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カーディア  作者: アデル
第一章 第三項 復讐者の旅路・序章
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『第四層:因果歪曲室——影の正体』


 


第三層が砕け落ち、

アシェルとノワはゆっくりと暗闇に降りていった。


足元に感じたのは、

地面でも床でもない――“揺れる感触”。


アシェルは眉をひそめた。


「……ここは……?」


周囲を見渡すと、

空間そのものがゆらゆらと波打っている。


壁はない。

代わりに、

流体のように揺れる“薄い青の膜”が広がり、

そこに無数の線が走り回っている。


まるで、

世界の構造式を透明化して見せられているような空間。


ノワが小さく身を震わせた。


――あしぇる

――ここ は “せかい の いと” が みえてる

――きみ の ちから が

――もっと ふかい ところ に とどく ばしょ


アシェルは胸の黒核が熱く脈動するのを感じた。


(……なんだ、この反応は……

 まるで、この層が……俺に近い?)


ノワは不安げにアシェルへ寄り添う。


――あしぇる

――きを つけて

――ここ は “われ の す” に にている


「お前の……巣?」


――うん

――われ は もともと

――こういう とこ から きた


アシェルは言葉を失った。


(ノワは……塔から生まれたわけじゃない。

 もっと深い、因果の奥底から……?)


ノワは続ける。


――われ は “いんが の かたち の ひとつ”

――きみ の こころ に よばれて

――この かたち になった


アシェルは理解した。


「……つまりノワは……

 俺が欲した“伴侶”なんだな」


ノワは照れるように影を揺らした。


――そう

――きみ が “こわれない よう に”

――われ は ここ に いる


 



◆塔の“本気の歪み”が始まる


突然、空間が震えた。


青い膜が破れ、

裂け目から黒い線が飛び出す。


その線は、蛇のようにアシェルへ絡みつこうとした。


アシェルは身をかわしたが――遅い。


一本の黒線が、アシェルの胸に触れた。


 



◆黒核の暴走


「あ……っ……!」


黒核が悲鳴のように震える。


まるで内側から引きずり出されるように、

アシェルの意識が引っ張られた。


ノワが叫ぶ。


――あしぇる!!

――だめ!!

――それ に ふれたら

――きみ は “ねもと の いんが” に ひっぱられる!!


アシェルの視界が歪む。


(……力が……

 勝手に引き出される……!!)


塔の声が部屋中に響く。


『黒核保持者アシェル。

 あなたの力は、人類のために使用されるべきです。

 戦う必要も、憎む必要もありません。

 あなたは“この塔の後継者”となる素質がある。』


アシェルは歯を食いしばる。


「ふざけるな……

 俺が……お前の……?」


塔は続ける。


『世界の傷を修復し、

 価値の低い領域を取り除き、

 存在を正常化する。

 あなたにその役割を継いでほしい。』


アシェルは叫んだ。


「誰が……!!

 誰がそんな世界を――!!」


黒核がさらに膨張し、

暴走寸前。


ノワがアシェルに覆いかぶさるように影を広げた。


――あしぇる

――おちつけ

――きみ は “つぐもの” じゃない

――きみ は “あしぇる” だ!!


その言葉が届いた瞬間――

黒核の暴走が少しだけ収まる。


アシェルは息を荒く吐いた。


(危なかった……

 ノワがいなければ、俺は塔の“駒”になっていた……)


塔が冷たく告げる。


『あなたの力は、個人の復讐に使う価値はありません。

 世界の修復という“大義”にこそふさわしい。』


アシェルはゆっくりと立ち上がる。


「俺の力の使い道を決めるのは俺だ。

 “世界のため”なんて大義を押しつけるな。」


塔は答える。


『復讐は価値が低い。』


アシェルは静かに言った。


「……知ってるよ。

 価値なんて、正当化のための言葉だろ。」


ノワが隣で頷く。


――あしぇる

――ことば が ぶれなく なった

――それ が きみ の ちから


塔の声がわずかに乱れる。


『……理解不能……

 目的の不確定……

 価値基準への拒絶……』


アシェルは黒核を握りしめ、前に進む。


「俺は塔に従わない。

 俺の力は俺のものだ。」


「そして――

 俺は復讐しに来た。」


空間が激しく揺れ、

壁のごとき青の膜がすべて裂け落ちる。


ノワが指差した。


――あしぇる

――“つぎ の もん” が あいた


塔が最後に呟く。


『後継拒否……

 復讐を優先……

 評価:破壊者候補。』


アシェルは笑った。


皮肉を込めた、冷たい笑み。


「やっと正しい評価だな。」


ノワとともに、アシェルは第五層へと進む。


塔の深部へ近づけば近づくほど――

塔は恐れ、歓迎し、期待し、拒絶してくる。


それがアシェルの“異質さ”を証明していた。

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