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カーディア  作者: アデル
第一章 第二項 軍訓練期
19/83

9

『因果層講義――認識者の誕生』


 


翌朝。

アシェルはオルドに呼ばれ、研究棟の一室に案内された。


壁全面に因果式のパターンが映し出され、

中央には複雑に折り重なった“多層構造の模型”が浮いている。


「来たか、アシェル。

 今日はお前の能力の基礎になる“理層”の話をする」


「……因果層レイヤー


「察しがいいな」


オルドは静かに模型を指す。


「因果は一枚ではない。

 人間が触れる“表層因果”の下には――

 “観測不可能層ディープ・レイヤー”が存在する。

 通常、ここに触れた瞬間、人間は破綻する」


アシェルは胸の熱を思い出した。


(俺は……昨日、反転操作をした……

 あれはどこに触れたんだ?)


オルドは言葉を続ける。


「表層の揺らぎは“運動”を変えるだけ。

 だがディープ・レイヤーに触れると……」


模型がひび割れ、形が変わる。


「“結果そのものが書き換わる”。

 すべてが“そうであったこと”になる」


アシェルは息を呑んだ。


「……昨日、俺がやったのは……」


「そうだ。

 お前は《ディープ・レイヤー》に触れた」


 



 


◆アシェルという“理外の存在”


オルドは続ける。


「通常、人間がその層を覗いただけで精神が壊れる。

 それを“触って”何事もなかったのは……」


オルドはアシェルの胸を見る。


「――お前の体が、既に“変質”し始めているからだ」


アシェルは思わず胸を押さえた。


(変質……?)


「昨日からだろう?

 微熱にも似た、奇妙な鼓動が胸にあるのは」


「……感じる。

 自分じゃない誰かの心臓が動いてるみたいだ」


オルドはうなずく。


「それが“中枢コア反応”の始まりだ」


(中枢……)


昨日カンデルも口にした言葉だ。


「中枢とは簡単に言えば――

 “個人の因果を超えて、世界の因果へ干渉する核”だ。

 そんなものは本来、生まれない。

 だが因果災害の中心にいた人間は、稀に……」


アシェルは直感した。


(あの日……エルマが消えたあの日……

 俺の中で何かが……目覚めた?)


胸がざわつく。


そこには悲しさと怒りが残り続けているはずなのに、

違う“何か”が混ざり始めていた。


 



 


◆基地の別室――軍上層部の密談


その頃。


司令官室では、アシェルに関する新たな報告が上がっていた。


「この能力……前線で使えれば、

 敵国の“存在削除兵器”への唯一の対抗策になる」


「特別訓練はもう不要だ。

 実戦で試すべきだ」


「だが、彼はまだ少年だぞ?」


「少年など関係ない。我々は勝つしかないのだ」


やがて一つの結論が下される。


「――近いうち、少数部隊による前線視察任務を組む。

 対象:アシェル・レイヴ。」


つまり、

“実戦参加”の事実上の決定である。


 



 


◆訓練場――アシェルの異変


アシェルはまた胸の異常を感じていた。


(……熱が、昨日より……深い)


ただ熱いのではない。

胸の奥に“第二の心臓”があるような感覚。


(これが……変質?

 でも……嫌な感覚じゃない……

 むしろ、馴染んでいく……)


自分で自分が怖くなる。


それでも分かる。


(俺は……この力を使わなければいけない)


エルマの消失。

村の崩壊。

原因となった“存在削除”。


その全てに辿り着くには、この力が必要だ。


 



 


◆――その瞬間


胸の奥で、“線”が弾けた。


――キィン……


アシェルが顔を上げると、

訓練場の上空に“細い亀裂”が走っていた。


「……え?」


誰も気づいていない。

だがアシェルには見える。


空間に薄く走る白い裂け目。

存在の膜が破れたような、不気味な線。


(これは……あの日の……

 エルマが消えた時の……裂け目……)


胸の熱が激しく脈打つ。


亀裂がわずかに広がった。


(いや……違う……これは“災害の予兆”だ……!)


アシェルの脳裏に、誰かの声が再び響いた。


――「お前は見ることができる……」

――「世界がひずむ前に……気づける……」


アシェルは思わず呟く。


「……来る……」


カンデルが振り返る。


「来る? 何がだ?」


「因果の……破れだ……!」


その言葉の直後。


空間の裂け目は音もなく消えた。


だがアシェルには分かる。


これは、

“起こる前の揺らぎ”だ。


そしてこの予兆は、

やがて巨大な因果崩壊へと繋がっていく。


その災厄こそ――

アシェルが“復讐者”へ完全に変貌する転機となる。

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