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カーディア  作者: アデル
第一章 第五項 塔を出た者
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13

『世界の心臓――因果律操作の正体』


 


それは、心臓に似ていた。


鼓動するたび、

空間がわずかに収縮し、

因果が波のように周囲へ流れていく。


規則正しい。

だが、どこか無理をしている鼓動。


ノワは胸を押さえ、小さく呻いた。


――くるしい……

――あれ……

――いきてる ふり……してる……


アシェルはゆっくり歩み寄る。


近づくほど、

“因果律操作”という言葉が、

単なる技術ではないことがはっきりしてくる。


(これは……

 兵器でも、理論でもない……

 延命装置だ。)


シエルが低い声で説明する。


「世界は一度、死にかけたの。

 塔を模倣しようとしたとき――

 因果の基盤が崩壊して。」


アシェルは頷く。


「だから、この“心臓”を作った。」


「ええ。

 壊れた因果律の代わりに、

 人工的な循環を与えた。

 それが……因果律操作。」


鼓動が一段、強く打つ。


ドクン――。


その振動とともに、

無数の映像が流れ込んできた。


・崩壊しかけた世界

・時間が逆流する都市

・原因と結果が噛み合わない人々

・存在が“生まれる前に消える”子どもたち


(……これが、因果律崩壊の本来の姿……)


アシェルの喉が乾く。


「……もし、これがなければ?」


シエルは答えなかった。


代わりに、

“世界の声”が響く。


「――滅びていた。」


重く、だが静かな声。


「人間も、文明も、

 選択という概念すら失われていた。」


アシェルは拳を握る。


「だから、世界は因果律操作を選んだ。」


「そうだ。

 不完全でも、

 歪んでいても、

 生き延びるために。」


ノワが涙をこぼす。


――せかい……

――こわかった んだ……


アシェルは、胸の奥が締めつけられるのを感じた。


(世界は……

 人間と同じだ。

 恐怖から、誤った選択をした。)


だが――


「それでも。」


アシェルははっきりと言った。


「この心臓は、

 今の世界を蝕んでいる。」


心臓の鼓動が乱れる。


「否定するのか。」


「否定しない。

 役目は果たした。

 だが、もう限界だ。」


アシェルは一歩、さらに近づいた。


「因果律操作がある限り、

 人は“結果を選び”、

 “責任を放棄する”。

 復讐は連鎖し、

 国家は因果を武器にし、

 世界は……また壊れる。」


ヴァレリアの顔が、

一瞬、脳裏をよぎる。


(復讐の連鎖も、

 因果を操作できるからこそ

 “正当化”された。)


シエルが震える声で言う。


「でも、アシェル……

 これを止めたら……

 世界はもう一度……」


アシェルは答える。


「壊れる可能性がある。」


ノワが息を呑む。


――あしぇる……!!


だがアシェルは、

ノワの目をまっすぐ見て、

優しく言った。


「それでも、

 “選ばせる”べきだ。」


そして世界へ向き直る。


「世界。

 お前は生き延びるために

 因果律操作を作った。

 だが今は、それに依存している。」


世界の声が低く唸る。


「……それを失えば、

 多くが死ぬ。」


「今も死んでいる。」


アシェルの声は、

怒りではなく、

覚悟だった。


「違いは一つだ。

 因果律操作がある世界では、

 “誰も責任を取らない”。

 だが、ない世界では――

 生き残った者が、選択の重みを背負う。」


沈黙。


心臓の鼓動が、

初めて“弱く”なる。


ドク……ン……


ノワが小さく囁く。


――あしぇる……

――せかい……

――きいてる……


シエルは唇を噛みしめた。


「……あなたは、

 この心臓を“今すぐ”壊すつもり?」


アシェルは首を振る。


「いいや。」


彼は心臓を見つめ、

はっきりと言った。


「終わらせる準備をする。

 この世界が、

 因果律操作なしで立てるように。」


黒核が、

これまでにない静けさで脈動した。


(第三主人公の時代……

 一万三千年後。

 この心臓を完全に止める役目を担うのは、

 “俺ではない”。)


アシェルは理解した。


自分は“始める者”。

終わらせるのは、未来の誰か。


世界の声が、

初めて感情を帯びた。


「……名を持つ者よ。

 お前は……

 希望なのか……

 それとも……」


アシェルは答える。


「わからない。

 だが、逃げない。」


心臓の鼓動が、

ゆっくりと落ち着いていく。

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