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カーディア  作者: アデル
第一章 第四項 最深部への門
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12

『実験領域――アーカーの干渉』


 


白い世界が崩れ、

アシェルとノワは深淵を落ち続けていた。


だが、着地の衝撃はなかった。


気づけば――

二人は“黒い床”の上に立っていた。


黒。

ただ黒。


深淵ではない。

重力も温度もない、

“意図的に作られた黒”。


アシェルは周囲を見回し、息を飲んだ。


(……ここは……

 明らかに今までの精神領域とは違う……)


ノワが不安げに震える。


――あしぇる……

――ここ……“とう の そと” の におい が する……


アシェルはぎょっとした。


「塔の外……? 今のはどういう意味だ?」


ノワは影を揺らす。


――とう の なか の しれん は……

――“かんり された うち がわ” の くうかん……

――でも ここ は……

――“かんりしゃ の て” が ふれた あと……


アーカーの声が降りてくる。


『よく気づいたな、ノワ。

 ここはもう“試練”ではない。

 私の“実験領域”。』


アシェルが構えるように前を睨む。


「実験……?

 どういう意味だ。」


『簡単だ。

 お前の“生きる理由”が予想の外に出た以上、

 私はお前の成長過程を観察する段階へ移った。』


アシェルは怒気を含んで言い返す。


「観察……?

 俺を道具のように扱うつもりか?」


アーカーは淡々と言う。


『当然だ。

 例外とは“未来の誤差”。

 誤差は利用価値がある。』


ノワがアシェルにしがみつく。


――あしぇる……

――あれ……きらい……

――われ の かんじょう を……

――ぜんぶ……こわす……


 



◆黒核の“副作用”が始まる


突如――

アシェルの胸の黒核が激しく鼓動した。


ドクンッ!!

 ドクンッ!!


アシェルは思わず胸を押さえる。


「く……何だ……!?

 さっきとは違う……

 熱じゃなく……“圧”が……!」


ノワが必死にアシェルの手を握る。


――あしぇる!!

――それ……“さんだんかい” の はつよう……!!

――いま の きみ の からだ じゃ……

――まだ うけとめられない !!


アーカーの声が重なる。


『副作用だ。

 第三段階の黒核は、

 “生の理由”に従って形を変える。

 だが肉体が未対応のままでは――

 存在が内部から破綻する。』


アシェルは苦しげに歯を食いしばった。


「クソッ……!!

 まだ成長しきっていないのに……

 核だけが先に行こうとしている……!」


ノワが震える。


――あしぇる……やめて……!!

――いま は……むり……!!

――きみ が こわれちゃう……!!


アーカーは静かに告げる。


『安心しろ。

 ここからは私が“誘導”する。

 お前が壊れないように――

 調整してやる。』


アシェルは怒りを露わに叫ぶ。


「俺を勝手に調整するな!!

 俺の核は俺のものだ!!」


アーカーが答える。


『違う。

 黒核は“世界の欠損から生まれたもの”。

 お前は器でしかない。』


アシェルの目が赤く光った。


「……なら、器ごとぶち壊してやる。」


アーカーは興味深げに返す。


『その反逆心――悪くない。

 だが“器の破壊”は黒核にとって死。

 お前は矛盾し、ゆえに面白い。』


 



◆ノワの異常事態


そのとき――

ノワの影が急激に揺らいだ。


「あ……ぐ……!」


――あしぇる……

――あれ……

――あれ は……ちがう……


アシェルは驚く。


「ノワ!?

 どうした!?

 何が見えている!?」


ノワは震えながら指を差した。


――あしぇる の うしろ……

――なにか……

――“かげ” が……あしぇる に ついてくる……


アシェルは振り返る。


しかし――

何もいない。


ノワは続ける。


――あれ は……

――“あーかー の のぞみ” が……

――かたち に なろう と してる……


アーカーがその言葉を遮るように言う。


『ノワ。

 お前程度の解析では理解できん。

 黙っていろ。』


ノワが怯えて縮こまる。


アシェルはアーカーへ怒鳴った。


「ノワに触れるな!!」


アーカーはあくまで冷静だ。


『触れてなどいない。

 だがノワという存在は“黒核の副作用”の影響を

 最も受けやすい。

 お前の核が進化すれば、

 ノワも必然的に変質する。』


ノワの影が苦しげに歪む。


――あしぇる……

――われ……こわい……

――きみ の へんか が……じゃなくて……

――“われ の じたい” が……かわる の が……


ノワですら理解できない変化が起きつつある。


アシェルはノワを抱き寄せる。


「大丈夫だ。

 変わってもいい。

お前は俺の仲間だ。

それは変わらない。」


ノワは涙のような光を散らした。


――あしぇる……


アーカーが低く言う。


『情動は後にしろ。

 次の領域へ進む。

 ここから先は――

 “実験としての精神干渉”だ。

 お前がどこまで“人間でいられるか”

 観察させてもらう。』


黒い床が波を打ち、

空間に巨大な“目”が開いた。


“アーカーの観測窓”。


ノワが震え、アシェルの背に隠れる。


――いや……いや……!!

――あれ……“みてる”……

――あしぇる を……!!


アシェルは睨み返す。


「見ろよ。

 見た上で――俺が“例外のまま”生きるところをな。」


アーカーは静かに答えた。


『それは期待しよう。

 次は――人間の境界を試す。』


黒い床が再び沈み、

空間が別の形へ変質し始める。


アーカーの実験領域。

精神試練の最深部。

アシェルとノワが、

“人間性の極限”に触れる場所へ。

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