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カーディア  作者: アデル
第一章 第二項 軍訓練期
27/83

17

『抹殺命令――変わる視界』


 


隔離棟の廊下は静かだった。

深夜の空気が研ぎ澄まされ、

蛍光灯が白く光る。


その中を、

オルド少佐は一人で歩いていた。


手には封緘された軍命書。

その内容は――


――《対象:アシェル・レイヴ

 国家因果安定のため、抹殺を許可・推奨する》


“保護する”のではない。

“消す”のだ。


歩くたび、靴音が命令の重さを示すように響く。


オルドは独り言のように呟いた。


「……許してくれ、アシェル。

 私には……誰も守れなかった過去がある。

 だが、あれをここに置いておけば……もっと多くが死ぬ」


その表情は軍人の冷酷さではなく、

悔恨を背負った研究者の顔だった。


 



 


◆隔離室――静かに迫る死


隔離室では、アシェルが膝を抱えて座っていた。


カンデルは部屋の隅に寄りかかり、

途切れ途切れに息をついている。


「……お前は、どうしてあんな化物に成りつつあるのに……

 まだ俺たちを心配できるんだよ……」


「……わからないよ」


アシェルは壁を見つめたまま呟いた。


「俺は、生きたいのか……

 復讐したいのか……

 消えたいのか……

 それすらわからない」


胸の奥の鼓動が、静かに返す。


――おまえは

――きえたくはない

――われが かわりに きえる


(……違う。

 消えるのは……俺じゃない)


アシェルがそう思った瞬間、

扉の向こうから一つの靴音が響いた。


コツ……コツ……コツ……


重く、迷いを含んだ、しかし確実に近づく足音。


アシェルとカンデルは同時に顔を上げた。


「……オルドだ」


 



 


◆オルドの来訪


扉が静かに開いた。


オルド少佐が立っていた。

その目は深く沈み、迷いと決意が渦巻いている。


アシェルは薄く笑おうとした。


「来ると思ってた」


オルドは口を開くまでに数秒かかった。


「……アシェル。

 軍は、お前を危険だと判断した。

 私は……」


言葉が震えた。


「私は……お前を守ろうとしてきた。

 だが今は……“世界を守れ”と言われている」


アシェルはゆっくり立ち上がった。


「俺を殺しに来たんですね」


カンデルが叫ぶ。


「ふざけんなよオルド!!

 お前までアシェルを――!」


「違う!」

オルドが怒鳴った。

その声には痛みが滲んでいた。


「私は……私は……

 お前を殺したくなどない!!」


だが。


オルドは銃を抜いた。


アシェルは動かなかった。


銃口がアシェルの心臓をまっすぐ狙う。


アシェルの胸が脈打つ。


その瞬間――

影が、アシェルの背後にはっきりと立ち上がった。


兵士の姿でも、怪物の姿でもない。

“アシェルと同じ顔を持つ黒い像”。


オルドの手が震える。


「アシェル……その影は……何だ……?」


アシェルは首を振った。


「俺は……わからない。

 でも――こいつは、俺を守ろうとしてる」


影がゆっくりと動いた。


銃口へ向けて、

人差し指のような黒い線を伸ばす。


その線に触れた瞬間――

銃口の因果構造が“変形”した。


金属ではなく、

記述レコード”としての構造が歪み始める。


オルドが息を飲んだ。


「……これは……因果構造の……書き換え……?」


アシェルには見えていた。


銃が“別の結果”へ変わる様が。


(……これが……俺の視界……?

 いや違う……これは“影の視界”だ……)


影が囁く。


――ころすな

――われが てを くだす


アシェルは叫んだ。


「やめろ!!

 オルドは敵じゃない!!」


影は手を止めたように見えたが――

銃はすでに“壊れた結果”へ変わっていた。


金属が砂のように崩れ落ちる。


オルドはただ呆然と見ていた。


「アシェル……

 お前は……どこまで行くつもりなんだ……?」


アシェルの胸が、答えるように脈打つ。


 



 


◆強制突入――暗殺派の総攻撃


警報が鳴り響く。


<警告。隔離棟に未許可の因果反応。

 全暗殺派部隊は突入準備>


オルドが青ざめる。


「しまった……!

 彼らが来る!!

 アシェル、逃げろ!!」


カンデルが拳を握る。


「クソッ……ここで殺させるわけにいかねぇ!!」


アシェルは目を閉じた。


(逃げる……?

 俺は本当に逃げるべきなのか?)


胸の核が反転する。


世界が“層”になり、視界が書き換わる。


足元の因果


壁の因果


人の因果


世界の“流れ”


全てが線で、

全てが触れられるように揺らいでいる。


(俺は……どこにでも行ける……

 どこにでも触れられる……)


影が言う。


――おまえは

――この せかいの そとに たてる

――ゆえに えらべ


(選ぶ……?)


――しぬか

――うばうか

――そのふたつ しかない


アシェルは拳を握りしめた。


「……違う。

 俺は……奪われたものを取り返す。

 そのために――生きる」


影が笑った。


――それで いい

――それが きみの いのり


その瞬間、

隔離棟の扉が爆発した。


暗殺派の兵士十数名が突入してくる。


「対象確保は不要!

 一撃で仕留めろ!!」


銃口が一斉に向く。


アシェルは静かに深呼吸をした。


(見える……

 全ての線が……

 俺に触れようとしている)


胸の核が光り――

第二段階の変質が始まった。


世界の線が、

アシェルの意思に合わせて

“形を変えようとしていた”。

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