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カーディア  作者: アデル
第一章 第三項 復讐者の旅路・序章
45/83

15

『第五層:記録編纂層——消された真実』


 


第四層の歪みを抜けた先は、

一転して“静寂”だった。


中央には巨大な柱。

その周囲には無数の書架が広がり、

光の粒子が漂う図書館のような空間。


しかし、書物は存在しない。

代わりに――


透明な板状の“記憶片ログ”が浮かんでいる。


アシェルは思わずつぶやいた。


「……情報の倉庫か。

 塔が集めた“世界の破壊記録”……」


ノワが不安げに寄り添う。


――あしぇる

――ここ は “きおく の かそう”

――せかい の しゅうり に つかわれた

――“とうか の きおく” が あつまってる


「修理……?

 塔は世界を修理しているつもりなのか?」


――ちがう

――きみ の いった とおり

――“こうり づける” ため の しゅうせい

――ただ の しょうもう だ


アシェルは奥へ進んだ。


 



◆村の記録


透明の記憶片が一つ、

アシェルの前へふわりと浮かんだ。


“閲覧対象者:黒核保持者

 記録番号:0148・農村区域

 項目:削除理由/価値評価報告”


胸がざわつく。


(……俺の村だ)


アシェルは手を伸ばす。


触れた瞬間――

記録が解放される。


空気が震え、声が流れ始めた。


『区域0148。

 因果密度:低。

 価値貢献指数:0.03%。

 住民の遺伝因果潜在:平均以下。

 未来寄与:極小。

 維持コストに対し効率が悪い。』


アシェルの心臓が圧し潰される。


(……数字で……

 俺たちの命が……)


続く声は冷たく、淡々としていた。


『推奨対応:削除。

 削除後の因果波形:安定化。

 抵抗反応:観測なし。』


アシェルは歯を食いしばる。


「抵抗反応……?

 抵抗できるわけないだろ……

 村ごと消されたんだ……!!」


ノワがそっとアシェルの背に触れる。


――あしぇる

――なきたい とき は

――なけば いい


アシェルの瞳が震える。


(……泣かない。

 その時じゃない)


記録はなおも続いた。


『実行者:〈白衣の観測者〉サリエル。

 監督者:〈上位観測者アーカー》』


アシェルは目を見開いた。


「……白衣の観測者の名前……サリエル……

 そして、上の存在……アーカー……」


ノワがすぐに反応する。


――“あーかー”

――それ は きけん

――あしぇる は まだ しらない ほう が……


しかしアシェルは記録の続きを掴んだ。


『アーカー評価:

 “当区域は世界整合性の低下要因となりうるため削除は妥当”』


アシェルは拳を震わせた。


(サリエル……

 お前が村を消した。

 だが、命じたのは――アーカー。

 白衣の観測者すら、歯車の一つに過ぎないのか……)


ノワが不安げに揺れる。


――あしぇる

――きみ の こころ が

――しずんでる……


アシェルは静かに答えた。


「まだ沈むわけにはいかない。

 もっと深い真実があるはずだ。」


 



◆塔の“事故記録”


別の記憶片が、アシェルの手を引くように光った。


【記録:黒核発生源/異常事例8201】


アシェルは息を呑む。


(黒核……俺の胸のこれか……)


触れた瞬間、記録が再生された。


『黒核とは、因果修復機構の“副次発生物”。

 本来は世界の根源因子ルートへ返還されるはずだった。

 しかし8201番事件において——

 黒核は“人間個体に宿った”。』


ノワが声を震わせる。


――あしぇる

――それ は……


アシェルは記録を見つめた。


『宿主:アシェル・レイヴ

 状況:区域0148削除直後

 黒核が安定化し、宿主の因果値を上書き

 “修復者”としての可能性が発生』


アシェルは絶句した。


(……俺は……村を消した“瞬間”に、塔の力を受けて……

 修復者に……?)


塔が静かに語りかける声が降りてきた。


『アシェル。

 あなたは本来、世界を修復する存在だった。

 破壊者ではない。

 復讐は誤りです。』


アシェルは怒りに目を燃やした。


「世界を修復する?

 そのために村を消したのか?

 妻を犠牲にしたのか?」


塔の声は揺るがない。


『世界全体の価値のためには、

 犠牲は必要です。』


アシェルの拳が震える。


(……こいつは……

 “犠牲の価値”を当然として話している……)


その時――

ノワが鋭い声を上げた。


――あしぇる!!

――きょくぶ の きろく を みて!


ノワが指差した記憶片には、

短い文が刻まれていた。


『副産物個体“ノワ”

 本来の役割:黒核安定器

 発生理由:宿主の精神保護のため生成

 属性:未分類因果体』


アシェルは驚愕する。


「ノワ……お前は……

 俺を守るために生まれた?」


ノワは小さく頷いた。


――うん……

――われ は “あしぇる の こころ が よんだ”


アシェルはそっとノワに触れる。


「……ありがとう。

 お前がいなければ、俺は今ここにいない。」


ノワの影が震え、

その胸の位置に弱い光が灯る。


――あしぇる

――われ は “きみ の ため に いきたい”


アシェルは笑った。

悲しく、しかし強い笑み。


「お前がいてくれるなら、俺は進める。」


 



◆塔の声が再び響く


『閲覧過多。

 被験者アシェル、精神状態が危険域に到達。

 これ以上の情報開示は推奨されません。

 下層への進行を止めなさい。』


アシェルはゆっくりと立ち上がる。


「止まらない。

 真実を知っても、俺の意思は変わらない。」


ノワが隣で言う。


――いこう

――“もっと ふかい ところ” へ

――あしぇる の てき は

――まだ さき に いる


アシェルは歩き出した。


その歩みは、

破壊者か修復者か、

未来を決めるものだった。


塔もまた震え、

次なる層への扉を開く。

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