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カーディア  作者: アデル
第一章 第三項 復讐者の旅路・序章
39/83

9

『村の残響――根源因子の声』


 


廃棄口から続く“残響の廊下”は、

歩けば歩くほど形を失っていった。


壁は消え、床は揺れ、

空間そのものが呼吸しているように脈打つ。


アシェルは足を止めた。


「……ここ、だな」


ノワが静かに頷く。


――ここ が

――“きみ の むら” の ざんきょう


薄い光が霧のように揺らいでいる。


アシェルが手を伸ばすと、

光が震え、世界が反転するように視界が変わった。


 



◆村が“消えた”瞬間を追体験する


――畑。

――木造の家々。

――風に揺れる麦畑。


見慣れた景色が広がっていた。

アシェルは胸が潰れそうになる。


(ここは……俺の村だ……

 なのに……もう誰もいない)


子どもの笑い声も、

家畜の鳴き声も、

夕飯の匂いもない。


“人がいた記憶”だけが、風の温度として残っている。


アシェルは震える声で呟いた。


「……誰か……

 誰かいないのか……?」


だが返事はない。


代わりに――

空が黒くひび割れた。


バキィィン……!!


世界の上空に“白い円”が浮かぶ。

目玉のように開き、内部が回転している。


アシェルの呼吸が止まった。


(これだ……これが村を消した“最初の光”……)


ノワが震える声を出す。


――あれ は

――しろい かんそくしゃ の ちから では ない

――もっと ふるいやつ

――“ねもと の いんが” の きのう


アシェルは目を見開いた。


「“根源因子ルート”……

 あの塔の奥深くにいる存在……?」


ノワはかすかにうなずく。


――あれ は

――せかい の いちぶ を うごかしている

――きみ の ちから と にている が

――いっそく さき を いっている


アシェルは拳を握りしめた。


(あれが……村を消した“本当の犯人”……!)


 



◆光の網が落ちてくる


白い円から、

細い光の糸が雨のように落ちてくる。


触れた場所から、世界が静かに消えていく。


「俺は……妻に駆け寄ろうとしたんだ……!

 でも……っ……!」


アシェルの胸が締め付けられる。


彼は走った。

残響の中で、あの日と同じように。


だが――

足は届かない。


残響の地面が溶け、

距離が伸び、

妻の姿は遠ざかる。


アシェルの叫びが響く。


「やめろ……!!

 あの日を……

 奪った瞬間を繰り返すな!!」


ノワが影の手でアシェルの腕を掴んだ。


――あしぇる!

――これは “みに いくだけ” の せかい

――きみ の せいじゃない


だがアシェルは振り払った。


「俺は……!

 この瞬間を……ずっと追ってきたんだ……!!」


空から降り注ぐ光が、

村そのものを無音で剥ぎ取っていく。


音も悲鳴もない。


ただ、“いなくなる”。


まるで存在の枠を消しゴムで削るように。


そして――

最後のひと筋の光が落ちた瞬間。


村は“なかったこと”になった。


アシェルは膝をつき、

呼吸が荒れ、涙がこぼれ落ちる。


「……俺は……

 どうして何も……

 守れなかった……」


ノワはアシェルの隣にしゃがむ。


その姿はいつになく“人らしい”。


――あしぇる

――きみ は にんげん だ

――にんげん は

――“ぜんぶ は すくえない”


アシェルは震える声で問う。


「じゃあ……誰がこの光を落としたんだ……」


ノワが答えようとしたその瞬間――


 



◆“根源因子”の声が流れ込む


世界が黒く染まった。


空間が反転し、

村の景色が砕け、

真っ白な空洞が広がる。


その中心に――

黒い球体が浮かんでいた。


アシェルの胸の核と同じ構造。

だが、はるかに巨大で、古い。


ノワが膝をつくように影を縮める。


――あれ が

――“ねもと の いんが(ルート)”


黒球体から声が響く。


『欠損を補填する。

 価値の低い領域を削除する。

 存在の最適化を行う。』


アシェルが震える。


「……これが……

 村を消した理由なのか?」


声は続く。


『因果値の低い集落は、

 世界の安定維持に不要である。

 削除を実行した。』


アシェルの目に殺意が宿る。


(“不要”……

 その一言で……村も妻も……!)


ノワが立ち上がり、アシェルの前に出た。


――ちかづくな!

――こいつ は きみ を “とりこむ”


黒球体の声がアシェルに向けられる。


『アシェル・レイヴ。

 お前の黒核は、我と同質のもの。

 来い。

 合流すれば、お前は“より完全な存在”となる。』


アシェルの胸が焼けるように痛む。


(俺を……取り込む……?

 俺は……同じ側の存在なのか……?)


ノワが叫ぶ。


――ちがう!!

――きみ は “にんげん”

――こいつ は “せかい の きのう”!!


アシェルは歯を食いしばり、声を上げた。


「ふざけるな……

 俺はお前なんかと同じじゃない!!

 俺は、人を取り戻すためにここに来たんだ!!」


黒球体の周囲がゆらめく。


『ならば――

 抗うがいい。

 お前が“何を守り、何を壊すか”見届けよう。』


世界が砕け、残響が散り、

視界は一気に白へと跳んだ。


 



◆現実へ戻る


アシェルは息を荒くして目を開いた。


膝をついて戻った場所は、

廃棄口の奥にある地下回廊。


ノワがアシェルの肩に手を置くように影を寄せた。


――あしぇる

――だいじょうぶ?


アシェルは目を閉じた。


「……ああ。

 でももう分かった」


「俺の復讐すべき相手は――

 白衣の観測者だけじゃない」


「もっと深い……

 “世界の機能そのもの”と戦わなければならない」


ノワが静かに呟く。


――きみ の たたかい は

――“にんげん” の ため の もの じゃない

――きみ じしん の こころ の ため


アシェルは歩き出した。


過去を見た。

村が消えた理由を知った。


あとは――

壊すだけだ。

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