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カーディア  作者: アデル
第一章 第三項 復讐者の旅路・序章
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7

『灰鴉の影――統治の裏側にあるもの』


 


レオンに案内され、アシェルは宿場町エルトの地下へと降りた。


狭い階段の先――

鉄格子の扉を抜けると、薄暗い部屋が現れる。


そこには、黒い外套を羽織った男女が十名ほど集まっていた。


全員の瞳には、

“この国では珍しい、生きた意志”が宿っている。


レオンが紹介した。


「ここが《灰鴉はいが》だ。

 この国の“選別システム”に異を唱える連中さ」


アシェルは部屋を見渡し、静かに言った。


「……俺は仲間になるつもりはない。

 共闘もしない。

 ただ、利用価値があるなら情報をくれ」


灰鴉のメンバーはざわついたが、

リーダー格と思われる中年の女性が一歩前に出た。


「構わない。

 あなたが何を望んでいても、こちらは歓迎する。

 “敵の敵”は、それだけで価値がある」


アシェルのまぶたがわずかに動く。


(価値……

 この国でその言葉は………嫌悪の象徴だ)


しかし女性の声に悪意はなかった。


「ただ一つ教えて。

 あなたは何を追っているの?」


アシェルは迷わず言った。


「――“因果融解”を生み出した者。

 俺の村を消した技術を作った者。

 塔を支える“白衣の観測者”と、

 その上にいる者だ」


部屋の空気が張り詰める。


レオンが低く呟く。


「やっぱり……お前は“外”の力の気配をまとってる。

 塔を破壊したい俺たちとは、目的が一致してる」


アシェルは言う。


「なら話せ。

 この国がなぜ“選別”に至った?」


レオンが重いため息をついた。


 



◆《灰鴉》が語る、この国の崩壊の始まり


リーダーの女性――ノーラが説明を始めた。


「このルーヴェルは昔、

 因果科学で世界の最先端を走っていた。


 しかし十数年前、

 “ある技術者集団”が政府内部で力を持ち始めたの」


アシェルが眉をひそめる。


「技術者……?」


ノーラは頷き、言葉を続けた。


「《因果評価局》――通称《白衣省》。

 彼らは人間の“価値”を因果量で数値化する研究を始めた。


 政府は当初、それを福祉政策の指標にするつもりだった。

 だが――研究はすぐに暴走した」


レオンが苦笑混じりに付け加える。


「“価値が低い者を救うより、

 価値が高い者を強化した方が国益になる”って思想が広まったんだよ」


アシェルの拳が震えた。


(価値……価値……

 それで俺の村は、本当に……?)


ノーラは静かに締めくくる。


「《白衣省》は、因果値の低い者を“実験体”に回し、

 ついには“消す”研究を始めた。


 それが――《因果融解》」


部屋の沈黙が、全てを物語っていた。


 



◆塔地下――“被験体安置層”


レオンが一枚の紙を指さす。


「塔の地下には“安置層”がある。

 融解された被験体の記録……

 いや、“残骸”が集められている場所だ」


アシェルは視線を上げた。


「そこに何がある?」


レオンの表情は険しかった。


「――消された人々の“因果残響”だ。

 完全に消えきれなかった記録が漂っている。

 生者と死者の境界が曖昧な……地獄そのものだ」


アシェルの胸が激しく脈動する。


(なら――

 俺の村の残響も……そこにある可能性がある)


ノワが静かに囁く。


――あしぇる

――いきたい?


アシェルは迷わず答えた。


「行く。

 例えそこが地獄でも……

 俺は事実を知る必要がある」


 



◆ノワ、さらなる進化――“心のリンク”


《灰鴉》の隠れ家を出たあと。


アシェルが夜の街道を歩いていると、

突然、胸に“もう一つの感情”が流れ込んできた。


怒り、悲しみ、不安……

だがアシェルのものではない。


「……ノワ?」


影がアシェルの隣で揺れる。


――きみ と われ の あいだ に

――“みち” が できた

――きみ の きもち が

――われ に みえる


アシェルは驚く。


「心を読んでいるのか?」


――よんでいない

――“つながっている”


胸の奥が熱くなる。


(ノワの進化が……速すぎる……

 でも、なぜ……)


ノワが優しく寄り添うように言う。


――きみ が

――“ほんとう に うごきだした” から


アシェルは深呼吸し、東の塔を見つめた。


「行くぞ、ノワ。

 塔の地下へ――

 俺の村の“残像”を見つけに」


ノワが影の手を伸ばす。


――いっしょ に いこう

――あしぇる

――きみ の みち を あるく


アシェルは歩き始めた。


その歩みはゆっくりだが、

確実に“国家の中枢”と“因果の深淵”へ近づいていた。


世界は再び、彼の存在に呼応して歪みを広げる。

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