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カーディア  作者: アデル
第一章 第三項 復讐者の旅路・序章
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『決着前夜――黒核暴走封印と観測者の弱点』


 


空間がねじれ、光が砕け、

第六層はほとんど戦場というより“崩壊する理論空間”と化した。


アシェルの黒核は、

胸の奥で“別の心臓”のように鼓動し始めていた。


ドクン……

   ドクン……!!


「……ぐ……っ……!」


黒い線がアシェルの皮膚を走り、

腕、胸、首筋へと広がっていく。


ノワが泣き声のように叫ぶ。


――あしぇる!!

――このまま じゃ……

――“きみ” が いなくなる!!


アシェルは息を切らしながら答える。


「……分かってる……

 でも……黒核が……止まらない……!」


黒核は囁いている。


《――タタカエ》

《――マワリヲケシ、タダノコアニナレ》

《――オマエノ ヒトトシテノ カチハ ムダ》


その声に、

アシェルの意識が薄れかけた――が。


ノワがアシェルの胸に飛び込み、

自分の影の核を重ねるように抱きしめた。


――あしぇる の ねつ……

――われ が うけとる……

――すこし だけ……!!


アシェルは驚く。


「ノワ!?

 そんな事をしたら、お前が――!」


――だいじょうぶ じゃ ない……

――でも……あしぇる が いなくなる より……

――ずっと まし


ノワの影が熱を吸収し、

黒核の暴走がほんの少し緩む。


だが代償として、

ノワの身体は白く薄れていく。


アシェルは必死に叫んだ。


「ノワ!! もうやめろ!!

 お前が消えたら……俺は……!!」


ノワは揺らぎながら微笑む。


――あしぇる は

――だれ か を まもる ちから が ある

――それ が きみ の ほんとう の かたち

――われ は……その ちから を

――すこし かす だけ……


アシェルの胸が痛む。


(……俺を守るために……

 ノワが自分を削っている……

 こんな力……欲しくなかった……!)


 



◆サリエルの“変化”


サリエルが静かにアシェルを見つめていた。


その表情は――戦士のものではない。


観察者。

そしてどこか、“羨望”すら混じった眼。


「……アシェル。

 未分類因果体とここまで深く結びついた人間を見たのは初めてだ。」


アシェルは怒りを込めて返す。


「これは絆だ。

 分類なんてくだらない枠に押し込むな!!」


サリエルはかすかに目を伏せる。


「分類は……逃れられぬものだ。

 私は“観測されるために存在する因果体”だ。」


アシェルは目を細める。


「……今のは……どういう意味だ?」


サリエルは答えない。


ただ、手のひらを広げると空間の一部が割れ、

青白い光が波紋のように広がった。


「そろそろ決着をつける。

 お前の黒核が暴走する前に。」


アシェルの胸が再び苦しげに脈打つ。


ドクン……!!

黒翼の影が背から広がり、

アシェルの足元の影が深く沈む。


ノワが完全に抱きしめて抑え込んでいるにも関わらず――

暴走はもう止まらない。


(……このままだと……

 黒核が俺の意識を飲む……!)


 



◆致命的弱点の発見


サリエルが構えた瞬間――

アシェルの視界が“暗い線”で覆われた。


世界が黒と白の層に分かれ、

サリエルの身体を構成する因果線が見える。


アシェルは思わず呟く。


「……見える……?

 サリエルの因果が……」


ノワが震える声で言う。


――あしぇる の め が……

――“かくとく した”

――くろかく の しそく……

――すべて の いと を “みる まなこ”


アシェルはその光景の中で、

一本だけ“異質な線”があることに気づく。


(……あれは……?)


サリエルの全身を構成する線の中で――

1本だけ、微かに“揺れている線”があった。


固定されていない。

選択されていない。

存在が定まりきっていない。


(あそこだ……

 あれを切れば、サリエルは形を保てなくなる……!)


ノワが小さく頷く。


――わかった の!?

――あしぇる……すごい……!!


サリエルはまだ気づいていない。


「来い、アシェル。

 私を越えられるか、示してみろ。」


アシェルは構えた。


黒核が暴走する直前のギリギリで、

人としての意思がまだ残っている。


その意思で――

アシェルは一歩前に出た。


「サリエル……

 お前の弱点は見えた。」


サリエルは目を細める。


「ほう……?」


アシェルは黒核の光を押さえつけながら言った。


「お前の存在は“観測された結果”でしかない。

 だから――

 その“結ばれきっていない線”を断てば……

 お前は存在できない。」


サリエルの目が初めて揺れた。


「……何……?」


アシェルは拳を構えた。


「次で終わりだ。」


ノワが影を広げる。


――いこう……あしぇる……

――“けっちゃく の いっせん” だ


サリエルが構え直す。


「来い。

 破壊者アシェル。」


アシェルは暴走寸前の黒核を抱えて――


決着の一撃へと踏み出した。

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