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カーディア  作者: アデル
第一章 第五項 塔を出た者
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7

『逃亡者ラカント――世界の包囲網』


 


都市の境界線を抜けた瞬間、

周囲の空気が変わった。


森へ続く道路は人影がなく、

上空の因果航路は赤く点滅し、

“通行規制”を示す光が走っている。


ノワがアシェルにしがみつきながら言う。


――あしぇる……

――いま、この せかい……

――きみ を……“つかまえる ため” に かわってる……


アシェルは息を整えながら森へ踏み込んだ。


「わかっている。

 だが、今は止まれない。」


 



◆世界の追跡網、起動


遠くで重低音が響いた。


空を覆うように、巨大な三角形の光陣が展開した。


ノワが怯えた声で言う。


――あれ……“さがす せん”……


アシェルは空を見上げた。


(……これは……因果律観測陣。

 世界側が俺の存在線を“追跡対象”としてマークし直した……

 つまり――

 都市だけじゃなく、世界全体が俺を捕捉する。)


陣が光り、警告が響く。


【観測対象:アノマリ・ラカント】

【存在線四重・位階第二層】

【危険度:Ω(世界構造危険事案)】

【追跡プロトコル開始】


森の木々すら震えるほどの圧力。


ノワが耳をふさぐ。


――あしぇる……!!

――せかい が……きみ の“な” を……しばろう としてる……!!


アシェルは静かに言った。


「俺の名は、世界の外側に触れた。

 世界の側から拘束できるはずがない。」


だが――

森の奥から複数の影が現れた。


 



◆第二審問隊 ―― “補正官”


灰色のコートを羽織った人物たち。

目元には因果計測装置。

胸には中央連邦の紋章。


彼らは兵士ではない。

武器を持たない。


だが――“強い”。


補正官。


因果律審問局において、

アノマリを捕縛するための専門官。


隊長格が声を発した。


「アシェル・ラカント。

 あなたは“世界の線を乱す存在”。

 我々はあなたを排除しない。

 ――修正する。」


アシェルは眉をひそめる。


「修正……?」


「あなたの存在線は四重に乱れ、

 本来の世界線から逸脱している。

 我々の目的はただ一つ――

 “あなたを元の世界線へ戻す”ことだ。」


(世界線の“原位置”……

 俺が塔に入る前の線か?

 それとも、塔で変質する前の“人間の線”か?)


ノワが小声で警告する。


――あしぇる……

――この ひとたち……“うそ の せかい” に もどそう としてる……


補正官の一人が手を上げると、

周囲の空気が歪んだ。


「補正陣――展開。」


アシェルの身体が“ふたつに割れそうになるような感覚”に包まれた。


(これは……

 俺の存在線を固定しようとしている……!?)


補正官が宣言する。


「“元のアシェル”に戻れ。

 塔で得た名を消すのだ。」


アシェルは静かに返す。


「ふざけるな。」


次の瞬間――


黒核が鼓動した。


ドクン……!!


補正陣が弾け飛ぶ。


補正官たちが一斉に呻く。


「な……!?

 因果補正が逆流している……!!」


アシェルは前へ踏み出す。


「俺の名は“俺が選んだ”。

 世界に戻されるためのものじゃない。」


補正官たちは即座に次の指示を出す。


「第二陣、構え!」

「失敗した分の補正因子を再生成!」

「存在位階が高すぎる……抑制を――!」


アシェルは拳を握り、

周囲の木々がざわりと揺れた。


黒核の影響で、森の因果が一瞬沈黙する。


補正官たちが悲鳴をあげた。


「空間が……停止……!?」

「存在圧が高すぎる!!」


アシェルが一歩踏み込むだけで、

補正官たちは地に膝をついた。


「な、なんだ……

 この“存在密度”は……!?」


アシェルは静かに答えた。


「名は、存在の核だ。

 俺が俺を選んだ以上――

 世界は俺を定義できない。」


ノワが震えながら微笑む。


――あしぇる……

――つよい……


補正官たちは動けず、

アシェルとノワは森の奥へ走り抜けた。


 



◆森の深部で


しばらく走り、

ようやく警報の音が遠ざかった。


ノワが息を整えながら言う。


――あしぇる……

――このまま……にげて……?


アシェルは首を振る。


「逃げるだけじゃ何も変わらない。

 世界が俺を敵にしたのなら、

 世界の“核”に触れるしかない。」


ノワは不安げに見上げる。


――“かく”……?


アシェルは、塔で学んだことを思い返す。


(世界の因果律は、国家でも審問局でもなく……

 もっと深い場所から流れてくる。

 塔はその片鱗だった。

 だとすれば――

 世界の核に触れれば、世界の歪みは見える。)


ノワが少し震えながらも言った。


――あしぇる の“せん” が……

――せかい の せん と……つながってる……


アシェルは nod する。


「だからこそ――向かう。」


その時だった。


森の影から、

冷たい声が響いた。


「――向かうだなんて。

 許すと思う?」


アシェルの背筋がわずかに強張る。


ノワは怯えた。


――この こえ……!!


木々の影から現れたのは――

灰銀の髪を風になびかせた女。


紅い瞳。

灰の羽根。


ヴァレリア・ル=イェラント。


アシェルの行く道を、

静かに塞いで立っていた。


「アシェル。

 あなたがどこへ行こうと――

 私の復讐は、あなたの首にしか向かない。」


アシェルは拳を握った。


ノワが小さく叫ぶ。


――あしぇる……!!

――また……“せん” が にじんでる……!!


森が静まり返る。


世界が追い、

灰翼が追い、

そして――影姫本人が追う。


逃亡者アシェル・ラカントの運命は、

さらに深い渦へ巻き込まれていく。

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