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カーディア  作者: アデル
第一章 第二項 軍訓練期
14/83

4

『訓練兵たちの視線』


 


 因果操作の初訓練を終えたアシェルは、

 汗ひとつかかず訓練室を出た。


 胸の奥では、まだあの“熱”が静かに回っている。


(あの線……“再構築”なんて、どうやった……?

 俺はただ触れただけだ……)


 理解できない。

 しかし、確かな実感があった。


(俺の中で……何かが動いている)


 



 


 兵舎へ戻ると、訓練兵たちの空気が変わっていた。


「おい見ろよ、あいつだ」

「特別訓練に連れていかれた新入りだろ」

「噂聞いたか? 装置を壊したって話だ」

「壊したっていうか……逆に直したとか……?」


 完全に好奇と警戒の対象だ。


 アシェルは無視して自分のベッドへ向かったが――


「おい」


 またレフが立ちはだかった。


(……またか)


「お前、特別訓練だってな。

 何をしたか知らねえけど、調子に乗るなよ」


「乗ってない」


「じゃあ態度を改めろ。

 こっちは“努力してようやく”因果線を見る訓練してんだよ。

 お前みたいな田舎出の徴兵が、突然できていいはずねぇだろ」


 アシェルの胸に小さく怒りが灯る。


「俺だって……好きでできるわけじゃない」


「は? なにそれ」


「……俺は……必要に迫られてるだけだ」


「必要? なんだそれ。

 “特別扱いされて当然”って言いたいのか?」


 アシェルの拳が震えた瞬間――


「やめとけレフ」


 カンデルがまた間に入った。


「何度言わせる。

 お前があいつに手を出したら“お前が怪我する”」


「カンデル……本気で言ってんのか?」


「本気だ。

 あいつはまだ自覚してねぇが――

 “因果の流れそのものが、もう違う”」


 兵舎がざわつく。


「因果の流れ……?」

「それ才能とかそういうレベルか?」

「いや……違う。もっと危ねえ奴ってことだ」


 レフがアシェルを睨む。


「特別扱いされてたってことか……?」


アシェルは、否定しようと口を開いたが――

言葉が喉で止まった。


(俺は……特別扱いされたいわけじゃない。

 ただ……“原因を知りたい”だけなんだ)


 エルマを奪ったあの現象。

 胸の奥の熱。

 昨日から続く“異常な感覚”。


(全部……繋がってる気がする)


 



 


そのとき、基地の非常ベルが短く鳴った。


――ビッ!


「訓練開始、訓練場に集合!」


「おい、新入りも来いよ」


 レフが鼻で笑う。


「お前がどれだけ“特別”か見せてもらおうじゃねえか」


 



 


『実地訓練場』


訓練場は広く、中央に因果調整装置がいくつも設置されている。


教官が怒鳴った。


「今日は“因果干渉の初歩”――

 物体の運動因果を“逸らす”訓練だ!」


鉄球が宙に浮き、装置によって下降軌道が強制設定された。


「この落下の“結果”を変えろ!

 軌道が変われば合格だ!」


訓練兵たちは次々挑むが、

光が弾けて失敗する者が続く。


「くそっ……集中できねぇ!」

「線がブレる!」

「軌道の向きがわからねぇ!」


教官はがなり立てた。


「次! アシェル・レイヴ!」


視線がアシェルに集中する。


(これも……線を見る訓練……?)


胸が熱を帯びる。

因果線が視界に浮かぶ。


鉄球の落下軌道が“矢印”のように見える。


(……あれか)


アシェルは手を伸ばした。


触れるだけ――

ほんの一瞬。


“結果が揺らぐ。”


鉄球の軌道が、

滑らかに“左へ逸れた”。


ガンッ――!

と台座に当たる。


教官が目を見開く。


「……成功……だと? 一発で……?」


訓練兵たちがざわめく。


「おい、あれ一瞬だったぞ」

「線が……見えてるのか?」

「ってか、普通はもっと力かけないと軌道変わらねぇだろ!」


アシェルは自分の手を見つめた。


(今の……何だ……?

 力を入れてない……ただ“向きを触っただけ”だ)


胸の熱がまた脈打つ。


“これは力ではない。

 理解だ。”


そんな声が、

どこからともなく響いた気がした。


 



 


 訓練を見ていたカンデルがぼそりと言った。


「……やっぱりな」


「何が?」


「アイツ……『線』を触ってねぇ」


「は?」


「線の“答え”に触れてる」


レフが凍りつく。


「答え……?」


「通常の因果操作は“因果線を揺らす”ことで

 結果を変える。

 だがアイツは逆だ」


カンデルはアシェルを指し、低く断じた。


「“結果のほうを動かしている”。

 まだ無意識だが……

 ありゃ本物の怪物になるぞ」


レフはアシェルを見た。


胸の奥を、

理解できない恐怖がなぞっていった。


アシェル自身も、

再び胸の熱に触れた。


(……これは何なんだ?

 何かが……俺の中で目覚めようとしている)


それは、

まだ名も形もない“因果の核心”。


やがてアシェルが辿りつく

新・因果律操作法 の胎動だった。

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