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『第二段階:黒核覚醒の兆し』
アシェルの拳がサリエルを捉えた衝撃の余韻が、
空間にまだ微かに残っている。
だがサリエルの表情に動揺はない。
その眼差しは、むしろ先ほどより鋭く、深い。
「……理解した、アシェル。
お前の黒核は“正常な破壊者”ではない。」
アシェルはゆっくりと体勢を整え、肩で息をした。
「そんな分類はどうでもいい。
お前を越えれば、それで……」
その瞬間――
胸が焼け、黒核が震え上がった。
「ッ……!?」
ノワが叫ぶ。
――あしぇる!!
――“おきてる”!!
――くろかく が……べつ の かたち に……!!
アシェルの胸の黒核から、
影のような“もう一つの輪郭”が溢れ出した。
肉体の表面を走る黒い線が、
まるで生き物のように蠢き始める。
アシェルはその中で、
自分の“意思”が淡く引き剥がされていく感覚に震えた。
(……だめだ……
これ以上は……俺じゃなくなる……!)
サリエルは興味深げに言う。
「それが“第二段階の覚醒”か。
黒核が宿主の因果系統を上書きし、
一時的に“本体と直結する形”へ移行する状態。」
アシェルは唸るように声を絞り出す。
「……俺は……覚醒なんて望んでない……!」
サリエルは首を横に振る。
「違う。
望んでいるのは黒核だ。
破壊の最適化こそがその本能だ。」
ノワが必死にアシェルの前へ飛び込む。
――やめて!!
――あしぇる を とらないで!!
――あしぇる は “われ の ぬし” だ!!
アシェルは意識を引き戻すように叫ぶ。
「ノワ……!
俺はまだ……大丈夫だ……」
しかし、身体は明らかに“大丈夫”ではなかった。
◆
◆黒核の“第二段階”が始まる
アシェルの視界が暗転し、
サリエルの姿が黒い線の集合体に見え始めた。
音が薄くなり、
代わりに“世界の構造音”が聞こえる。
(……やめろ……
これ以上見えるようになれば……
俺は人ではなくなる……!)
黒核がささやくように囁く。
《――イラナイモノヲ、コワセ》
《――ソレダケデ、セカイハカタチヲトリモドス》
《――オマエノイタミヲ、ケスホウホウハ“コワスコト”ダ》
アシェルは歯を食いしばった。
「黙れ……
俺は……ただ破壊するだけの存在じゃない……!」
ノワが震えながら抱きつく。
――あしぇる!!
――もどって!!
――きみ は “ひと” だ!!
――“われ の よびかけ” に、こたえて!!
その声が引き金になった。
アシェルの意識がわずかに戻り、
荒れ狂う黒核の渦の端で踏み止まる。
(……まだ……
俺はまだ、俺だ……!)
だが、黒核の暴走は止まらない。
アシェルの足元に走った影が、
数十本の刃に変形し、無意識にサリエルへ向かう。
サリエルはそれを紙一重で避け、
つぶやくように言った。
「……ノワ。
お前は間違いなく“この男の楔”だ。」
ノワが怒りに震える。
――“くさび” じゃない!!
――“とも” だ!!
サリエルは珍しく表情を変えた。
「友……?
未分類因果体が、宿主と“友”を名乗るとは……
面白い。」
アシェルは叫ぶ。
「ノワは友達だ。
お前の価値基準で語るな!!」
黒核の刃がさらに伸び、
アシェルの背に黒い翼のような影を作り始める。
サリエルは小さく頷いた。
「……やはり、お前は“例外”だ。」
「破壊者でも修復者でもない。
黒核の設計から逸脱し、
独立した自我を持ち、
未分類因果体と協力しながら暴走を抑える……」
アシェルは息を荒くしながら言う。
「……分類なんて……
どうでもいい……」
サリエルは断言した。
「お前だけは、どの未来にも“書かれていない”。
どの構造にも“位置づけられない”。
因果の外側にも内側にも属さない存在。」
「――アシェル、お前は“世界が定義できない存在”だ。」
アシェルの目が揺れる。
(世界が……俺を定義できない……?
俺は……そんな存在なのか……?)
サリエルが手を構える。
「だからこそ排除すべきだ。
世界の整合性を保つために。」
ノワがアシェルを抱き寄せて叫ぶ。
――あしぇる!!
――また くる!!
――じぶん を まもって!!
アシェルは黒核に飲まれかけながらも構え直す。
「……来いよ、サリエル……
俺の存在を定義できないなら……
殴られて覚えろ……!!」
サリエルの目が光る。
「第二段階――始める。」
空間が崩壊し、
黒核が完全暴走へ向かい、
戦闘は激化の頂点へ向かう。




