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カーディア  作者: アデル
第一章 第五項 塔を出た者
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6

『逃走――追われる“存在位階”』


 


因果律審問局の壁が、

アシェルの存在線によって“外側へ折れた”。


物質ではなく、因果が破断した衝撃。

警報が都市全域に鳴り響く。


「非常警戒!

 アノマリ個体が審問局から離脱!!」


「全域へ通達――

 存在位階第二層の個体を確認!!」


「一般市民は因果防壁内に退避せよ!!」


街全体が赤く灯り、

空中の因果航路はひび割れるように乱れた。


ノワがアシェルの手を握り、必死に声を上げる。


――あしぇる……!!

――にげないと……!!


アシェルはすぐに判断した。


(この都市では戦えない。

 俺が力を使えば、因果ごと都市が破壊される。

 まずは――出る。)


アシェルはノワを抱え、

瓦解した壁の外へ跳び出した。


 



◆都市の目覚め


外に出た瞬間、

都市の景色が変質した。


建物の外壁に“位相装甲”が走り、

路地には因果操作兵が展開。


空には三つの巨大なレンズ――

無人制御の“観測型兵器”。


【観測開始:対象=アシェル・ラカント】

【存在線:四重/位階第二層】

【推奨:排除ではなく隔離】


同時に、都市中枢から女性の声が響く。


「塔生還者アシェル・ラカント。

 あなたの行動は国家の秩序と因果安定に対する重大な脅威です。

 速やかに停止してください。」


ノワが怯えてアシェルに抱きつく。


――あしぇる……“せかい じゅう” が

 きみ の こと……“みてる”……


(ああ――

 塔の存在者は、世界にとって“観測すべき対象”。

 俺は、世界にとっての異物なんだ。)


だが、止まる気などない。


アシェルは地を蹴り、

都市を駆け抜けた。


 



◆追跡装置・“因果拘束陣”


アシェルの行く先に、

青白い光の壁が展開した。


兵士たちが同時に詠唱のように声を上げる。


「因果拘束陣、起動ッ!!」


光が渦となり、

アシェルの足を絡め取ろうとする。


だが――


アシェルが一歩踏み込むだけで、陣は破れた。


光が霧散し、兵士たちが絶句した。


「な……なんで……!?

 拘束陣が効かない……!」


「因果固定の“式”が……

 逆に崩されてる……!!」


アシェルは表情を変えずに言った。


「俺の名は、世界を固定しない。

 世界が、俺を固定できない。」


ノワが小さく頷く。


――あしぇる の“な” は……

――“せかい の いんが” を……すべって いく……


だがその時。


空から影が降りた。


 



◆灰翼部隊、出撃


アシェルの前に着地したのは――

四人の灰翼兵。


黒灰色の羽根を持ち、

装具は古い儀式と最新因果技術が混ざったような異形。


隊長格の男が言う。


「アシェル・ラカント。

 我ら灰翼の任はただ一つ――

 “影姫の意志を継ぐこと”。」


アシェルは立ち止まる。


「ヴァレリアの部下か。」


「部下ではない。“遺志”だ。

 影姫があなたを殺す前に、

 我らがあなたを連れて行く。」


ノワが強くアシェルの手を握る。


――いけない……!!

――この ひとたち……

――“いきる いんが” が へってる……!!


アシェルは目を細める。


(……寿命を削る因果操作か……

 灰翼は“自分の線”を削って強さに変換している……

 どこまでも復讐者の軍隊だ。)


隊長が手を振る。


「捕えよ。」


灰翼兵たちが一斉に飛びかかる。


羽根が因果を裂き、

街路の空間が歪む。


だがアシェルは動かなかった。


次の瞬間――

灰翼兵の動きが止まった。


彼らの攻撃が、

アシェルの“名”の周囲で鈍化し、

軌道が曲がっていく。


「な……!?

 攻撃の因果が……吸われている……!?」


アシェルは静かに言う。


「名は、線だ。

 俺の線に、お前たちの線は交わらない。」


隊長は歯を食いしばり叫ぶ。


「ならば――

 “影姫に繋がる線”ならどうだッ!!」


彼の背後の空間が裂け、

ヴァレリアの“因果残影”が顕現した。


ノワが悲鳴をあげる。


――あしぇる!!

――あの ひと の“のろい の せん” が……

――ここ に きてる……!!


アシェルの瞳が細く光る。


(……ヴァレリアが遠隔で因果を送っている……

 単なる部隊じゃない……

 “彼女自身の線”が介入している……)


隊長が叫ぶ。


「影姫の名において――

 アシェル!!

 お前を“連れ戻す”!!」


アシェルは一歩前に出た。


「来い。

 お前たちの復讐の線――

 俺が受け止める。」


そして。


黒核が低く脈動した。


空気が重く沈む。

因果線が震える。

街の音が止まる。


灰翼部隊が一斉に顔を引きつらせる。


「な……なんだこの圧は……

 因果じゃない……!!」


「存在……!?

 “存在そのものの圧力”……?」


アシェルは静かな声で言った。


「俺は――

 誰にも所有されない。

 世界にも、国家にも、復讐にも。」


そして最後に告げる。


「まして――

 “過去”に囚われもしない。」


黒核の脈動が放たれた。


灰翼部隊は、一瞬で吹き飛ばされた。


全員が地面へ叩きつけられるわけでも、

肉体が傷つくわけでもない。


ただ――

“存在線が断たれた”。


ノワが震える。


――あしぇる……

――いま の……なに……?


アシェルは短く答える。


「俺の名が……

 俺の存在が――

 “彼らを許さなかった”。」


都市の警報がさらに激しく響く。


「アノマリが位階干渉を使用!!」

「都市因果網が不安定化!!」


アシェルはノワを抱き寄せ、

視線を遠くの空へ向けた。


(……この世界で生きるには……

 まず“逃げながら理解する”しかない。)


「行くぞ、ノワ。

 ここでは俺の存在が都市を壊す。」


ノワは震えながらも頷いた。


――うん……

――あしぇる と いっしょ に……どこへでも……


アシェルは走り出し、

都市を抜けるための影へ飛び込んだ。


その瞬間、上空から報告が降りる。


【至急通達】

【アノマリ・ラカント、都市外への逃走を確認】

【追跡を灰翼部隊から“第二審問隊”へ移行】

【本事件を――

 “世界構造危険事案《クラスΩ》”に指定する】


世界が、

完全にアシェルを“敵”と認識し始めた。

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