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カーディア  作者: アデル
第一章 第四項 最深部への門
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1

『静寂の管理層――塔が変わった理由』


 


サリエルが消えた後の第六層は、

まるで息を潜めたように静かだった。


崩壊しかけた空間がゆっくりと修復されていき、

あの激しい戦闘が嘘のように、

均整の取れた青白い回廊へと姿を戻す。


アシェルは壁に手をつき、

深く息を吐いた。


(……戦いが終わったというのに……

 胸の黒核は、むしろ熱を増している……)


ノワがふわりと浮きながら寄り添う。

その身体は薄く、弱々しい。


――あしぇる……

――だいじょうぶ……?

――われ……あんまり……ながく は……もたない……


アシェルはノワの影頭にそっと触れた。


「無理させた。

 でも、お前がいてくれたから勝てたんだ。」


ノワは嬉しそうに震える。


――あしぇる が……

――そう いってくれる の が……

――いちばん……うれしい……


だが影の揺れは弱い。

明らかに、限界が近い。


(……黒核の暴走を抑えるために、

 ノワは自分の核を削って受け止めてくれた……

 このままでは……)


心の中に、焦りが生まれる。

だが進まねばならない。

この先に、妻を奪った全ての元凶がいる。


アシェルはノワを抱き寄せるようにして歩き出す。


 



◆塔の雰囲気が“変わった”


第六層の出口へ向かう途中、

アシェルは気付いた。


空気が違う。


これまで塔は、

侵入者であるアシェルを排除するために

罠や因果操作を惜しみなく仕掛けてきた。


だが今は――


敵意が薄い。

むしろ、“静かに道を開いている”。


(……何だ……この感覚……

 塔が……俺を通すことを前提に動いている……?)


ノワが震えた声で言う。


――あしぇる……

――ここ……“うけいれよ う” と してる……


「受け入れ……?」


ノワは弱々しく頷く。


――きみ が……

――“かんし ゅ” の とびら に ちかづく ほど……

――とう は……“よろこんでる”……


アシェルの背筋が冷たくなる。


(塔が……喜んでいる?

 俺がここまで来たことを……?

 なら俺に何をさせたい……?)


問いは胸に重く沈んだまま、

第六層の最奥へたどり着く。


そこには――

巨大な黒い門があった。


門は静かに脈動している。

黒核と同じ、低い鼓動を持って。


「……ここが“管理層”か。」


ノワがぼそりと囁く。


――“あーかー” の けはい が……

――すこし する……


アシェルは拳を握りしめた。


(サリエルが最後に言っていた……

 アーカーは“世界のためではなく自分のため”に

 因果を操作していると……

 あいつを倒さなければ、何も終わらない)


門へ手を伸ばした時――

塔の奥から声のようなものが微かに響いた。


『――来い。

 例外の男。

 私は《管理者アーカー》。』


アシェルの呼吸が止まる。


初めて聞くその声は、

サリエルとは違う。

冷たさすら超越した“無音の音”のようだった。


――ひや……だ……

――あれ は……

――ひと の こえ じゃない……


ノワが震え、アシェルの腕にしがみつく。


アシェルは小さく頷いた。


「……ああ。

 間違いなく、あいつが“全ての中心”だ。」


門が静かに開き始める。


奥には――

塔の構造とは明らかに異質な、

黒と白の層が混ざり合う“未定義の空間”。


アシェルは覚悟を決める。


(ここから先は……人の領域じゃない。

 だが、戻るわけにはいかない)


ノワが最後の力を振り絞り、言う。


――あしぇる……

――どんな かたち に なっても……

――われ は……きみ の そば に いる……


アシェルは優しくノワに触れた。


「行くぞ、ノワ。

 俺の復讐は……今始まる。」


そして――

アシェルはアーカーの領域へ足を踏み入れた。


第四項・管理層突入編、開始。

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