ゾット - Zotto - 挿絵
◯アッバース国近郊・荒野
1人で歩いているエーリン。前方に数人の男のグループが見える。距離を取るエーリン。
グループの中の男、エーリンに気付いて声を掛けてくる。
「おい、なんで女1人でこんな所にいるんだ?」
無視するエーリン。
男、ロマニ語で呼び掛ける。
「お前、ヒタナだろ? クンパニアを追い出されたのか?」
エーリン、相手がロマだとわかっても、用心深く服の下のダガーを探る。
別の仲間が窘める。
「やめろ、迷惑がられている」
続けてエーリンに声を掛ける。
「悪かった。もし困っている事があれば言ってくれ。力になるから」
聞き覚えのある声に、エーリン立ち止まる。
男も、エーリンをまじまじと見つめる。
「…エーリン?」
エーリン「…ゾット」
◯同・ゾットの仲間たちから少し離れた場所
20年ぶりの再会にぎこちない二人。
エーリン「…久しぶりね。元気だった?」
ゾット「…ああ」
ゾット、荒野に目をやりながら、
「…あいつ、死んだな」
エーリン「知ってたの?」
ゾット「ヒタナと結婚したガージョの学者は、ロマの間で有名だ。死んだ時もその話題で持ち切りだった」
エーリン、鞄からリートゥスの出版したロマニ語の辞書を取り出し、表紙を撫でる。
「センセイは死んでしまったけど、ここに生きてる。私もセンセイのようにロマの本を書くの。人間は知らない者を怖がって攻撃することもある。だから世界中の人たちにロマのことを知ってもらいたいの」
ゾット「…ふぅん」
エーリン「ゾットは…今、何をしているの?」
ゾット「俺は、最近は傭兵の真似事をしている。きな臭い事があちこちで起きているから」
エーリン「危なくないの?」
ゾット「危険だが実入りはいい。今は鋳掛屋では食えなくなっているしな」
エーリン「なぜ? ゾットは腕がいいのに」
ゾット「西側の国で、ロマが迫害されたり入国を拒否されることが多くなっている。昔のように気軽に移動できなくなった。国同士の争いに移動中のロマが巻き込まれる事件も増えている」
エーリン「そうなの…ケガしないでね」
ゾット「傭兵といっても、俺は安全な場所に居ることが多い。鋳掛屋の腕を活かして武器を修理できるから、重宝されている」
エーリン「それなら良かったわ」
✕ ✕ ✕
エーリン、思いきって聞く。
「…ゾットは今、幸せ?」
ゾット、暫く間を置いて、
「…まぁな」
エーリン「…結婚は?」
ゾット「…した。子供が3人いる。あいつらと(少し離れた場所に立っている若者2人を指す)娘1人だ」
エーリン、ほっとして微笑む。
ゾット、息子2人を手招きする。
すらりとした体格の、年の近い兄弟。母親が美人なのだろう、整った顔立ちをしている。
ゾット「紹介する。ヤットとミロだ」
エーリン、思わずゾットの顔を見る。
「ああ」
ゾット、はにかむ。
ゾットの亡き兄弟の名を持つ2人に、エーリン、右手の指を揃えて胸に当て挨拶する。
「はじめまして。エーリンです。よろしくね」
息子2人もロマの挨拶を返す。
ゾット「エーリンは昔、俺と同じクンパニアに居た。俺の幼馴染だ。今はロマニ語の調査で旅をしている。カナン地区まで同行することになった」
エーリン「あなたたち、いくつなの?」
ヤット「俺は16です」
ミロ「俺は15」
エーリン「そう。私にも、あなたたちと同じくらいの息子がいるのよ」




