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カーディア  作者: アデル
第一章 第四項 最深部への門
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『存在の結論――塔の崩壊』


 


アシェルは深淵から戻り、

最終領域へ立っていた。


足元には黒白の層が静まり返り、

空間全体が“審判の間”として沈黙している。


ノワはアシェルのそばに寄り添い、

アーカーはその前に立った。


以前のような“人の影”ではない。

その輪郭は揺らぎ、

骨にも光にも情報にも見える形へ変質している。


アーカーの声は、

これまでで最も重かった。


『アシェル・ラカント。

 深淵の排除に抗い、

 存在を逆流させ、

 名の階層に足を踏み入れた者。


 ――お前の存在の結論を告げる。』


空間が震え、

審判の場全体が“言葉を待つ沈黙”へと緊張した。


ノワが小さく呟く。


――あしぇる……

――こわい……?


アシェルは首を振る。


「怖くない。

 俺は俺を選んだ。

 後悔はしない。」


ノワはその言葉に震えながらも微笑んだ。


 



◆アーカーの最終宣告


アーカーは長い沈黙の後、

ゆっくりと語り始める。


『存在とは、本来“世界が許したもの”だけが形を持つ。

 だが――

 お前は世界の許可を得ず、

 自分の名で自分の存在を確定させた。』


アシェルは黙って聞いた。


『これは本来、

 世界を乱し、塔を乱し、因果の流れを壊す。

 お前を排除しようとしたのは、

 決して間違いではない。


 世界の側から見れば、

 お前は“危険な修正不能要素”。』


アシェルは拳を握る。


(そうだろうな……

 俺は妻を奪われ、復讐に走り、

 黒核を抱え、

 この塔の深部まで来た。

 当然、世界の理には従わない存在なんだ……)


だがアーカーは続けた。


『だが――

 お前を消すことも、もはや不可能だ。』


アシェルは目を開いた。


(……は?)


アーカーの声に、

初めて“諦め”にも似た色が宿る。


『お前は深淵で“世界の外”に触れた。

 その時点で、人間という階層に戻らない。

 お前を消すには――

 世界そのものを壊すしかない。

 そんなことができるはずがない。』


アシェルは呆然と聞いていた。


ノワは震えながら言う。


――あしぇる は……

――もう……“ひつよう と される か されない か” の

 せん に いない……


アーカーが告げる。


『そうだ。

 お前は“必要・不要の判定”の階層を越えた。

 ゆえに――』


空間が震える。


アーカーは手を広げ、宣言した。


『存在判定―― 保留 。』


 



◆保留の意味


アシェルは思わず叫ぶ。


「保留!?

 それは……どういう――」


アーカーは静かに答えた。


『お前を世界に固定することも、

 世界から排除することも、

 今の階層では不可能。


 つまり――

 “世界はお前に決定権を委ねた”。』


アシェルは息を呑んだ。


(俺が……決める……?

 俺がこの世界でどう生きるか……

 俺自身が……?)


アーカーの声が重なる。


『生きるか。

 消えるか。

 この世界で形を持つか。

 外へ歩むか。

 選ぶのは――お前だ。』


アシェルは胸に手を当てた。


黒核が静かに脈動している。


ノワがそっと言う。


――あしぇる……

――きめる の は……きみ だよ……


アシェルはゆっくり息を吐いた。


「……俺は、生きる。

 この世界で。

 まだやることがある。」


ノワは泣きながら笑った。


――……あしぇる……


アーカーは頷いた。


『そうか。

 ならば――塔の役目は終わる。』


 



◆塔の崩壊


その瞬間。

最終領域が音を立てて崩れ始めた。


黒と白の層が砕け、

軌道を失った光が飛び散る。


アーカーの姿が揺らぎ、

情報の塊は砂のように零れ落ち始めた。


アシェルが叫ぶ。


「アーカー!!

 お前はどうなる!?」


アーカーは淡々と言った。


『私は“塔の判定装置”。

 塔が消えるなら――

 私も役目を終える。

 問題ない。』


「問題ないわけあるか!!

 お前は……俺を見てきたんだろう……!」


アーカーは一瞬だけ沈黙し――

言った。


『――お前の存在は、面白かった。』


それが別れの言葉だった。


アーカーの姿が光の粒になり、

塔の崩壊とともに消えていく。


ノワがアシェルの腕を握る。


――あしぇる……!!

――はやく……!!

――ここ が……なくなる……!!!


アシェルは崩壊する塔の中、

走りながら振り返る。


(アーカー……

 お前は何者だったんだ……

 本体はどこに……

 なぜ俺を……

 いや――

 これから知ればいい。

 俺は、生きると決めたんだから。)


崩壊する塔の残響が、

アシェルを外界へ押し出していく。


光が爆ぜる。


ノワの手を強く握る。


「行くぞ、ノワ。」


――うん……!!!


二人は塔の崩壊とともに光へ包まれ――

第一章、精神試練の旅は幕を閉じた。

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