表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カーディア  作者: アデル
第一章 第四項 最深部への門
64/83

14

『存在の核――名を問う声』


 


白に弾けた世界が収束し、

次に姿を見せたのは――


「何も書かれていない書板の世界」


床も天井もない。

ただ巨大な“白い書板”が果てしなく広がり、

そこに淡く浮かぶ線がときどき揺れ、そして消える。


ノワはアシェルの背に隠れながら囁いた。


――あしぇる……

――ここ……“ことば の うまれる まえ” の ばしょ……


アーカーの声が、

まるで耳元で囁くかのように近い。


『ここが“存在の核”だ。

 ここでは、名前すら仮のもの。

 存在は“定義”を問われる。』


アシェルは構えつつ問う。


「定義……?

 俺はもう“生きる理由”を言葉にした。

 それだけじゃ足りないのか?」


アーカーは淡々と告げる。


『理由は心の起源。

 だが“名”は存在の起源だ。


 名とは――

 “世界がお前をどう扱うか”を決める構造。』


アシェルは拳を握る。


「……俺はアシェルだ。

 それで十分だろう。」


アーカーの声に微かな笑みが含まれた。


『違うな。

 “アシェル”とは、お前の外側が与えた名。

 お前の内側が名乗る名ではない。』


アシェルは言葉に詰まる。


ノワがそっとアシェルの手を握った。


――あしぇる……

――われ は……なまえ が ない……

――だから わかる……


――“なまえ” は……

――きみ が きみ を えらぶ……いちばん たいせつ な もの……


アーカーが言う。


『例外の男。

 お前は“自分が何者であるか”を、

 一度も定義したことがない。

 復讐者、夫、農夫、生存者――

 それらはすべて外側の名だ。


 私は問う。

 “お前は、自分を何と呼ぶのか”。』


 



◆白い書板に“アシェルの存在線”が現れる


一瞬、書板に黒い線が走り、

それがアシェルの形になった。


だが――

輪郭があいまいで揺れ続けている。


アーカーが告げる。


『これがお前の存在線。

 心はある。

 意志もある。

 生の理由も得た。


 だが“名による固定”がないため、

 定義が揺らいだままだ。』


アシェルは書板に触れようとするが――

指が触れる直前で線は波紋となり、消えてしまう。


(……俺という存在が……確固としていない……?

 そんなはずは……)


ノワが優しく問う。


――あしぇる……

――“きみ が きめた なまえ” を……

――きみ は もってる……?


アシェルは答えられなかった。


(……俺が自分でつけた名前……?

 そんなもの……考えたこともなかった……)


理由も、意志も、目標も生まれたのに――

“名”だけが空白。


それが、第三段階の黒核を “安定させない最大の原因” でもあった。


 



◆アーカーの本心が揺らぐ


アーカーが静かに言う。


『名は、力だ。

 名を持つ者は、世界に一つの線を引く。

 名を持たぬ者は、世界と混ざり、消える。』


アシェルは睨みつける。


「お前は……何者なんだ。

 お前の名は……?」


アーカーが初めて、

わずかな間を置く。


そして短く答えた。


『私は――“アーカー”。

 これは私が自ら選んだ名だ。

 世界に刻むための名。

 因果を操作する者としての名。

 私自身の定義。』


アシェルは息を飲む。


(自分の名を自分で選んだ……?

 それは……強い……)


ノワが震えながら言う。


――あしぇる……

――きみ は……なに を えらぶ……?


アカーの声が落ちる。


『言葉にしろ。

 “お前は何者なのか”。

 アシェルという名を捨てろとは言わない。

 だが――

 “お前が自分をどう定義するのか” を言え。』


白い書板に、

再びアシェルの影が揺れる。


その輪郭に、

黒核の光が微かに灯る。


アシェルは胸の奥に沈んでいた感情を掬い上げるように

ゆっくりと口を開いた。


「俺は……」


ノワが息を呑み、

白い世界が静まり返る。


アーカーの声が重く響く。


『言え。

 それが“第三段階の黒核”を確定させる。

 そして――

 お前という存在が“世界と並ぶ力”を持つ第一歩となる。』


アシェルは心の底から言葉を掘り出した。


(俺は……

 何を求め……

 何を守り……

 何のために在る……?)


そして――


生まれて初めて“自分自身の名”を名乗ろうとした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ