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『初陣――復讐者の歩み』
森の深夜は湿り気を帯びていた。
月の光すら届かず、空気は静かに沈んでいる。
アシェルは一本の倒木の上に立ち、
遠方で響く軍用車両の音を聞いていた。
(来る……
この森ごと包囲する気だ)
ノワの影が足元で揺れる。
――きみ を とらえる ために
――せかい が うごいている
(わかってる……だけど、俺は止まらない)
胸の核は熱を宿し、
すでに“力を使う準備”を始めていた。
◆
◆オルドとカンデル、最後の告げ口
森の端で、オルドとカンデルは息を整えていた。
「……ここから先は、行けない」
オルドが森の奥を見つめながら言う。
カンデルが歯を食いしばる。
「なんでだよ……!
俺たちが一緒じゃなきゃ、あいつ――」
「私たちが近くにいれば、軍が遠慮なく攻撃してくる。
アシェルを守るには、私たちはここで線を引くしかない」
カンデルは拳を握る。
「クソッ……!
アシェル、絶対生きろよ……!」
オルドは静かに頷く。
(アシェル……私が守れなかった未来を……
自分でつかんでくれ……)
◆
◆軍の包囲網
森全体がざわめいた。
斥候が散開し、
ドローンが低い音を響かせて飛ぶ。
「対象は森の奥。
逃走経路を塞げ!」
「因果遮断装置を三層に展開!
逃げ道をゼロにしろ!!」
軍は本気だった。
“一個人の排除”に、ここまでの戦力を出すのは異常。
だが、誰もが知っていた。
――アシェル・レイヴは、“存在災害”の始まりである。
そして、森の中心へ迫る。
◆
◆アシェル、因果を“見る”のではなく“使う”
軍用照明が森を照らす。
兵士たちの因果線。
銃の未来。
包囲網の完成予定時間。
この森にある“全ての未来”が、アシェルの目には線として見えた。
(今までは“見て”いただけだ……
でも今は――)
胸の核が強く脈動する。
(“選べる”)
ノワの声が重なる。
――せん が みえる
――せん が えらべる
――せん が つくれる
アシェルは片手を前に突き出した。
目の前の空間が波打つ。
――パキ……パキパキ……
世界の線が折れ、
軍の包囲網の“未来”が少しずつ崩れていく。
兵士たちが悲鳴を上げる。
「なんだ!?
地面が……先に進むほど形が違う!!」
「隊長、予測地点と地形が一致しません!!
世界がズレてます!!」
アシェルは声を放つように言った。
「俺を追う未来は――壊す」
その瞬間。
軍が作り上げた包囲の“流れ”が逆流した。
ドローンが墜落し、
一部の兵士は足元の因果がねじれて膝をついた。
これが――
アシェルの因果操作の完成形の最初の一歩だった。
◆
◆ノワの正体の影
アシェルの横に立つノワは、
黒い影のまま森を見渡していた。
兵士の因果線を見抜き、
“触れた瞬間、結果が崩れる点”を示している。
まるで――
世界の因果構造そのものを熟知している存在。
アシェルが問う。
「ノワ……お前は……何者なんだ?」
――われ は
――“かつて あった せかい の かけら”
アシェルは息を呑む。
(世界の……欠片……?
どういうことだ……?)
ノワは静かに続けた。
――きみ が ねがう なら
――すべて を おしえよう
――ただし
――“てにいれた すべて の のち” に、だ
まるで――
アシェルの復讐の行く先を知っているかのようだった。
◆
◆アシェル、復讐へ踏み出す
森の包囲を抜けた時、
アシェルは夜空を見上げた。
「俺は必ず見つける。
村を消した因果兵器……
妻を奪った“あの力”の持ち主を……」
胸の核が応えるように揺れる。
ノワも頷く。
――きみ の ねがい は
――われ の ねがい
――ゆえに あるこう
――“ふくしゅう の みち” を
アシェルは振り返らずに歩き出した。
基地の燈火は遠ざかり、
暗闇がアシェルを包む。
(ここからが……俺の始まりだ)
その背中を、
世界そのものが“注視”していた。
第二項――【軍訓練期】終幕。




