたい。
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もちろん、
この態度もまた、
一つの物語にすぎない。
私の内なる宗教の、
今の形だ。
だから私は、
これを絶対化しない。
数年後、
この考えを笑っているかもしれない。
別の線を引いているかもしれない。
それでいい。
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私は、
答えを出したわけではない。
ただ、
今の自分が、
どこに立っているか
それを、
一度、言葉にしただけだ。
世界は変わらない。
人間も変わらない。
それでも、
自分の行動だけは、
選び続けることができる。
それで十分だと、
今は思っている。




