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第4話:初恋としての自覚

昼下がりの教室。窓から差し込む柔らかな光が、ふくろうの机の上を淡く照らしていた。

心の奥が少しざわつく。昨日、からすと過ごした夜の余韻が、まだ胸に残っているからだ。


「今日も元気ないね?」

友人の声にハッと我に返る。

笑顔を作ろうとするけれど、なんだかぎこちない。胸の奥で、初めての感情が膨らんでいくのを感じた。


夜のバーで出会ったとき、背中のいたずらをきっかけに笑ったからすの顔。

手をつなぎ、街を歩いたときの安心感。

初めて部屋で二人きりになったとき、互いの存在を近くに感じながらも、名前さえ本当には明かさず、ただ心を寄せ合ったあの時間。


それらの記憶を思い出すたび、胸の奥がじんわりと温かく、切なくなる。

「……これって、やはり初恋っていうのかな」

ふくろうは小さくつぶやいた。声に出してはいけないような、でも確かに心に響く感覚。


初めて誰かのことを「特別」と感じる。

初めて誰かの存在で胸が高鳴る。

初めて互いの気持ちを確かめたくて、無意識に目で追いかける。


教室の窓の外、淡い光に照らされた桜の花びらが、ふわりと舞う。

そのひとひらひとひらが、ふくろうの心に小さな火を灯すようだった。

「私、からすのこと……特別に思ってる」

自覚することで、胸のざわめきは少しだけ強くなる。けれど、不安や怖さも同時に押し寄せる。


帰り道、ふくろうは足早に歩きながら、手帳に小さな落書きをするように名前を書いた。

「からす」と。「ふくろう」と。

二人だけの秘密の名前。

あの夜の空気と、手をつないだ感覚と、あたたかい笑顔を、そっと文字に閉じ込めた。


恋としての自覚。

それは、心の奥底に小さな光を灯す、甘く切ない感情の始まりだった。



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