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カーディア  作者: アデル
第一章 第二項 軍訓練期
18/83

8

『予兆――世界が軋む音』


 


アシェルが《渦》を素手で収束させた翌日。

基地全体の空気は明らかに変化していた。


訓練兵たちの視線は、

敬意でも羨望でもなく――恐怖。


「……あれ、本当に人間か?」

「因果渦を触って無事って……」

「俺たちと同じ訓練兵じゃねえだろ」

「近づくな。何を引き寄せるかわからん」


アシェルが歩くだけで道が空く。


(……理解されないのは、わかってたが)


胸に、ひりつくような感覚だけが残る。


ただ一人、

カンデルだけはいつも通り。


「気にすんな。

 臆病者ほど“知らないもの”を怖れる」


「……俺は怖いか?」


「怖いに決まってるだろ。

 でも――誰より“生きる意思”が残ってる目だ」


アシェルはわずかに息を吐いた。


その時――

胸が、ぴくりと跳ねた。


 



 


◆世界の“軋み”の感覚


(……今のは……?)


胸の熱が、微かに震えた。


痛みでも熱でもない。

“触れられた”ような違和感。


「アシェル、どうした」


「……世界が……揺れた気がした」


「世界?」


「言語化できない。

 でも……どこかで“線がきしんだ”ような……」


言ってから、自分でも意味不明だと思った。

だが胸の熱は確かに反応していた。


――キィ……


かすかな音が耳の奥で鳴る。


(これは……外からじゃない。

 どこか別の場所の因果……?

 ひずみ……?)


胸に手を押し当てる。


(もしかして……“災害の予兆”……?)


アシェルは背筋が冷えるのを感じた。


 



 


◆軍内部の動き


アシェルが訓練場に向かう頃、

基地の上位会議では、彼に関する報告書が回っていた。


《特別報告:アシェル・レイヴについて》


・因果乱流への異常適応

・《渦》の素手収束

・因果反応値の常時変動

・測定不能領域の形成


中枢コア反応”の可能性


司令官が渋い顔をする。


「ここまでの存在が本当に“兵士”として扱えるのか?」


参謀が言う。


「兵器として扱うのが妥当でしょう」


別の高官が反論する。


「いや、むしろ危険だ。

 敵国に渡れば存在削除兵器以上の脅威となる」


議論は収束しない。


その時、オルド少佐が静かに言った。


「彼は……“使い方”次第だ」


高官たちの視線がオルドに集中する。


「アシェル・レイヴの胸の反応は、

 既存の因果技術のどれとも一致しない。

 ――これは新しい“層”だ」


「層……?」


「今の世界が扱っている因果は、

 あくまで“表面式”にすぎない。

 アシェルの力はもっと深い。

 原初的で……根源的だ」


参謀が身を乗り出す。


「つまり……敵国の兵器にも対抗できる?」


オルドは短く頷いた。


「むしろ、上位互換になる可能性がある」


会議室の空気が変わった。


「……ただし」

オルドは続けた。


「彼を兵器にした瞬間、

 “彼自身”は壊れる」


沈黙。


高官のひとりが低くつぶやく。


「壊れようと……勝てればいい」


その言葉が、

後に世界を戦火へ染める“軍内部の思想”の始まりだった。


 



 


◆訓練場―新たな試験


訓練場にて。


教官が新しい装置を指し示す。


「今日は《因果引力場》の調整だ」


空間の一点に“因果の溜まり”が作られ、

周囲の物体が微妙に引き寄せられている。


訓練兵は声を上げる。


「これ、前線用じゃないか!」

「初級が扱っていい代物じゃねぇ……!」


教官が言った。


「安心しろ。今日触るのは一人だけだ」


全員の視線がアシェルに向く。


「……俺か」


「そうだ。軍からの指示だ」


(軍……動いたのか)


アシェルは胸に重さを感じながら前へ出た。


 



 


◆“引力場”への介入


引力場は、

まるで空間の一点が“世界の中心”になったかのように、

すべての因果線を引き寄せている。


アシェルは胸の熱の反応を感じながら、

ゆっくり手を伸ばした。


その時――


――キィ……


昨日と同じ“軋み”が胸の奥に鳴った。


胸の熱が勝手に動き出す。


(ダメだ……暴走する……!?)


「アシェル、下がれ!!」


カンデルの叫びが響くが間に合わない。


引力場の中心が膨張し、

暴走の兆候を見せた瞬間――


アシェルの胸が強く脈打ち、

意識が一瞬だけ“反転”した。


世界の線がすべて逆向きに見えた。


(これ……は……!?)


次の瞬間、

アシェルは自然と声を漏らした。


「……流転反応りゅうてん・はんのう……」


聞いたこともない言葉。


しかし確信を持って言えた。


手が因果線をなぞる。


すると――


引力場が静かに“無”へ戻った。


暴走も歪みもなく、

ただ最初から存在しなかったかのように。


 



 


訓練場が凍りついた。


教官が震える。


「……何だ今の……

 因果が……“逆流”した……?」


カンデルは青ざめながら呟く。


「あいつ……“戻す”だけじゃない……

 流れを……“反転させた”……?」


レフはもう声も出せない。


アシェルは自分の手を見た。


(今……俺……

 何を……したんだ……?)


胸の熱が静かに答えるように、

深く、深く回っていた。


これはもう“予兆”ではない。


アシェルは因果そのものに触れ始めている。

 世界の“構造”に手をかけ始めている。


その瞬間、遠く基地の外で

“世界の線が軋む音”が再び鳴った。


まだ誰も気づかない――

これが、後に起きる大規模因果崩壊の最初の前触れだった。

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