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『大規模因果災害――開く裂け目』
村跡地に走った巨大な亀裂は、
空そのものを裂くかのように光を失わせていた。
――キィィィィィ……
空気が震え、重力が揺らぎ、
木々が軋む音が連鎖的に響く。
ミルザ中尉が怒鳴る。
「全員、因果遮断装置を展開しろ!
間に合わなくても構わん、障壁を張れ!」
兵士たちが慌てて装置を起動させるが――
次の瞬間、空間が“裏返った”。
バチィッ!!
耳をつんざく破裂音。
世界から“何かが抜け落ちる”ような感触。
地面の因果が剥がれ、
空間の罅が色づくように広がる。
レフが悲鳴を上げる。
「やべぇ!! 本格的なやつだ!!」
「こんなの訓練じゃ対処できねぇ!!」
カンデルは即座にアシェルへ向く。
「アシェル!! お前しか止められない!!」
アシェルの胸の熱が悲鳴のように燃え上がる。
(わかってる……
これは……昨日の比じゃない……)
亀裂から、
“因果の流出”が起きていた。
世界の構造そのものが、外側へ吸い取られている。
言葉にならない世界の悲鳴。
アシェルはその中心で、
静かに目を閉じた。
(……見せてくれ)
視界が白に染まる。
ふたたび、世界が“層”となって展開される。
・表層の揺らぎ
・中層の偏向
・深層の渦
・最奥の“断絶点”
(……これだ)
断絶点から線が無数に伸び、
村の因果を切り裂いている。
(この線を……全部繋ぎ直す……!!)
アシェルは胸の熱を掴むように意識した。
自分でも驚くほど自然に――
熱が反応した。
「……収束、では足りない……
これは……“繋ぎ戻し”だ……!」
亀裂へ向けて手を伸ばす。
因果線がアシェルの指先に引き寄せられ、
一本一本“正しい軌道”へ誘導されていく。
兵士たちは、恐怖と驚愕で固まっていた。
「なんだあれ……」
「因果線が……勝手に従っていく……」
「アシェルが……操作してる!?」
カンデルだけが叫ぶ。
「行け!! そのままだ、アシェル!!」
◆
◆“ひずみの核”との対面
線を繋ぐたび、胸の熱が強く回転する。
視界の奥で、
黒い輪――昨日見た“最深層”が震えた。
(……お前は……誰だ?)
不意に、輪の中心から声が漏れた。
――「かえ……せ……」
アシェルの心臓が凍りつく。
(返せ……?
何を返せっていうんだ……!?)
輪が大きく脈打った瞬間、
現実の亀裂が一気に広がった。
ミルザ中尉が叫ぶ。
「崩壊が加速している!!
避難しろ、全員走れ!!」
「無理だ! 地面が歪んでる!!」
部隊がバラバラに逃げ惑う中、
アシェルは一人、亀裂の中心へ踏み込んだ。
(止める……俺が止める……!!)
手を前に突き出す。
胸の熱が爆ぜるように輝き――
因果が逆流した。
亀裂が急速に閉じ始める。
世界が縫われていく光景に、
兵士たちは息を呑んだ。
「し、閉じた……?」
「嘘だろ……あんな規模を……一人で……」
アシェルの意識は半ば飛びかけていたが、
それでも立っていた。
(もう少し……もう少しだけ……!!)
最後の線が収まった瞬間――
世界は静寂を取り戻した。
アシェルは膝をつく。
胸の熱が、
満足したかのように静かに沈んでいく。
◆
◆抹殺任務、発動
危機が去った直後。
ミルザ中尉は後ろで密かに通信を開いた。
「……“計画通り”、対象は疲弊している。
今なら――」
カンデルが気づいた。
「待て。何をしてる?」
「任務だ」
ミルザの手が腰の因果銃に伸びる。
「アシェル・レイヴを――
“暴走による事故死”として処理する」
銃口がアシェルの背中に向けられる。
「やめろ!!」
カンデルが掴みかかる。
「お前は何もわかってない!
あんな存在を野放しにしたら、
“世界が崩壊”する!!」
アシェルはゆっくり顔を上げた。
疲弊しているにも関わらず、
胸の熱の光がまだ宿っている。
ミルザ中尉は叫んだ。
「アシェル・レイヴ!!
貴様の存在そのものが危険だ!!
ここで処理する!!」
アシェルが立ち上がる。
その目には、
もはや“人の揺らぎ”がなかった。
「俺は……危険かもしれない。
でもな……」
胸の熱が深く脈打つ。
「――お前らより、ずっと“生きたい理由”がある」
その声音に、
ミルザは一瞬だけ怯んだ。
アシェルははっきりと言った。
「奪われたものを……取り返す。
それを邪魔するなら――
俺は、お前を許さない」
空気が震える。
アシェルの背後で、因果線がうねった。
カンデルでさえ息を飲む。
(こいつ……
本当に“人間”の枠を超え始めてる……)
ミルザの手が震えた。
その瞬間――
遠くで、再び小さな“亀裂”が鳴った。
“大災害の予兆”は、まだ終わっていない。
アシェルの復讐と変質は、
ここからさらに深まっていく。




