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『空白を追う者――白衣の影』
コール村で見つかった“記録の空白”。
アシェルはその前に立ち、目を細めた。
壁に刻まれた家系図の中央。
そこには“誰かの名”があったはずなのに、
痕跡が完全に消えている。
ノワがアシェルの肩越しに揺れた。
――これは
――“さき に きえた もの” と おなじ きず
「俺の村が消えた時と……同じ因果痕跡だな」
アシェルは指先を空白にかざす。
(触れる……?
いや、違う……ここにはすでに“線がない”)
ノワが補足する。
――けずられた の では なく
――“はじめ から なかった” よう に された
アシェルは寒気を覚えた。
消すのではなく――
初めから存在しなかったことに書き替える力。
それはアシェルの敵が持つ力そのものだった。
(……やはり、いる。
俺と同じ“因果の深層に触れた者”が)
◆
◆村人たちの噂
村の広場で、老人たちが不安げに話している。
「また白衣の連中が来たらしい」
「東の研究塔から来ているんだと」
「消えた家族を探してくれるって言ってたが……」
「むしろ、あいつらが何かしてるんじゃないか……?」
アシェルは足を止める。
「白衣……?」
ノワが応える。
――におう
――つよい におい が する
――“そと の いんが” の におい
(外の因果……?
この国の研究者じゃないってことか?)
村人の一人がアシェルに声をかける。
「お兄さん、旅人かい?
もしあの白衣連中に会ったら……気をつけるんだ。
なんだか“人の形をしていない時がある”って噂もあってね」
アシェルは小さく頷いた。
(それは……因果が薄いか、形を保てないってことか……
人間ではない可能性もある)
◆
◆夢の中のノワ
その夜。
コール村の外れで寝床を作ったアシェルは、浅い眠りに落ちた。
夢の中で、ノワがはっきりとした姿で立っていた。
黒い輪郭ではなく――
“人型に近い影の少年”。
アシェルは驚いた。
「ノワ……お前……形を持てるのか?」
ノワは静かに頷く。
――きみ が ねがう と
――われ は かたち を える
――きみ の いし が
――われ の ほね を つくる
(……俺の感情で、ノワが成長する……?)
「もっと人間の形に近づくのか?」
ノワは少し首を傾げて言った。
――ひと の かたち を のぞむ?
――きみ は ひと に にている から
アシェルは表情を曇らせる。
「……俺は本当に“人”なんだろうか」
――ひと で ある か は
――きみ が きめる
夢はそこで途切れた。
◆
◆目覚め――残された“白い繊維”
朝日が差し込む。
アシェルは目を開け――息を呑む。
寝床の脇に、
細い白い繊維の束が落ちていた。
手にとると、異様に軽い。
そして触れた瞬間――
因果の“奥側”がざらつく。
(これは……人の記録じゃない……
人工の……いや、もっと違う……)
ノワが警戒した声を発する。
――これは
――“あの しろい もの” の のこり
――きえた もの の かけら
アシェルは目を細める。
(やっぱり、この国に“因果消去者”がいる……
村を消した技術が、もう一度使われている)
胸の奥で熱が燃える。
(追う。
絶対に追い詰める)
ノワの影がアシェルの横で揺れる。
――きみ の ねがい が つよく なる
――せかい が また ゆがむ
アシェルは躊躇しなかった。
「ゆがんで構わない。
俺は……復讐のために歩いている」
ノワは、一瞬だけ
“誇らしそうな気配”を放った。
――では ゆこう
――“しろい ものたち の す” へ
アシェルは白い繊維を握りしめ、
東へ向かって歩き出した。
それは、復讐の第一歩。
そして、因果の深淵へ向かう始まりだった。




