7話 距離感の再確認
夜の街灯の下、私は歩きながら、からすの横顔をちらりと見る。
ふたりの距離は、前よりも少し開いているような気がした。
あの夜から、何日か経っただけなのに、心の距離まで少しずつ離れてしまった気がして、胸がぎゅっと痛む。
「……ふくろう、最近どうしてた?」からすが口を開く。
声は変わらず穏やかで、でもどこか緊張が混ざっている。
私は咄嗟に笑って、「うん、まあ、元気かな」と答えた。
言葉は簡単だけれど、心の奥はざわついていた。
彼女といると、いつも心の奥底まで見透かされそうで、正直な気持ちをそのまま出すのは怖い。
からすは何も言わず、ゆっくりと歩く。
街灯の光に照らされる彼女の瞳は、あの夜と変わらず、けれど少しだけ遠くに感じられた。
「私、最近……いろいろ考えちゃって」と、私は小さくつぶやく。
からすは立ち止まり、私の顔を覗き込む。
「ふくろう……?」その一言に、胸の奥の痛みが少しだけ柔らぐ。
ふたりはしばらく無言で歩いた。
夜風が頬を撫で、遠くで車のライトが揺れる。
距離は物理的には近いのに、心の距離は少し開いている。
それでも、手を伸ばせば届く位置に彼女がいる。
その事実が、私に少しだけ安心感を与える。
「ねぇ、からす……」私は勇気を出して声をかけた。
「私たち、距離感、変わったと思わない?」
からすは一瞬考えるように目を伏せ、そしてにっこりと笑った。
「うん、変わったかもしれないね。でも、それって悪いことじゃないと思う」
私は驚いた。少し開いた距離も、見方を変えれば自然なものなのだと。
「お互いのこと、少しずつ知るための距離……なのかな」
からすは軽くうなずき、手を差し伸べる。
その手に触れた瞬間、胸の奥の不安が少しずつ溶けていった。
「ふくろう、大丈夫だよ。私たち、焦らなくていいんだから」
その言葉に、私は涙が出そうになる。
心の奥底にくすぶっていた不安も、からすの声に包まれて、ふわりと消えていく。
夜の街を歩きながら、私は改めて気づいた。
心の距離は時々開くこともある。
でも、相手を信じ、手を取り合えば、また近づけるのだと。
その夜、ふくろうは初めて、からすとの距離感の意味を理解した。
ただ手をつなぐだけでなく、心をそっと寄せることで、互いの存在を確かめることができる。
それは、恋の甘さと切なさの両方を胸に抱く、特別な時間だった。
夜が深くなるにつれて、街の灯りも少しずつ消えかける。
それでも、ふたりの間にある微かな距離は、確かな温もりで満たされていた。
ふくろうは心の奥底で、小さくつぶやく――
「距離があるって、悪くないかもしれない……からすとなら、どんな距離も怖くない」
その感覚は、甘く切ない初恋の余韻として、静かに胸に残った。




