表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カーディア  作者: アデル
第一章 第五項 塔を出た者
74/83

4

『灰翼の影姫ヴァレリア――三十年越しの邂逅』


 


武装車両の装甲が静かに二つに割れ、

金属片が地面へ散らばる。


切断面は焼けてもいない。

ただ“因果”が滑らかに断たれた結果だけが、

そこに残っていた。


その中心に――

灰色の羽根を持つ女が立っていた。


ヴァレリア・ル=イェラント。


かつてアシェルが滅ぼした国、

イェラント王国の最後の生き残り。


その三十年分の憎悪が、

風よりも冷たい空気となって車両内部へ流れ込む。


ノワがアシェルの腕にしがみつく。


――あしぇる……

――あれ……“なにか を きめてる め”……


アシェルはゆっくりと後部扉の残骸から姿を現した。


ヴァレリアは一歩踏み出し、

まるで儀礼のように頭を下げ――

その紅い瞳を上げる。


「ようやく……ようやく見つけたわ。

 アシェル=ラカント。

 ――私の、国を滅ぼした男。」


アシェルの瞳が揺れる。


(……国を滅ぼした……

 俺は……“妻の仇を討つために隣国を滅ぼした”。

 だが――

 ヴァレリアにとっては、俺こそが加害者だ。)


アシェルは言った。


「お前が……ヴァレリアか。」


ヴァレリアは微笑む。

だがその笑みは、怒りを捻じ曲げてつくった刃。


「私の名前を覚えていなくても当然よ。

 あなたが殺した人数に比べたら、

 私の名など砂粒みたいなものだもの。」


アシェルは言い返さなかった。

否定できる材料がない。


ノワは震えてアシェルに囁く。


――あしぇる……

――あの ひと……

――きみ を……

――“ころす ため に いきてきた”……!!


ヴァレリアはゆっくりと腕を上げる。

その手に宿る光は、因果律操作ではなく――“因果そのものの改変”。


灰翼部隊の筆頭たる力。


「ねぇ、アシェル。

 塔から生還したって噂を聞いたとき……

 私、嬉しかったの。

 殺し足りないほどの憎しみが、まだ腐っていなかったから。」


アシェルは深く息を吐いた。


(……俺は塔に入った。

 それは結果的に“逃げた”ように見えるだろう。

 彼女は俺を追って三十年生きたのか……)


アシェルは静かに問う。


「……お前の復讐は、俺で終わるのか?」


ヴァレリアは首を横に振る。


「いいえ。

 復讐は“線”。

 あなたを殺したら、次は世界。

 世界を壊したら、次は――塔の主。

 それでも尽きないでしょうね。」


アシェルは目を細めた。


「……塔の主を知っているのか?」


ヴァレリアは薄く笑う。


「あなたが知っていて、私が知らないと思う?」


(……ヴァレリア……

 塔の存在、その主まで知っている……

 塔に入ったのは俺だけじゃないのか?

 彼女も――塔を覗いた?)


ノワが小さく警告する。


――あしぇる……

――ちかづく……


ヴァレリアは距離を詰めた。

目の前に立ち、囁くように言う。


「三十年かかったわ。

 でも、やっと……あなたを殺せる。」


刹那――

灰色の羽根がアシェルの首元へ走る。


アシェルの身体は――動かない。


拘束具による“因果固定”が働いている。

反応できない。


ヴァレリアの瞳が、

喜びに染まった。


「――これで終わり。」


ノワが叫ぶ。


――あしぇる!!!!!!


だが次の瞬間。


羽根が寸前で止まった。


ヴァレリアの身体が震え、

目を見開く。


「……な……に……これ……?」


アシェル自身も驚いた。


(……身体が勝手に……

 “存在の位階”が……

 俺を守った……?)


ヴァレリアの攻撃が触れた瞬間、

アシェルの“名”の構造が因果を書き換え、

彼女の攻撃を弾いたのだ。


ヴァレリアは後退し、

憎悪と困惑の両方が混ざった視線をアシェルへ向ける。


「……あなた……

 何に……なったの……?」


アシェルは静かに言った。


「俺は――

 アシェル・ラカントだ。

 それだけだ。」


ヴァレリアは歯を食いしばり、

背後へ跳んで距離を取る。


そして宣言した。


「今日殺せないなら、明日殺す。

 明日殺せないなら、一年後に。

 アシェル――

 あなたの死をもって、私の国はやっと眠れる。」


風が吹き、

灰の羽根が散る。


ヴァレリアは影のように消えた。


残された静寂。

砕けた車両。

震える兵士たち。


ノワが小さな声で言った。


――あしぇる……

――“ふくしゅう の せん” が……

――きみ と あの ひと の あいだ で……

――また……うごきだした……


アシェルは拳を握った。


「……まだ終わっていない。

 俺の復讐も……

 彼女の復讐も……

 交差したままだ。」


そして、遠くでサイレンが鳴り響く。


――連邦因果律審問局が、アシェルを迎えに来た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ