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『第四層:因果歪曲室——影の正体』
第三層が砕け落ち、
アシェルとノワはゆっくりと暗闇に降りていった。
足元に感じたのは、
地面でも床でもない――“揺れる感触”。
アシェルは眉をひそめた。
「……ここは……?」
周囲を見渡すと、
空間そのものがゆらゆらと波打っている。
壁はない。
代わりに、
流体のように揺れる“薄い青の膜”が広がり、
そこに無数の線が走り回っている。
まるで、
世界の構造式を透明化して見せられているような空間。
ノワが小さく身を震わせた。
――あしぇる
――ここ は “せかい の いと” が みえてる
――きみ の ちから が
――もっと ふかい ところ に とどく ばしょ
アシェルは胸の黒核が熱く脈動するのを感じた。
(……なんだ、この反応は……
まるで、この層が……俺に近い?)
ノワは不安げにアシェルへ寄り添う。
――あしぇる
――きを つけて
――ここ は “われ の す” に にている
「お前の……巣?」
――うん
――われ は もともと
――こういう とこ から きた
アシェルは言葉を失った。
(ノワは……塔から生まれたわけじゃない。
もっと深い、因果の奥底から……?)
ノワは続ける。
――われ は “いんが の かたち の ひとつ”
――きみ の こころ に よばれて
――この かたち になった
アシェルは理解した。
「……つまりノワは……
俺が欲した“伴侶”なんだな」
ノワは照れるように影を揺らした。
――そう
――きみ が “こわれない よう に”
――われ は ここ に いる
◆
◆塔の“本気の歪み”が始まる
突然、空間が震えた。
青い膜が破れ、
裂け目から黒い線が飛び出す。
その線は、蛇のようにアシェルへ絡みつこうとした。
アシェルは身をかわしたが――遅い。
一本の黒線が、アシェルの胸に触れた。
◆
◆黒核の暴走
「あ……っ……!」
黒核が悲鳴のように震える。
まるで内側から引きずり出されるように、
アシェルの意識が引っ張られた。
ノワが叫ぶ。
――あしぇる!!
――だめ!!
――それ に ふれたら
――きみ は “ねもと の いんが” に ひっぱられる!!
アシェルの視界が歪む。
(……力が……
勝手に引き出される……!!)
塔の声が部屋中に響く。
『黒核保持者アシェル。
あなたの力は、人類のために使用されるべきです。
戦う必要も、憎む必要もありません。
あなたは“この塔の後継者”となる素質がある。』
アシェルは歯を食いしばる。
「ふざけるな……
俺が……お前の……?」
塔は続ける。
『世界の傷を修復し、
価値の低い領域を取り除き、
存在を正常化する。
あなたにその役割を継いでほしい。』
アシェルは叫んだ。
「誰が……!!
誰がそんな世界を――!!」
黒核がさらに膨張し、
暴走寸前。
ノワがアシェルに覆いかぶさるように影を広げた。
――あしぇる
――おちつけ
――きみ は “つぐもの” じゃない
――きみ は “あしぇる” だ!!
その言葉が届いた瞬間――
黒核の暴走が少しだけ収まる。
アシェルは息を荒く吐いた。
(危なかった……
ノワがいなければ、俺は塔の“駒”になっていた……)
塔が冷たく告げる。
『あなたの力は、個人の復讐に使う価値はありません。
世界の修復という“大義”にこそふさわしい。』
アシェルはゆっくりと立ち上がる。
「俺の力の使い道を決めるのは俺だ。
“世界のため”なんて大義を押しつけるな。」
塔は答える。
『復讐は価値が低い。』
アシェルは静かに言った。
「……知ってるよ。
価値なんて、正当化のための言葉だろ。」
ノワが隣で頷く。
――あしぇる
――ことば が ぶれなく なった
――それ が きみ の ちから
塔の声がわずかに乱れる。
『……理解不能……
目的の不確定……
価値基準への拒絶……』
アシェルは黒核を握りしめ、前に進む。
「俺は塔に従わない。
俺の力は俺のものだ。」
「そして――
俺は復讐しに来た。」
空間が激しく揺れ、
壁のごとき青の膜がすべて裂け落ちる。
ノワが指差した。
――あしぇる
――“つぎ の もん” が あいた
塔が最後に呟く。
『後継拒否……
復讐を優先……
評価:破壊者候補。』
アシェルは笑った。
皮肉を込めた、冷たい笑み。
「やっと正しい評価だな。」
ノワとともに、アシェルは第五層へと進む。
塔の深部へ近づけば近づくほど――
塔は恐れ、歓迎し、期待し、拒絶してくる。
それがアシェルの“異質さ”を証明していた。




