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カーディア  作者: アデル
第一章 第二項 軍訓練期
13/83

3

『初動訓練―因果律基礎操作』


 


翌朝、アシェルはまだ薄暗い時間に兵舎を抜け出し、

オルドから指示された訓練棟へ向かった。


基地の朝は早い。

すでに遠くから怒号と爆音が聞こえる。


しかし、アシェルが向かうのはそれとは別区画――

“特別班訓練場”。


扉を開けた瞬間、

冷たく張りつめた空気が全身を包んだ。


広い空間に、

金属製の台座と円形の線が床に描かれている。


その中央に、一人の人物が立っていた。


「来たか、アシェル・レイヴ」


オルドだ。

白衣の上に軍用外套を羽織り、腕組みをしている。


「まずは因果律操作の基礎、

 “因果線ライン認識”からだ」


「因果線……?」


「この世界のありとあらゆる事象には、

 “結果へ至る見えない線”が存在する。

 因果律操作とは、その線に“触れる技術”だ」


オルドは指を鳴らした。


すると空間に薄い光の線が浮かび上がった。


多数の糸が絡まり、震え、

微かに色を変えながら空間を満たしている。


「普通の兵士には、訓練数ヶ月を経てようやく“薄ぼんやり”見える。

 だが――」


オルドはアシェルをじっと見つめた。


「お前は昨日、装置を壊しかけた。

 つまり……既に何かを“見ている”可能性がある」


(……俺が……?)


アシェルは光の線を見つめる。


すると胸が熱くなった。

脈動するたび、視界に揺らぎが走る。


線が――

“蠢いて”見える。


いや……

違う。


(線の……“向き”が見える……?)


普通ならただの光にしか見えない線が、

アシェルにはまるで弾道のように“動きの意図”を示して見える。


オルドは気づいたように言う。


「見えているな?」


「……わからない。

 だけど……線が、生きてるように……」


「それで十分だ。触れろ」


「触れる……?」


オルドは指でひとつ線を弾いた。


「触れれば揺らぐ。

 揺らげば、結果が変わる。

 火が燃える、石が落ちる、傷が塞がる……

 すべては因果の線が決めている。

 触れれば、それを“書き換えられる”」


アシェルは手を伸ばした。


その瞬間――


胸の奥の熱が、

強烈に脈打った。


「……っ!」


視界が一瞬、白く染まった。

線の形が変わった。

いや、形ではない。


線の“答え”が変わった。


オルドが驚愕する。


「おい、何をした……!?

 線が……“増えて”いる……?」


線が一本ではなく、

複数に枝分かれしていく。


アシェル自身は、ただ触れただけ。

しかし因果線は、まるで歓喜するように増殖した。


(これ……俺がやったのか……?)


線が複雑に絡まったそのとき――


金属台座が突然、音もなく“変形”した。


「……っ!?」


鋼鉄がねじれ、

内部構造が違う何かへと変わっていく。


オルドが叫ぶ。


「離れろ!!

 因果過多だ、暴走する!!」


アシェルは線から手を離す。


次の瞬間――

金属は静かに元の形に戻った。


暴走は……起きなかった。


オルドは目を見開き、言葉を失っていた。


「……普通なら破壊するはずだ。

 だが元に戻った……?

 因果の“答え直し”をした……?」


(答えを直した……?

 そんなこと、俺にできるのか……?)


胸の熱が静かに揺れた。

まるで自分の意志とは別に動いたような、奇妙な感覚。


「アシェル……

 お前の因果反応は、普通の兵士とは完全に違う」


オルドは低く言った。


「因果線を“変える”のではなく……

 因果線の“答えそのもの”を別の形に“再構築”している。」


アシェルは眉をひそめた。


「そんなこと、できるのか?」


「理論上……否。

 だが、お前はやった。

 これは“従来の因果律操作法”では説明できない」


オルドの目は、恐れと興味の両方に染まっていた。


「アシェル・レイヴ。

 お前は“新しい因果の理”に触れている可能性がある」


(新しい……因果……)


アシェルの胸で、あの熱がゆっくり、ゆっくりと回転を始めた。


それはまるで、

「目覚めの序章」 のように。

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