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カーディア  作者: アデル
第一章 第三項 復讐者の旅路・序章
38/83

8

『残響の底へ――消された声たち』


 


夜――。

白衣の塔の裏側に広がる森は、不自然なほど静かだった。


虫の音も、風のざわめきすらない。

音を吸い込むような“空虚”。


アシェルは木々の間を抜け、

塔の基部へと身を潜めた。


レオンから受け取った紙切れには、

《地下安置層――廃棄口》

と書かれている。


アシェルは低く呟く。


「この下に……俺の村の残響があるかもしれない」


ノワが影をふるわせる。


――あしぇる

――いま の きみ は

――すこし こわい


「俺が?」


――きえた もの を さがす ひと の め だ

――こころ が とがっている


アシェルは苦笑した。


(そうかもしれない……

 でも、今は引けない)


 



 


◆地下への入口――封印された廃棄口


塔基部の裏へ回り込むと、

鉄の扉が半ば地下に埋まるようにして塞がれていた。


扉には大きく刻まれた警告文。


《立入禁止/因果汚染廃棄路》


アシェルは手をかざした。


途端に――

扉の向こうから“声”が溢れ出すように流れ込む。


助けて

ここはどこ

誰か

戻れない

痛い

消える

私を覚えて……


アシェルは怯まず、扉に手を置いた。


(残響……

 完全に消えず、彷徨っている……)


ノワが低い声を出す。


――これ を あける と

――きみ は すこし “くずれる”


「構わない。

 俺は――知りたい」


ノワは静かに頷いた。


――あけよう

――“むこう がわ” を


アシェルは力を込め、扉を押し開けた。


ギィィ……と錆びた音が闇に沈む。


 



 


◆因果残響層――“消された者たちの溜まり場”


扉の向こうは、

光のない“空白の廊下”だった。


壁、床、天井――

どれも本来の素材ではなく、

“因果のざらつき”そのものに置き換わっている。


(ここは……世界の裏側みたいだ……

 現実と非現実の縫い目が剥がれた場所……)


ノワがアシェルの手を握るように影を寄せた。


――きみ ひとり では

――みち を まちがえる

――われ の め を つかう


その言葉とともに、

ノワの視界がアシェルと重なった。


世界の壁に、

“残響の痕跡”が無数に浮かび上がる。


泣き声、

叫び、

名前、

記憶の断片――


それらは、触れれば崩れそうな光の破片として漂っていた。


アシェルはその中の一つに手を伸ばす。


すると――


 



◆“消滅の瞬間”が流れ込む


手が触れた残響は震え、

アシェルの視界に映像を流し込んだ。


――農村。

――畑を耕す少年。

――突然、空間が裂け――

  “白い光の網”が落ちてくる。

――世界から切り取られるように、

  村が静かに消えていく。


そして最後に、

少年の叫び。


『母さん……! 誰か……――』


映像が途切れた。


アシェルは喉が燃えるように痛んだ。


「……これも、塔の連中が……?」


ノワが言う。


――ちがう

――これは “へいき の しんがた”

――しろい かんそくしゃ の つくった もの では ない


アシェルは目を見開く。


「じゃあ誰が……?」


ノワは少し考えるように影を揺らした。


――もっと ふかい ところ に

――“おおもと の いんが” が いる


(もっと深い……?

 塔の奥底に、俺の村を消した“根源”がいる……)


呼吸が荒くなる。


だが進むほどに、

残響は増えていく。


女性の声。

老人の声。

赤子の泣き声。

名前の断片。

“忘れられた存在たち”の記憶。


アシェルは拳を握りしめた。


(こんな……無茶苦茶な……

 人間を“消耗品”みたいに扱いやがって……)


胸の核が熱く脈動し、

怒りに呼応する。


ノワが言った。


――あしぇる

――その きもち を きみ の ちから に しなさい

――ここ に ある の は

――“きみ と おなじ いたみ”


アシェルは深く息を吸った。


「わかってる……

 でも……最初に確かめたい」


ノワが静かに問う。


――なに を?


アシェルは言った。


「俺の村の残響が……ここにあるかどうか」


ノワは影の腕を伸ばし、

闇の奥を指し示した。


――ある

――もっと ふかく

――“こころ が きれる くらい ふかい とこ”


アシェルは歩き出した。


(なら、行くしかない。

 真実を知るために……

 そして復讐のために)


残響の光が揺れ、

アシェルの足跡を飲み込む。


廊下の先には、

“存在の断層”が待ち受けていた。

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