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カーディア  作者: アデル
第一章 第三項 復讐者の旅路・序章
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10

『塔の入口――因果で組まれた警備網』


 


地下の残響層から戻ったアシェルは、

ゆっくりと塔の外壁沿いに進んだ。


塔は、夜空を貫く巨大な円柱。

白く滑らかな外壁は無機質で、

触れただけで“冷たさではなく空虚”を返す。


ノワが塔を見上げて囁いた。


――ここ は

――“ひと の ため の いえ” じゃない

――むしろ “きみ の てき を うむ ため の いえ”


アシェルは眉をひそめる。


「……つまり、この塔は“研究施設”というより、

 何かを生み出す“巣”みたいなものか」


――そう

――せかい の きのう が

――ここ を とおして “でてきた”


アシェルは黒核が脈打つのを感じた。


残響層で触れた“根源因子ルート”の記憶が

胸の奥で刺激となり、黒核がざらついている。


(……近づくほど不安定になる……

 ノワがいなければ、暴走していたかもしれない)


ノワが優しく影を寄せた。


――きみ は くずれない

――われ が そば に いる


アシェルは息を整えた。


「なら行こう。

 塔の内部へ」


 



◆塔の入口――そこに“人間の警備”はいなかった


塔の正面には、巨大な扉がある。


ただし、守りは兵士ではない。

人の気配がまるでない。


アシェルは扉に手を近づけた。


……そのとき。


空気が波打ち、

アーチ状の入口に“透明な膜”が浮かび上がった。


次いで――

そこに人影が現れた。


兵士。

……だが、人間ではない。


身体が薄いガラスのように透け、

内部で無数の文字列が流れ続けている。


(これは……因果データで作られた“模擬体ミミック”……!

 人間を基にした構造だけど、本質は“因果コード”だ)


ノワが低く唸る。


――これは “ひと を まねた もの”

――だれ か が ひと を “くみかえて” つくった


アシェルは目を細める。


(これは……白衣の観測者の技術ではない……

 もっと冷たく、もっと機械的……)


一体のミミック兵がアシェルを見て、

淡い機械音声を発した。


「識別不能。

 因果波形――外部規格。

 対象を危険と判断。封殺プロトコル起動――」


アシェルは反射的に手を伸ばす。


「来るな」


――パキィン。


空間がひび割れ、

兵の未来が“消去”される。


ミミックの身体は、

砕けるように崩れた。


ノワが目を細める。


――あしぇる

――つよく なった


アシェルは首を振る。


「違う。

 “敵に近づくほど”……

 俺の黒核が反応して勝手に……」


――それ でも きみ

――じぶん で えらんだ みらい を つかんだ


アシェルは黙ったまま前に進む。


 



◆塔内部――空間が拒絶する


扉を潜ると、内部は巨大な螺旋通路になっていた。


だが、普通の構造ではない。


壁が脈動し、

床が波打ち、

階段が無音で伸びては縮む。


(……塔そのものが“生きている”……?

 いや、これは……因果の組み替えだ)


ノワが説明する。


――この たてもの は

――“いんが を しろい もの たち が つかい”

――じぶん の かたち を かえている


「つまり、固定された建築物じゃないんだな」


――きみ を おとしいれる “わな” に なる


アシェルの眉が動く。


(やはり……入ること自体が試練のようなもの……)


進むほどに、

塔全体が彼の存在を拒絶しているのを感じた。


そして次の瞬間――


廊下の奥に“白い影”が立った。


 



◆白衣の観測者の“残滓”


アシェルの心が凍る。


(あいつ……!!)


しかし、その姿は揺らめいていた。


完全な存在ではなく、

塔内部に残った“因果の残響”だった。


白い観測者の声が遠くから響く。


『試験個体アシェル・レイヴ。

 侵入を確認。

 塔内部の構造は、お前の黒核と反応する。

 進むほどに――“自我の境界”が曖昧になるぞ。』


アシェルは低く唸る。


「忠告のつもりか?

 それとも誘いか?」


声は淡々と答える。


『どちらも同じだ。

 お前はここで――“進化する”。』


ノワが怒りを帯びて前へ出る。


――しずまれ

――あしぇる を みだすな


白い観測者の残響は一言だけ残し、消えた。


『塔の最深部で会おう。

 お前の未来を……評価する。』


アシェルの胸が激しく脈打つ。


(……ルートの影響で、黒核が暴れようとしている……

 でも、止まるわけにはいかない)


アシェルは拳を握りしめた。


「奥へ行くぞ、ノワ。

 俺は――この塔そのものを壊す覚悟だ」


ノワは影の手を差し出した。


――いこう

――あしぇる と われ は

――“きょうどう たい” だ


アシェルはその手を握り――

塔内部の螺旋へと踏み出した。


塔は彼の侵入に応じて、

内部構造をゆっくりと“敵意ある形”へ変えていく。


だがアシェルは怯まない。


復讐の影を背負い、

進むべき先はただ一つ。

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