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『第二層:価値選別領域』
第一層のループを破り抜けると、
光の裂け目の先には――
白すぎる空間が広がっていた。
床も壁も天井もない。
境界の曖昧な白の海。
ただ一点だけ、
黒い柱が立っていた。
アシェルは眉をひそめる。
「……ここが第二層か?」
ノワは震える声で答えた。
――あしぇる
――ここ は “きみ の かたち を はかる とこ”
――きみ を “かちづけ” しよう としている
アシェルは言葉を失った。
(俺の……価値?
村を消した思想……
“価値がない者を削除する”あの論理……
その原点がここか)
塔の冷たい声が響き渡る。
『選別領域へようこそ。
被験者アシェル・レイヴ。』
塔そのものが喋っている。
白衣の観測者の声とは異なる、無機質で感情のない声。
『これより“価値評価”を開始する。
基準:因果密度、未来寄与度、存在正当性。』
アシェルは目を細めた。
(正当性……?
存在に理由を求めるのか……)
塔の声は続く。
『基準値に満たない場合、
あなたは【存在不適合】と判定されます。』
ノワが震え、影が縮む。
――あしぇる
――きみ を けす きかん だ
――ここ は “へいき” じゃない
――“さばき” だ
アシェルは一歩前へ。
「来いよ……
俺はもう“価値”なんて言葉で揺らがない」
◆
◆塔による“価値評価”
黒い柱がゆっくりと光を放つ。
そこから、声が幾重にも流れ始めた。
『あなたの妻は、価値が低いと判断された。』
『村は維持コストに対して寄与値が少なかった。』
『あなた自身も、社会的価値は低い。』
『あなたは国に貢献しない。』
『あなたの存在は、因果全体の負担である。』
一つひとつの声が、心臓を刺してくる。
アシェルの拳が震えた。
(……俺の村が……
俺の妻が……
“価値が低いから消された”というのか……)
胸の黒核が異様に熱を帯び、
怒りが一気に噴き出しかける。
だが――
ノワがアシェルの腕を掴んだ。
――あしぇる
――きみ が こころ で たたかう と
――“まける”
アシェルは息を荒くしながら問い返す。
「……どうすればいい……」
ノワの声は震えていた。
――“きみ を はかる こと” に
――きみ が こたえない こと
――にんげん は “きめる もの”
――せかい に “きめられる” の じゃない
アシェルは静かに目を閉じた。
(価値……
塔は俺を従わせたいんじゃない。
“価値で判断される存在”に落とし込みたいんだ)
深く息を吐き、ゆっくりと目を開く。
そして――
アシェルは塔に向かって、はっきりと言った。
「俺の価値を、お前が決めるな。」
塔の声が静まり、
空間が一瞬、停止した。
アシェルは続ける。
「俺は消される存在じゃない。
俺は……俺の選んだ存在理由で立っている。
村のためでも、妻のためでもない。
俺は俺の意思で、お前たちを“否定”するために歩いてる」
ノワが涙のように影を揺らした。
――あしぇる……
塔が反応した。
『評価値、再計算。
“存在理由:自己決定”。
基準外の思想を検出。』
空間が大きく揺らぎ、
黒い柱が砕ける。
塔の声が警告音に変わった。
『判定不能。
対象は選別不能。
第二層の処理基準に適合しません――』
アシェルは一歩踏み出し、
黒核を柱に向けて解放する。
「だったら――
俺が、お前を選別してやるよ」
黒核から奔る黒い光が柱を貫いた。
ズガァァァァン……!!
白の空間が裂け、
下層への落下道が開く。
塔が揺れながら告げる。
『……価値破壊者。
あなたの存在は……塔にとって危険です……』
アシェルは薄く笑った。
「そうだろうな。
俺は“価値で命を測る世界”を壊しに来たんだ」
ノワが寄り添う。
――あしぇる
――つぎ は “もっと ふかい とこ”
――きみ の ちから が
――ためされる
アシェルは落下の光へ身を投じた。
その瞳には、
もはや迷いも後悔もない。
ただ――
壊すべき思想の中心へ進む覚悟だけがあった。




