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『崩壊の光の先で』
塔が砕け落ちた瞬間、
アシェルの視界はすべての色を奪われ、
ただ白い閃光だけが走った。
ノワが手を握りしめる。
――あしぇる……!!
――はなれないで……!!
アシェルは力強く返す。
「離さない。
ここを――出るぞ。」
光が弾け、
重力が逆転したように身体が浮き、
世界が音もなく反転した。
塔の崩壊によるエネルギーが周囲の因果を乱し、
空間は三重にも四重にも折れ曲がっていく。
白。
黒。
歪んだ線。
そして――
突然、世界が“地面”を取り戻した。
アシェルは膝をつく。
呼吸が戻る。
風の匂いがある。
土の感触がある。
ノワが不安げに辺りを見る。
――あしぇる……
――ここ……どこ……?
アシェルは立ち上がり、
空を見上げた。
吸い込まれるほど深い青空。
流れる雲。
遠くで鳥の羽音。
「……外だ。
塔の外……
やっと――戻ってきたんだ。」
ノワは胸をなで下ろすように微笑む。
――あしぇる……よかった……
だが、安心はそれだけだった。
アシェルの視線は、遠くの地平に釘付けになった。
それは、かつての農村の面影があった場所――
アシェルが暮らしていた“リィン村”があった方角。
だが。
そこには村はない。
ただ、緑の丘と風化した石だけが転がり、
人の気配はどこにもない。
アシェルは息を呑んだ。
(……リィン村が……ない……?
まるで、
“存在した痕跡ごと”消えている……)
ノワが震える声で言う。
――あしぇる……
――なにが……あった の……?
アシェルの胸が熱くなる。
黒核ではない。
復讐でもない。
――喪失の痛み。
「……30年……
俺が塔にいた間……
世界は……こうなったのか……」
風が吹き抜けた。
草が揺れる。
青空だけが穏やかに広がる。
だが、人の声もしない。
道の跡もない。
建物もない。
ノワがアシェルの袖を引く。
――あしぇる……
――あれ……みて……
アシェルが視線を移すと、
地面に古い石碑が立っていた。
その表面には、風化した文字。
アシェルはゆっくりと歩み寄り、
手で文字をなぞる。
【第六国境戦役 記念碑】
《この地は三十年前、戦火に呑まれ滅んだ》
アシェルの指が止まる。
(……俺の村は……
“国境戦役に巻き込まれて消えた”……
俺が塔にいた間に……
何が……どこまで起きた……?)
ノワが静かにアシェルを見上げる。
――あしぇる……
――“ふくしゅう” の ひと たち……
――まだ……どこか に……?
アシェルは拳を握りしめた。
「……わからない。
だけど――
俺の復讐は終わっていない。」
黒核が静かに脈動する。
塔で手に入れた“名の力”。
それは、
復讐の線をより鮮烈に刻むものとなる。
アシェルは決意を込めて言った。
「行こう。
まずは――世界がどうなったか知る。
俺が向き合うべき“仇”も、
まだこの世界にいるはずだ。」
ノワはうなずき、
――いっしょ に……いく……
と呟いた。
こうして、
アシェル・ラカントは塔を出て、
長い復讐と真実の旅を再開する。
遠くで、風が木々を揺らす。
しかし。
風音に紛れて、
微かな金属音が聞こえた。
アシェルは振り返る。
そこに――
兵士の影が立っていた。
銀色の銃身、鋭い機動装具。
胸元に刻まれた紋章は、見覚えがない。
兵士はアシェルを見つけると、
震える声で言った。
「……報告……!
“塔の外”から未知の存在を確認……!
本部へ――!」
アシェルは眉をひそめる。
(塔から出た者は……
今の世界では“未知の脅威”扱い、か……)
黒核が静かに光る。
――新しい世界との衝突が始まる。




