表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カーディア  作者: アデル
第一章 第二項 軍訓練期
21/83

11

『実験兵登録――変質する身体』


 


訓練場で小規模因果災害を止めた翌朝。

アシェルは軍医療区画に呼び出され、

全身の診断と因果反応測定を受けていた。


白い部屋の中で、脈音だけが響いている。


――ドクン……

――ドクン……


自分の心臓の音ではない。

胸の奥に“もう一つの鼓動”がある。


(……昨日からずっとだ。

 俺の中で、何かが……別のリズムを刻んでいる)


医療官がモニターを見ながら言う。


「アシェル・レイヴ。

 君の因果反応……また上昇してるぞ。

 しかも通常の兵士とは“位相”が違う」


「違う……?」


「他の兵士は因果線が身体を取り巻く程度だが、

 君のは胸の中心で“渦”になっている。

 しかも……これは何だ……?」


モニターに映ったのは、

アシェルの胸の奥――


黒い輝きを帯びた、回転する核のようなもの。


医療官は言葉を失った。


「……この形状……兵士じゃない……

 “因果観測者オブザーバ”の構造だ……」


(観測者……?

 そんな分類、聞いたことない……)


医療官が震える声で続ける。


「君……いつか世界を見る“位置”が、

 人間じゃなくなるかもしれない」


アシェルの心臓が痛いほど締めつけられた。


(人間じゃなくなる……?

 もう……なり始めているのか……)


だが恐怖は、不思議と薄かった。

それよりも――


(俺は……進まなきゃいけない)


胸の熱は、そう言っている気がした。


 



 


◆“実験兵”登録


医療区画を出たところで、

待っていたのはオルド少佐だった。


「アシェル。説明しなければならないことがある」


オルドが差し出したのは

軍の“特別命令書”。


――《因果実験兵・暫定登録》


アシェルは目を見開く。


「……実験兵……?」


「昨日の災害を止めたことで、

 お前はもう“通常兵士”の枠には収まらない。

 軍はお前を“研究対象を兼ねた兵士”として扱う」


「つまり……監視と利用か」


「……ああ」


アシェルは深く息を吐いた。


(これが……俺の道か)


拒否すれば、村の人々と同じように「存在ごと消される」。

軍という組織は、そういう場所だ。


オルドは続ける。


「ただしこれは――

 お前の力を“守るため”の措置でもある」


「守る……?」


「軍上層部には、

 “お前を兵器として使い捨てにしよう”とする派閥がある」


アシェルはゆっくりと顔を上げた。


オルドはまっすぐ見つめ返す。


「だが私はお前を守りたい。

 力を奪わせたくない。

 ……だからこそ、登録という形式で“手を伸ばした”」


アシェルはその言葉が嘘ではないと感じた。


(この人は……

 俺の力を恐れているだけじゃない。

 興味と……責任を持っている)


胸の熱がわずかに共鳴した。


 



 


◆訓練兵たちの空気――そして裏切りの芽


兵舎に戻ると、空気が明らかに変わっていた。


ささやき声が刺のように飛び交う。


「あいつ、正式に実験兵になったらしい」

「もう俺らとは別世界の奴だ」

「前線に行けば、どうせ“あいつ一人で全部片付く”んだろ」

「いや……逆だ。アイツが災害を呼ぶんだよ」


嫉妬と恐怖。

そして“存在そのものを否定したい”という感情。


アシェルは無言で通り過ぎた。


だが、気がつかなかった。


――その視線の中に、

ひとりだけ「深い憎悪」を宿す者がいたことに。


後にアシェルを襲う“裏切り”の種は、

この時点で静かに芽を付けていた。


 



 


◆前線派遣部隊の編成


夕方、広間に兵士たちが集められた。


司令官が前に立つ。


「三日後、敵国境界線へ視察任務を行う。

 選抜された者の名を読み上げる」


その中に――


「アシェル・レイヴ」


ざわつく訓練兵たち。


「やっぱりか……」

「アイツが行くんじゃ、俺らは盾だな」

「いや、むしろアイツが敵だろ……あれもう化け物だ」


アシェルは無表情のまま立っていた。


(この任務で……

 俺は何を見るんだろう)


胸の奥で、

第二の心臓が静かに脈打つ。


 



 


◆幻視――“力の片鱗”


その夜。


アシェルは眠れずに外へ出た。

人影のない格納庫裏で、胸に手を当てる。


(熱は……まだ動いている)


瞼を閉じた瞬間――


視界が、ひらりと裏返った。


世界が“層”になって見える。


表面を覆う薄い因果層


その奥にうごめく深層


さらに奥に――黒い、巨大な輪


(……これは……?)


胸の熱が応える。


“これが、おまえの触れ始めた領域だ”


それは言葉ではない。

感覚による理解。


黒い輪の中心には――

“存在の空白”があった。


(これは……俺の……能力の……?)


次の瞬間、輪が震えた。


その震えが“現実に干渉している”のが分かる。


アシェルは恐怖より先に理解した。


(俺は……世界の奥にある“構造の欠片”を見ている)


幻視がゆっくりと収束していく。


 



 


目を開くと、夜空が広がっていた。


アシェルはつぶやく。


「……俺は、どこへ向かってるんだ……?」


胸の熱は静かに答えるように――

いつもと違う“規則正しいリズム”で脈動していた。


それは、

まるで何かが“目覚めつつある”証だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ