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カーディア  作者: アデル
第一章 第五項 塔を出た者
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9

『森の外の真実――禁じられた地域イレギュラーフィールド


 


森の奥へ走っていくうちに、

アシェルは空気の質が変わったことに気づいた。


湿り気があるわけでも、温度が下がるわけでもない。

それよりもっと――“構造的な違和感”。


ノワがピタリと足を止めた。


――あしぇる……

――ここ……“ちがう”……


アシェルも周囲を見回す。


木々の枝ぶりが不規則。

風が吹いているのに、葉が揺れていない。

鳥の声も動物の気配もないのに、

“音がする”。


(ここは……

 自然が“自然としての因果”を持っていない……)


そのとき、アシェルの視界にひっそりと石碑が現れた。


苔むした黒い石。

だが文字は鮮明に残っている。


アシェルは読み上げた。


【――イレギュラーフィールド】

【中央連邦・立入禁止区域】

【因果律の崩壊により未観測領域と指定】

【理由:世界構造の破損】


ノワは震えながら言う。


――“せかい が われてる”……

――ここ……こわい……

――でも……なつかしい……


アシェルは眉を寄せた。


(なつかしい……?

 塔と似た因果の揺らぎを感じる……

 だが塔ほど整っていない。

 もっと――荒削りだ。)


中央連邦軍の包囲網が遠くで迫っている。

ここに留まれば捕まる。


だが、

前に進めば“世界の裂け目”に足を踏み入れることになる。


アシェルは決断した。


「ノワ。

 ここを抜けるぞ。」


ノワはアシェルの手を強く握った。


――いっしょ に……いく……


アシェルが一歩踏み出した瞬間――

空気が弾けるような音がした。


 



◆世界構造の“揺れ”


森の奥へと進むにつれ、

風景が少しずつ変質していく。


木の幹が途中で途切れ“上だけ浮いている”木。

地平線が二層に分かれて見える異常。

影が動く方向がバラバラ。


ノワがアシェルにしがみつく。


――ここ……

――“たお に ちかい”……


アシェルははっとする。


(塔に近い……

 つまり、因果律の基盤が露出している領域……

 ここで何があった?)


数歩先の地面には、

古い白衣を着た人間の遺体があった。


胸に刻まれたエンブレムは連邦科学局――

その横の装置は、

塔の内部にあった観測機器にどこか似ていた。


アシェルは膝をつき、装置を調べた。


【観測ログ:イレギュラーフィールド中央部】

【因果律の“穴”を確認】

【穴の向こうに“塔に類似した構造反応”】

【近づけば観測者の存在線が破壊される恐れあり】

【――接近禁止】


アシェルは息を呑んだ。


(塔……のような構造が、この森の奥にある……?

 この世界の因果律が最も乱れた地点……

 世界が“修復不能の亀裂”として放置している領域……

 そこに――塔を模した何かがある。)


ノワはアシェルの服を引いた。


――あしぇる……

――この さき……

――“だれか が まってる”……


アシェルは周囲の気配を探った。


すると――

森の奥から、懐かしいにも似た声が聞こえた。


女性の声だ。


澄んだ声。

聞いたことがないはずなのに、“知っている”響き。


「――ようやく来たのね、アシェル。」


アシェルは即座に構えた。


ノワが怯える。


――あしぇる……!!

――この こえ……

――“たお の ひと” に ちかい……!!


木々の陰から、ひとりの女性が現れた。


長い黒髪。

白い衣服。

人間のようで人間ではない“揺らぎ”。


アシェルは呟く。


「……アーカー……?」


女性は微笑んだ。


「残念。それは外れ。

 でも、同じ“塔の側”の存在よ。

 あなたは私を――

 “シエル” と呼べばいい。」


ノワが後ずさる。


――しえる……

――あしぇる の“な” と……にてる……


シエルは言う。


「アシェル。

 あなたの名が世界を揺らしている。

 その揺らぎは――

 この《イレギュラーフィールド》を通じて、

 塔へ、そして“もっと深い場所”へ届きつつある。」


アシェルは問う。


「お前は……何者だ?」


シエルは静かに答えた。


「塔の外側で、塔の内側を見つめ続ける者。

 “世界構造の観測者”。

 そして――

 あなたに“頼みがある者”。」


アシェルは目を細めた。


「頼み……?」


シエルは真剣な表情で告げる。


「――世界から因果律操作を消してほしい。」


ノワが息を呑む。


アシェルも凍りつく。


(因果律操作を……世界から消す……?

 そんなことが可能なのか……?

 いや――

 第三主人公の最終目的になる“伏線”……

 ここで世界側が初めて口にするのか。)


シエルは続けた。


「あなたの名は、因果律に干渉できる。

 その位階は、世界の側でも制御不能。

 だからこそ――

 “あなたにしかできない”。」


アシェルは答えようとしたが、

森の奥から迫る光がそれを遮った。


連邦軍の追跡部隊が、

ついにイレギュラーフィールドへ侵入しようとしている。


シエルは微笑み、言う。


「続きは――奥で話しましょう。

 “塔の欠片”まで案内するわ。」


アシェルは迷った。

だが、選択肢はなかった。


ノワはアシェルの手をぎゅっと握る。


――いこ……

――あしぇる……


アシェルは頷いた。


シエルが導く先――

そこは世界が最も触れたくない“穴”。


因果律の崩壊領域。

塔の欠片。

世界の傷跡。

真実への入口。


アシェルはその闇へ足を踏み入れた。

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