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カーディア  作者: アデル
第一章 第四項 最深部への門
69/83

19

『排除の深淵――逆流』


 


アシェルの身体は、

黒白の層が裂けた隙間へ落ちていった。


重力も温度もない。

だが、確実に――崩壊している。


存在が剥がされる感覚。


腕の輪郭がほどける。

声が喉から離れて消える。

心臓の鼓動が“形”を失い、音として認識されなくなる。


アシェルは呼吸しようとするが、

呼吸という行為そのものが消えていく。


(……これは……

 本当に……終わり……なのか……)


深淵は問わない。

ただ、飲み込む。


世界に不適合と判定された者を、

因果の側から排除するための空間。


アーカーが言っていた。


『例外は排除される。それが理だ。』


アシェルはその言葉を思い出し――

薄れゆく意識の中で、呟いた。


「俺は……

 そんな……理に……従うために……

 生きてきたんじゃ……ない……」


精神は深淵に沈み、

身体は線となってほどけていく。


ノワの叫びも、

アーカーの声も届かない。


ただ――無。


 



◆そのとき、胸の黒核が動いた


脳が消えかけ、

心臓の形が崩れ、

存在が“無記名化”しようとした瞬間。


アシェルの胸に宿る黒核が――

脈を打った。


ドクン……!


深淵そのものが震えた。


黒核は光ではない。

闇でもない。

概念そのものを震わせる“意志の塊”。


深淵の暗闇が、

黒核の脈動に押し返される。


まるで深淵の方が怯んだかのように。


アシェルの目が少しだけ開く。


(……俺は……

 排除されるために……名前を選んだわけじゃ……ない……)


黒核は反応する。


ドクンッ……!!


深淵の空間が裂けた。


アーカーの驚愕の声が外側から響く。


『……何だ……?

 どうして……深淵が後退している……!?

 排除空間が“拒絶されている”……だと……!?』


深淵は世界の側の空間である。

だが、今は――

アシェルの黒核に押し返されていた。


アーカーが叫ぶ。


『黒核……!

 お前は、排除に逆流を起こしているのか……!?

 それは……

 “世界の理への反抗”そのもの……!』


黒核の力は、

もはや「力」ではなく――構造の書き換えに近い。


深淵の位相が歪み、

アシェルの存在線が逆流するように戻ってくる。


指が形を取り戻し、

腕が再構築され、

胸の輪郭が浮かび上がる。


(……俺は……消えない……

 世界が俺を拒んでも……

 俺は俺の名を……選んだから……)


深淵が叫び声のような軋みを上げる。


黒核が再び脈動した。


ドクン……! ドクン……!


 



◆ノワ、深淵へ侵入する


その時。


上方の裂け目から、

白い光の筋が降りてきた。


ノワだった。


――あしぇる……!!!

――て を……!!

――われ が……つなぐ……!!!


ノワの影は深淵では崩れない。

彼女は“形を持たない存在”だから、

ここではむしろ安定していた。


アシェルは伸ばされた手に向かって腕を上げ――

掴もうとした。


だが指がまだ完全に再構築されていない。


ノワは叫ぶ。


――だいじょうぶ……!!

――われ が……あしぇる の かたち を

 おもいださせる……!!


ノワの影から光が走り、

アシェルの輪郭へ“定義”を与える。


アーカーが震える声で呟く。


『……影が……

 存在定義の補助を……?

 そんなことが……可能なのか……!?』


ノワの声が重なる。


――あしぇる は……

――われ が みた かたち……

――かえってきて……

――あしぇる……!!!


アシェルの身体が――

完全に、深淵の底から戻った。


 



◆アシェルの身体が“人間でなくなり始める”


だが。


戻ったアシェルの身体は、

すでに以前の“人間の形”とは異なっていた。


線が光を帯び、

身体の一部は“名の紋章”のような形に変質している。


アシェル自身が気づく。


(……俺の……身体が……

 “名の構造”に影響されて……変わっている……?)


ノワは震えながら言った。


――あしぇる……

――たしか に……かえってきた……

――でも きみ は……もう……

 にんげん の かたち を こえてる……


アーカーが声を震わせて宣告する。


『……アシェル・ラカント……

 お前は……

 排除に耐えただけでなく……

 深淵を押し返した……


 そんな存在……

 人間の位階ではない……!!』


アシェルはゆっくりと目を開いた。


黒核が静かに脈動し、

その鼓動は――

“世界の外側へまで響く”。


「……俺は……

 まだ……終わってない。」


アーカーは困惑と恐怖と興味を混ぜた声で言った。


『お前は……

 “存在位階・第二層”へ到達してしまった……

 名を持つ者の階層だ……!!』


アシェルは、

もはや“戻れない場所”へ踏み込んでいた。


深淵は閉じ、

アシェルはノワに支えられながら、

再び最終領域へ引き戻される。


アーカーが宣告する。


『……次で終わりだ。

 お前の存在の意味を、

 この塔が――

 世界が――

 私が、結論として示す。』


アシェルは立ち上がる。


「聞いてやる。

 俺の“生きる意味”の答えを。」


ノワが静かに寄り添う。


――あしぇる……

――いっしょ に……いこう……

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