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カーディア  作者: アデル
第一章 第三項 復讐者の旅路・序章
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1

『歩き出す影――世界の縫い目の外へ』


 


森を抜けたアシェルが最初に見たのは――

水平線のように広がる草原だった。


月光が淡く照らす地平。

風に揺れる草の音しか聞こえない。


(誰もいない……

 この世界に、俺を知る人間はいない)


胸に手を当てる。


その奥で静かに脈動する“黒い核”。


ノワがアシェルの横に浮かび、影を落とす。


――きみ は いま

――“せかい の ぬいめ” を あるいている


「世界の縫い目……?」


ノワは空を見上げた。


――せかい は ひとつ の ふく だ

――つぎはぎ で できている

――きみ は その つぎめ の うえ を ふんでいる


アシェルは少し考える。


(俺が歩く場所……世界の構造がゆらぐ……

 それはつまり――)


「世界は……俺を拒絶しているのか?」


――いいや

――きみ を しゅうちゃく している


「……吸着?」


ノワは静かに笑う。


――きみ が もつ ねがい は

――せかい の より と おなじ


アシェルは眉を潜めた。


「俺の願い……復讐と、取り返すこと。

 それが世界の“縒り”と同じ?」


――そう

――だから せかい は ゆがむ

――きみ が ゆがむ とき

――せかい も いっしょ に ゆれる


アシェルは息を飲む。


(じゃあ……俺の行動が世界に影響する?

 ただ歩くだけで?)


胸の核が微かに疼いた。


 



 


◆道を歩くたびに、“結果”が変わる


アシェルは草原の中の獣道を歩いた。


すると、数メートル先の地形が変形した。


「……?」


たった今まで緩やかな丘だった場所が、

崩れ落ちた跡のように凹んでいる。


(これは……俺が歩いて“選んだ未来”が

 空間に反映された……?)


ノワが肯定する。


――きみ が あるく と

――“いきている” せん が のこる

――ほか の せん は けされる


アシェルは理解し始めていた。


(俺は……未来を“固定”しながら歩いている)


だからこそ――


世界は、アシェルを危険視し始めている。


 



 


◆最初の町――そして不穏な兆し


夜明け前。

アシェルは小さな町へ辿り着いた。

のどかな村落――「コール村」。


農具を担ぐ人々。

井戸端の笑い声。

夜明けのパンの香り。


(懐かしい……

 俺の村も、こんな風だった)


胸が締め付けられる。


ノワが囁く。


――いきどまり の せかい

――きみ の むかし に ちかい ばしょ


アシェルは町へ入る前に、自分に言い聞かせる。


(ここでは力を使わない……

 誰も巻き込みたくない……)


だが――


町の中心に入ると、少女が怯えた声を上げた。


「お母さん……また“文字のない場所”が増えてる……!」


アシェルは振り返る。


壁に刻まれた家系図のような記録。

そこに――

突然、四角い“空白”が存在していた。


周囲の人々がざわつく。


「昨日はあったのに……」

「誰の名前が……誰が消えたんだ……?」

「いや、思い出せない……誰がいたんだ……?」


アシェルは背筋が凍った。


(これは……因果の断絶……

 でも俺は何もしていない……)


ノワが囁いた。


――きみ では ない

――だが ちかい

――にた もの が この くに に いる


アシェルの胸が震えた。


(俺の村を消した“あの力”……

 この国に実験体がいる……!)


希望ではない。

怒りでもない。


燃え上がったのは――

絶対に逃さないという復讐の決意。


アシェルは呟く。


「俺は……追う。

 この国に潜む、村を消した“奴ら”を」


ノワが静かに頷く。


――これ が

――きみ の ほんとう の あるきだし


草原は朝焼けに染まり、

アシェルの影は長く伸びる。


その影の端には、

ノワの輪郭が重なっていた。


そして二つの影は、

復讐の道を同じ方向へ歩き出した。

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