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カーディア  作者: アデル
第一章 第一項 谷間の農村ロマル
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 装甲車が土道から舗装路へ乗り上げると、

 アシェルは揺れの変化に気づいた。


 ガタガタとした農村の振動は消え、

 都市へ続く“軍専用道路”のなめらかな感触に変わった。


(もう……ロマルに戻る道じゃない)


 胸の奥がまた痛んだ。

 だがその痛みは、もう悲しみだけではなくなっていた。


(あれを仕掛けた敵……必ず見つける)


 黒い熱が背骨を這い上がる。


 



 


 数時間後。

 装甲車は巨大な壁に囲まれた施設へ到着した。


 王国軍・第七前線基地。


 扉が開くと、金属と油の匂いがアシェルを包む。


 訓練場、兵舎、研究棟、装甲倉庫――

 どれもロマルでは見たことのない巨大な建物ばかりだ。


(ここが……戦争の中心……)


 アシェルが外へ降りると、

 兵士たちの視線が一斉に突き刺さる。


「あれが新入りか」

「徴兵組だろ。使い捨てじゃねぇか?」

「でも目が違うな……あいつ、壊れ方が“均一”だ」


 均一――

 つまり、“感情の壊れ方に偏りがない”という意味だ。


(馬鹿にしてるのか……?)


 アシェルが睨み返そうとすると、

 横から声が飛んだ。


「よせ。ここでは“死人の目”は珍しくない」


 振り向くと、

 昨日アシェルに話しかけた、階級の高い男が立っていた。


 名は オルド・ファリエン少佐。


「ここでは、生き残っている者の方が稀だ。

 お前ほどの喪失を抱えている新兵など珍しくもない」


 オルドは淡々と言う。


「ついてこい。まずは適性検査だ」


 



 


 アシェルは研究棟へ案内された。


 中は農村の世界とは別次元だった。

 白い壁、光るパネル、天井を走るケーブル。

 そして部屋ごとに置かれた巨大な装置。


(全部……因果技術に関係しているのか……?)


 通路の窓越しに、奇妙な光景が見えた。


 兵士が空中に“見えない糸”を引くように手を動かすと、

 重い金属板が滑らかに持ち上がった。


 だが次の瞬間、

 板が急に“暴れ”、彼の腕を弾き飛ばす。


「くそっ! 不安定化したぞ!」

「因果裂けが混ざってる! 制御しろ!」


 青白い火花が散り、装置が唸った。


(これが……因果律操作……?)


 アシェルは初めて“因果を人為的に触る現場”を目にした。


 同時に気づく。


(扱う側でさえ……完全には理解できてないんだ)


 この不安定さこそ、後のアシェルが気づく

 “致命的な欠点” である。


 



 


 検査室に入ると、透明な床の中央に円形の装置があった。


「そこに立て。因果素反応を調べる」


 アシェルが装置に足を踏み入れた瞬間――


 胸が痛んだ。


(……熱?)


 心臓の奥が、焼け付くように熱を帯びる。

 昨日エルマを喪った時とは違う熱。

 もっと“静かで、重い熱”だった。


「……ん?」


 オルドが端末を覗く。


「……数値が高いな。

 一般兵の許容量を超えている。

 まるで……因果災害の中心にいた者のようだ」


(俺は……中心にいた。

 あの裂け目の……エルマが……消えた場所に)


 アシェルは胸元を押さえた。


(この熱……なんだ……?)


 すると装置が低く唸り、

 アシェルの周囲に“揺らぎ”が発生した。


 空気が波打ち、白い粒子のようなものが浮かび上がる。


――ぅ……ん……


(音……?)


 聞こえてきたのは、

 言葉ではなく“揺らぎの声”だった。


 装置が警告音を鳴らす。


「反応値急上昇! やめろ、離れろ!!」


 オルドがアシェルを引き離した。


 装置は軋み、光を失い、沈黙する。


 



 


「……お前、ただの農村の青年じゃないな」


 オルドはアシェルの目を強く見つめた。


「因果災害を“直に受けた者”は稀だ。

 だがそういう者は……時として“因果そのものの構造”を理解し始める」


「構造……?」


「言っても理解できんだろう。

 因果は“見えない回路”のようなものだ。

 本来、人は触れることすらできない。

 だが……お前は触れかけた」


 アシェルは胸の熱に手を当てた。


(熱は……昨日からだ。でも今日のは違う……

 何か……動いている……)


「アシェル・レイヴ、君には特別訓練を受けてもらう」


「特別……?」


「あの災害の“中心にいた者”の脳は、

 時に“因果を逆算する”能力を獲得することがある。

 ――敵国の兵器に対抗できる希少な人材だ」


(俺が……?)


 オルドは続けた。


「そしてその能力を極めれば、

 災害を引き起こした敵の痕跡にも辿れる。

 お前が望む“答え”にもな」


 アシェルの目が揺れた。


(エルマを奪ったものの正体……

 それが……わかる……?)


 黒い熱が心臓奥底で強く脈打った。


 オルドは静かに言った。


「復讐したいか?」


 アシェルは迷わなかった。


「……したい。

 俺のすべてを奪った相手を……許さない」


 その瞬間、

 アシェルの心は完全に“復讐”の一点へ向けて固定された。


 胸の熱が、静かに形を変える。


 この熱こそ――

 後にアシェルが“誰よりも深く因果を理解する鍵”となる。


 そして、

 “新・因果律操作法”発見の最初の起点 となるのだった。

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