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カーディア  作者: アデル
第一章 第三項 復讐者の旅路・序章
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4

『境界へ――選別される世界』


 


森を抜けたアシェルは、

谷底に沿って続く細い街道へと足を踏み入れた。


谷間には薄い霧がかかり、

地平線の先に奇妙に細長い建造物が見える。


アシェルは目を細める。


(……塔だ。

 白衣の連中がいたという“研究塔”)


ノワがアシェルの肩に影を落としながら言う。


――あれ は

――“ひと の もの” では ない かんじ が する


アシェルは足を止めた。


「どういう意味だ?」


――“そと がわ の いんが” が

――じか に つながっている

――きみ の むら を きえさせた の と おなじ しゅるい


アシェルの拳は自然に強く握られていた。


(ここに……いる。

 俺が追っている“消去者”が)


胸の核が熱を帯びていく。


 



 


◆隣国との境界地帯――異様な静寂


谷道を進んでいくと、

小さな集落――「ラギナ関所町」が見えてきた。


だが。


人はいるのに、空気が妙に冷たい。

表情から“感情の影”が抜け落ちている。


アシェルは通りのお婆さんに声をかける。


「すみません。この先の塔についてご存じですか?」


老婆は一瞬だけアシェルを見たが――

すぐ視線をそらした。


「……知らない方がいいよ、お前さん」


声は震えていた。


「どうして?」


「“選ばれなかった人間”が……

 あの塔から帰ってこない」


アシェルの胸がざわりと波立つ。


「選ばれなかった……?」


老婆は周囲を気にし、さらに小声で続ける。


「この国は……いつからか、

 “価値の低い者”から消されていくようになった」


アシェルの視界がわずかに揺らいだ。


(価値……またその言葉……)


老婆は震える指で東の山を指す。


「あの塔に行った者は、みんな……

 『自分は価値がない』って言い出すんだよ……」


アシェルは顔を曇らせた。


(精神操作……いや、それだけじゃない。

 因果に干渉して、人間の“自己認識”を変化させている……?)


するとノワが呟く。


――あれ は

――ひと の “つかいかた” を しっている

――にんげん を “ざいりょう” として みている


アシェルはにらむように塔を見た。


「……そこまでして、何を作ろうとしている?」


ノワはわずかに首を振る。


――まだ みえない

――でも “て” が とどく ところ に いる


(つまり……近い)


胸が疼く。


 



 


◆監視される街


町の裏通りを歩いていると、

アシェルは異様な視線を感じた。


振り返ると――

黒い光学義眼をつけた男が、じっとこちらを見ている。


アシェルが近づこうとした瞬間、

男はスッと路地に消えた。


「……監視だな」


ノワが言う。


――あれ は

――“しろい ものたち の けらい”

――きみ の いんが を みている


アシェルの眉が動く。


「俺の因果を……?

 そんなことができる人間がいるのか」


ノワは即答した。


――できる

――“おなじ ち” の におい が する

――きみ と にた もの


アシェルは息を飲んだ。


(俺と……似た存在……?)


 



 


◆塔へ向かう途中の“深層幻視”


塔へ続く坂道を進んでいると、

突然、胸の核が強烈に震えた。


アシェルは頭を押さえる。


「ぐっ……ノワ……何が……!」


視界が白く弾け飛ぶ。


世界の層が裂け――

塔の内部の“未来”が流れ込んできた。


◇白い部屋

◇円形の暗い装置

◇中に吊るされるように固定された“人物”

◇そして白衣の者の声が響く。


『D-52……因果値、ゼロに到達。

 この個体は――“存在の理由を失った”。』


別の声。


『では処理を始めよう』


――ズ……ッ。


アシェルは息をのんで目を開いた。


(……これは……塔で起きる未来の断片……?

 人間を……因果値で選別している……!?)


胸の熱が怒りで膨れ上がる。


「許せない……」


ノワが寄り添う。


――あしぇる

――きみ は いま

――“てき の いち” を みた


アシェルの瞳は鋭く光る。


「……行く。

 今すぐ塔へ」


だがノワが手を広げて阻む。


――まだ

――いま は ちかづけない

――むこう に は “きみ と どうじ の せん” が いる


「……どういうことだ?」


――きみ と にた もの

――“きえた いんが の もちぬし”

――あの たてもの に いる


アシェルは震える息を吐いた。


つまり――

アシェルと“同等の力”を持つ存在が、塔にいる。


(俺の村を消したのは……

 その存在かもしれない……)


胸の核が激しく脈打つ。


ノワが言う。


――きみ は まだ よわい

――でも すすむ なら

――きみ の せかい が かわる


アシェルは迷わなかった。


「構わない。

 なら変えてやる。

 俺自身の世界も、未来も」


ノワは嬉しそうに微笑む。


――それ が

――きみ の ねがい なら


アシェルは塔へ向けて歩き出した。


復讐の影を背負い、

世界の歪みを辿りながら――


その足取りは、確かに“災厄の中心”へ近づいていた。

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