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カーディア  作者: アデル
第一章 第二項 軍訓練期
28/83

18

『書き換え――崩壊する戦闘線』


 


隔離棟の前の廊下が爆ぜ、

暗殺派の兵士十数名が雪崩れ込むように突入してきた。


「対象アシェル・レイヴ、即時殲滅!!」


銃口が一斉にアシェルへ向いた。


が――


アシェルには、

その銃口が“線に見えていた”。


(引き金――

 射出線――

 着弾地点――

 破壊の因果結果――)


全てが、

まだ起きていない未来の線として見える。


銃を撃つ前から、

どの兵士がいつ死ぬかすら線として見えた。


(こんなの……

 ただの暴力じゃない。

 “未来の因果図”そのものだ)


胸の奥の黒い核が震える。


――えらべ

――せん を かえるか

――せん を きるか


アシェルは小さく息を吸った。


(選べって……?)


影の声がはっきり響く。


――“書き換えろ”


その瞬間。


 



 


◆世界が、揺らいだ。


アシェルが手を前へ伸ばすと、

廊下の空間に“見えない膜”のような波紋が走った。


兵士たちが驚愕する。


「何だ……空間が歪んで……っ!?」

「弾道予測が乱れる!!」

「ちょっと待て……照準が合わねぇ!!」


アシェルの視界には、

兵士たちの銃弾の“未来の線”が伸びている。


そしてアシェルは――

その線の“一点”を指で触れた。


 


――パキッ。


小さな割れる音がした。


現実がひび割れたのではない。

“未来の結果”が割れたのだ。


兵士たちの銃弾は、

撃った瞬間に全て“横へ逸れた”。


壁に吸い込まれるように欠けて消える。


「な、なんだ今の!!?」

「弾が……存在しなかったみたいに……!」


カンデルは震える声で呟いた。


「アシェル……

 お前……未来を書き換えたのか……?」


アシェルは答えない。


胸の核が熱を放ち、

世界の線が彼の周囲に収束していく。


影が囁く。


――それが

――“かきかえ”だ


 



 


◆暗殺派の崩壊


動揺する兵士たちへ、

アシェルは静かに歩み寄った。


足元の因果線が揺らめき、

その動きに現実が引きずられる。


「ひ、ひるむな!!

 撃ち続け――」


兵士が叫ぶが、

言葉の途中で“線”が切れた。


アシェルが手を振ったわけでもない。

ただ、胸の核が反応しただけ。


――ザン。


音もなく、

兵士の“存在の一部が欠けた”。


肉体ではない。

因果の連続性が途切れた“空白”。


兵士は理解する間もなく崩れ落ちる。


他の兵士たちが恐慌状態になる。


「やめろ!! やめてくれ!!」

「俺たちは命令で――!!」

「化物だ……人じゃない!!」


化物。


その言葉がアシェルの胸に痛みを走らせる。


(俺は……化物なのか……?

 いや……違う……

 俺は……奪われたものを取り返すだけだ)


影が言う。


――ひつようなのは

――“て” ではなく

――“いし” だ


アシェルは胸に触れた。


(意志……それなら、俺はまだ……俺だ)


だが、兵士たちにとっては

そんな理屈は関係ない。


「全員退避!!

 こいつ、因果災害そのものだ!!」


その叫びとともに、部隊は瓦解した。


実質的な壊滅だった。


 



 


◆軍はアシェルを“国家脅威”と認定


基地中枢。


リアルタイムの映像を見た司令部は蒼白になっていた。


「――これは……人類の手に負える存在ではない」

「即刻、国家脅威レベル《黒》に指定しろ!!」

「実験体としてではなく、“災害対象”として扱え!!」

「殲滅部隊を編成し――」


だが最後に、誰もが沈黙した。


「……彼を敵に回すのは……国家の崩壊を意味する」


“処分”か“利用”か。


世界の舵が、揺れていた。


 



 


◆オルドの決断


暗殺派の残党が逃げ散った後。

オルドはアシェルとカンデルの前に立ち、

深く頭を下げた。


「……すまない。

 私は……お前を殺すために来た」


アシェルは目を細めた。


「わかっています」


カンデルが怒鳴る。


「ふざけるな!!

 オルド、お前まで裏切るのか!!」


オルドはゆっくり首を振った。


「だが……見ただろう、カンデル。

 アシェルの力を“制御できる”のは……

 アシェル自身しかいない」


アシェルは息を呑んだ。


オルドは続ける。


「だから私は……決めた」


真剣な眼差し。


「アシェル。逃げろ。

 生きて、自分の答えを見つけろ。

 私はそれを……見届けたい。」


カンデルは驚愕した。


「おい……本気かよ……?」


「本気だ。

 アシェルを“国家の道具”にも“脅威”にもさせない。

 彼は……彼自身のために生きるべきだ」


オルドの声は、

これまでで一番“人間らしかった”。


 



 


◆影が、初めて“言葉らしい言葉”を話す


アシェルは胸の奥の影に問いかけた。


(……お前も、逃げろと言うのか?)


影が、はっきりした声で答える。


――われは

――おまえと ともに ある


アシェルは驚いた。


影は、まるで人格を持ち始めていた。


――おまえの ねがいが

――われの かたち となる


「俺の……願い……?」


影が告げる。


――“うばわれた すべてを

 とりかえす”

――それが きみの ねがい だろう


アシェルの心は揺れた。


オルドとカンデルは、その表情を見て息を呑んだ。


「アシェル……

 お前、誰と話してる……?」


アシェルは答えられなかった。


ただ――

世界が、自分を中心にわずかに“揺らぎ始めている”のを、

確かに感じていた。

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