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カーディア  作者: アデル
第一章 第三項 復讐者の旅路・序章
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16

『第六層:干渉層──白衣の観測者サリエル』


 


第五層を抜け、

アシェルとノワが踏み入れた第六層は――

これまでとはまるで違っていた。


空間は静止している。

風も、光の粒子も、揺れもない。


あるのは“息をひそめた世界”だけ。


ノワが小さく呟いた。


――あしぇる

――ここ は だれ か が “みている”

――とても ちかく で


アシェルは一歩踏み出し、気配を探った。


(……いる。

 この空間の中心に、意識がある……

 俺を“観測”し続けていた奴だ)


その瞬間。


空間が裂けるように揺れ、

白い線が集まり――

一人の“男”へと形を成した。


白い外套。

仮面のような無感情な顔。

黒髪は静かに流れ、重力すら拒むように浮いている。


アシェルは拳を握りしめた。


「……サリエル」


白衣の観測者はゆっくりとアシェルに視線を向けた。


「久しいな、アシェル・レイヴ。

 お前がここまで到達したのは……正直、驚きだ。」


ノワが敵意を露わに影を膨らませる。


――おまえ が

――むら を きえさせた!!


サリエルは無表情のまま答える。


「正確には違う。

 ただ、命令を実行しただけだ。

 無価値区域の削除は、“アーカー”の判断だ。」


アシェルの呼吸が荒くなる。


「だったら俺はお前を憎まないと思うのか……?」


サリエルは僅かに肩をすくめた。


「憎しみは好きにしろ。

 ただし、お前は誤解している。」


「俺はな……

 お前たちの村が“死ぬ”瞬間すら観測していない。」


アシェルが目を見開く。


「どういう意味だ……?」


サリエルは淡々と語る。


「“削除”とは、生死を扱う行為ではない。

 存在を“無かったこと”にする処理だ。


 だから、死ぬ瞬間など発生しない。」


アシェルは怒りで声を震わせた。


「……ふざけるな!!

 消されたのも、死んだのも同じだ!!

 俺にとっては失ったんだ!!」


サリエルはわずかに首を傾げた。


「理解はする。

 だが、事実としてお前は“被害者ですらない”。

 お前たちは最初から──」


ノワが吠えるように叫ぶ。


――いう な!!

――あしぇる の こころ を きる ことば!!


サリエルはノワに視線を向けた。


「……未分類因果体。

 お前は本来、破棄されるべき存在だ。

 宿主への依存が強い。」


ノワは影を震わせる。


――おまえ に

――われ の なん が わかる!!


サリエルは冷たく言った。


「理解している。

 お前は“修復者に寄生できるよう設計された”

 本来なら未完成の因果生物だ。」


アシェルはノワを守るように前に出た。


「黙れ。

 ノワは“俺が選んだ存在”だ。」


サリエルはここでほんのわずか、表情を変えた。


驚き。

いや――“興味”。


「……なるほど。

 だからお前は黒核暴走を抑えられたのか。」


「アシェル。

 お前は、修復者として完成する可能性を持っている。

 なぜそれを捨て、復讐などという下劣な目的に使う?」


アシェルは睨み返す。


「それが俺の歩く道だからだ。」


サリエルはため息のように言った。


「……分かっていないな。

 修復者とは世界を全面的に“治す役割”だ。

 お前が修復者として完成すれば、

 因果の傷は塞がり、

 人類は再び統一される。」


アシェルはゆっくりと首を振った。


「俺は“世界のため”なんて興味はない。

 俺は……俺の大事なものを奪った力を壊すために存在する。」


「だから俺は……

 修復者じゃなく、“破壊者”として歩く。」


ノワの影が天井まで広がった。


――そう!

――あしぇる は “のぞんで こわれよう と してる” んじゃない

――“まもる ため に こわす” んだ!!


サリエルは沈黙し、

やがて深く息を吐くように呟いた。


「……アーカーが、お前を危険視した理由が分かった。」


「だが、今ならまだ間に合う。

 黒核を解放すれば、お前は修復者へ戻れる。」


アシェルはその誘いを即座に拒絶した。


「お前たちの“正しさ”は全部嘘だ。

 犠牲を正当化してるだけの、効率主義の亡霊だ。」


サリエルの表情が、初めて揺れる。


「……アシェル。

 お前は“世界の敵”になる。」


アシェルは真っ直ぐに言った。


「違う。

 俺が敵にするのは“世界を狂わせた中心”だ。」


 



◆サリエルの最後の言葉


サリエルは静かに手を挙げた。


空間が軋み、光が逆流する。


「……良いだろう。

 ならばここで、お前を試す。」


「修復者ではなく破壊者を選んだお前が、

 本当に“世界に値しない存在”なのかどうか。」


アシェルが黒核に手を添える。


ノワが後ろから支える。


――あしぇる

――かつ

――きみ の みらい は きみ が つくる


サリエルは白衣を翻し、

空間全体を戦闘領域へ変換した。


「では――アシェル。

 破壊者としての力、見せてもらおう。」


アシェルはまっすぐにサリエルを見た。


「お前からだ。

 お前を越えなければ、村にも妻にも顔向けできない。」


そして、

第六層は戦闘の光で満たされ始めた。


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