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カーディア  作者: アデル
第一章 第二項 軍訓練期
22/83

12

『境界へ――失われた存在の痕跡』


 


前線派遣任務の前日。

夕焼けが基地全体を血のような色に染めていた。


アシェルは装備整備室にいた。

兵士としての正式な装備を手渡される。


胸部プレート、通信機、簡易因果安定装置。

どれも体に馴染まない。


(俺には……“これら”は必要なのか?)


胸の熱は兵器よりよほど信頼できる。

そう感じてしまう自分に、薄い恐怖を覚えた。


 



 


◆カンデルとの対話


「装備の調子はどうだ?」


聞き慣れた声。

カンデルが壁にもたれかかっている。


「重いよ。

 俺には合ってない気がする」


「だろうな。

 お前は“装備される側”じゃなくて、

 “装備を支配する側”の感覚だ」


「兵士らしくないってことか?」


「違う。

 お前は……“因果に選ばれちまってる”。

 普通の兵士とは立ってる場所が違う」


アシェルは視線を落とす。


「それって……いいことなのか?」


カンデルは肩をすくめた。


「誰にもわからんさ。

 ただ一つ言えるのは――

 お前は生き残る。

 他の誰よりも、強くな」


(生き残る……

 俺は……何のために)


アシェルは胸の奥がざわつくのを感じた。


 



 


◆軍内部の影――抹殺計画


同じ頃、司令部の別室で。


数名の高官が集まり、

ひそやかな声で話し合っていた。


「前線派遣は好機だ」

「あの少年は危険すぎる。制御できない」

「存在そのものが因果を乱す。

 いずれ我々に災害が降りかかる」


「視察任務に見せかけて……事故死という形で処理する」


書類には、こう記されていた。


――《対象:アシェル・レイヴ

 任務中の殉職として処理可能》


誰も気づかぬ暗闘が、静かに始まっていた。


オルドのみが、その企みを薄く察していたが……

それでも軍に逆らう力は持たない。


(……守りきれるか、アシェル)


オルドは初めて、自身の無力さを痛感した。


 



 


◆任務当日――境界線へ


翌朝。

まだ太陽が昇る前、

選抜部隊は基地を出発した。


アシェル、カンデル、レフを含む小隊十一名。

そして部隊指揮官のミルザ中尉。


大型車両の中で、誰も口を開かない。


空気は張りつめ、

アシェルへの視線だけが鋭い。


「……見ろよ」

「本当に一緒に連れてくのかよ」

「危険はあいつの方じゃなくて、

 “あいつが危険なんだろ”」


アシェルは無視した。


胸の奥の第二の鼓動が、

いつもより強く脈打っていた。


(……近い)


因果のひずみを感じる。


境界線が近づくにつれ、

空気そのものが重くなる。


まるで“世界の皮膜”が薄くなっているようだ。


 



 


◆存在の消えた村


車両が止まる。


ミルザ中尉が言った。


「ここが、昨日の未明に“消失”の報告があった地点だ」


「消失……?」


兵士が呟く。


「敵国の新兵器かもしれん。

 因果解析のため、アシェル、お前が先頭だ」


アシェルは頷き、村跡地へ足を踏み入れた。


だが――そこには。


家が消えているのではない。


“家のあった因果そのもの”が抉り取られていた。


地面が滑らかに凹み、

どこにも破片が存在しない。


(これは……俺の村で起きた現象と同じ……)


胸が高鳴る。


胸の熱が燃えるように共鳴し、

視界が一瞬白く染まった。


 



 


◆幻視――“消滅の瞬間”


(見える……見える……!)


アシェルは手を伸ばす。


消滅の瞬間の因果線が、

まるで巻き戻しのように浮かび上がる。


線が絡まり、収束し、

一点から世界が削られていく。


“音もなく、理由もなく、結果だけが残る消滅。”


アシェルの息が震えた。


(これを使ったのは……

 この世界のどこかにいる“誰か”だ)


胸の奥の熱が鋭く告げる。


“見つけろ”


“奪われたものを取り返せ”


その強烈な響きが、アシェルの心を撃つ。


(取り返す……?

 それはつまり……復讐……?)


ぼやけていた動機が、初めて形になった。


「アシェル!」

カンデルの声で我に返る。


「どうした、顔色が……」


アシェルは静かに答えた。


「……これは、俺の村と同じ現象だった。

 ……俺はこの兵器を追う」


カンデルは息を呑む。


その言葉には、

これまでの迷いが一切なかった。


 



 


◆第二の災害予兆


その瞬間。


ふたたび、空がひび割れた。


――キィィィ……ン。


今度の亀裂は長い。

空を裂く線が、赤黒い色を帯びている。


カンデルが叫ぶ。


「全員警戒ッ!! 因果の再崩壊が来るぞ!!」


レフが恐怖に震える。


「またかよ!? こんな場所でか!!」


アシェルの胸の熱が、灼けるように脈打つ。


(来る……!

 昨日の比じゃない……これは――

 完全な“因果災害”だ!!)


運命の裂け目が、

ゆっくりと開き始めた。


アシェルは息を吸い――

自分の意思で、胸の熱を操ろうとした。


“自らの力を使って、災害を止める”

 初めての本格的な挑戦が、今始まる。

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