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カーディア  作者: アデル
第一章 第三項 復讐者の旅路・序章
33/83

3

『消失の現場――因果の残響』


 


白い繊維を手掛かりに、アシェルは東へ進んだ。


朝靄が晴れていく草原の中、

ノワはアシェルの足跡をなぞるように揺れながら進む。


――もっと ひがし

――ひがし の かぜ に

――“けされた におい” が のっている


(あの消滅現象の匂い……

 俺の村と同じ気配か)


胸の核が低く脈打つ。


 



 


◆因果が崩れた廃屋


数時間後。

アシェルたちは、森の縁にある古い集落へ辿り着いた。


人口十数人ほどの小さな村。

しかし、異様な沈黙が漂っている。


アシェルは村に入った瞬間、

視界がひずむのを感じた。


(因果が……欠けている……?)


ノワが足元の地面を見つめる。


――きみ

――ここ は “さっき まで ひと が いた”


「……消えた、ってことか」


アシェルは村の中心に倒れかけた廃屋を見つけた。


そこで――

胸の核が、鋭く反応した。


(……ここだ)


アシェルは膝をつき、床に触れた。


すると、

空気が震え、視界が薄白く染まる。


過去の因果が、読み解けるのだ。


 



 


◆“消滅の瞬間”を見る


廃屋の床の木目の隙間。

そこから――


人の影が“抜け落ちる瞬間”が流れ込んできた。


音はない。

叫びもない。


ただ、光が反転する。


世界の縁が歪む。


そして――その場所にいた誰かが最初からいなかったように上書きされる。


アシェルは息を呑む。


(これ……俺の村と同じ……

 いや、それ以上に精密だ)


ノワが言う。


――あれ は

――“いんが れんさい しゅだん”

――たくさん の せん を いっぺん に けす てき


アシェルは言葉を失う。


(大量消失……

 それを、白衣の連中がこの村で使った……?)


圧迫感が胸を締め付ける。


だが――

その時、アシェルの視界に奇妙なものが映った。


 



 


◆壊れかけの“逆流記録”


普通なら因果が消された場所には、線は残らない。


だが――

この廃屋の中には、一箇所だけ逆流した線があった。


まるで“消した瞬間の記録が暴走して残った”ような痕跡。


アシェルは手を伸ばす。


触れた瞬間、視界が跳ねた。


――白衣の人物が二人、

  黒い器具を構えている。


――中央に立つ男の背中には

  “研究塔”の紋章。


――そして、その男が呟く。


『実験番号:D-49。

 因果融解、成功。

 ……君たちは“存在の価値”を持たなかった』


アシェルの胸が震える。


(存在の……価値?

 そんな基準で……命を消すのか……!)


ノワの声が低くなる。


――あれ は

――“ひと” の ことば を つかう ばけもの


「……白衣の連中は、兵器開発者じゃない。

 存在を数値で評価する……“選別者”だ」


アシェルの目に怒りが深く沈んだ。


(俺の村も……“価値がない”と判断されたのか……?

 そんな理屈……許せるわけがない)


胸の核が熱を放つ。


 



 


◆ノワの力が拡張する


アシェルの怒りに呼応するように、

ノワの黒い輪郭が少し変形した。


人型のシルエットがさらに明確になり、

瞳の位置が光の粒で示される。


「ノワ……お前……成長している?」


――きみ の きおく と

――きみ の ねがい が

――われ を つよくする


アシェルは思わず笑った。


(皮肉だ……

 俺は復讐のために力を求めているのに、

 ノワは俺の“痛みや怒り”で育つのか)


ノワが首をかしげた。


――きみ は くやしい?

――それとも うれしい?


「……どっちでもいい。

 ただ、前に進むだけだ」


アシェルは立ち上がり、

廃屋の奥に続く足跡を見つけた。


それは、風で消えかけているが――

確かに“白衣の靴跡”だった。


 



 


◆復讐の輪郭


アシェルは拳を握る。


(俺が追う相手は、ただの兵器研究者じゃない。

 “存在の価値”を決める連中だ)


ノワが横で小さく頷く。


――きみ は

――“ひと の そしき” を てき に した

――これは ながい たび になる


「構わない。

 どれだけ長くても、俺は必ず見つけ出す」


胸の核が強く脈打つ。


アシェルの目に宿ったのは、

怒りではなく――

明確な殺意と覚悟だった。


「白衣の連中……

 D-49、《因果融解》。

 この技術を作った奴らを、必ず追い詰める」


ノワが囁く。


――では すすもう

――むこう に ある のは

――“せんたく された せかい”


アシェルは歩き始めた。


もう迷わない。

もうためらわない。


これは、

復讐者としての本当の旅の始まりだった。

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