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d+d【先行公開版】  作者: Hilde
【先行公開版】第一章 壁 - Wall -

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アヴェス - Aves - 2

◯事務局オフィス・総務部デスク


アヴェスより10歳ほど年上の職員ルーカス、手を差し出す。

「インターンの間、君の案内をする総務部のルーカスだ。よろしくね」


アヴェス、握手を交わす。

「よろしくお願いします」


ルーカス「世連事務局の仕事は、9月に開催される年次総会と、年5回ほど開催される理事会、各専門委員会の運営だ。これらの会議のほかに、加盟国から要請があれば特別会合が開かれるけど、過去に開かれた例はないよ。

5月は、理事会の春会期の後処理と、夏や秋の会期に向けた準備を行う部署が多いかな。

君がそれぞれの部署で業務を体験できるように調整するね」


アヴェス「ありがとうございます」


ルーカス、アヴェスをじっと見て、

「君と会えて嬉しいよ。僕はリートゥス名誉教授の考えに共感してリュケイオン卒業と同時にここ(世連)に就職したんだ」


アヴェス「OBなんですね」


ルーカス「うん。リュケイオンの卒業生は多いよ。君は卒業後は院に進むそうだね。法務部には法学科の院卒が大勢居るから、院の話を聞いてみるといい」


アヴェス「はい。ありがとうございます」



◯事務局オフィス・法務部デスク(日替わり)


平和(pacon)共生(Simbiozo)繁栄(prosperon)」世連の理念がデカデカと背中と胸にプリントされたシャツを着ている若い職員。


アヴェス「え…、くど…」


若い職員、得意気にアヴェスに見せつける。

「世連創立10周年の記念イベントのユニフォームだ。プレミアものだぞ」


ルーカス「アヴェス君も欲しいなら、来年の世連創立20周年記念イベントのユニフォームをプレゼントするよ」


アヴェス「いや…大丈夫…です」


ルーカス、ユニフォームの職員を紹介する。

「法務部1年目のティボー君だ。ティボー君、君は去年までリュケイオンの院生だったよね?」


ティボー「はい。法学研究科に居ました」


ルーカス「アヴェス君に院の話もしてあげるといい。では、後は頼んだよ」

総務部のデスクに戻っていく。


アヴェス、ティボーに「俺…いえ、私も法学科に進む予定なんです」


ティボー「俺、でいい。その代わり、俺の事は先輩と呼べ」


アヴェス「……先輩。」


ティボー「卒業したら世連に来るつもりか?」


アヴェス「その予定です」


ティボー「法を学んで何をしたいか知らないが、世連の業務は、超・超・超・地味だぞ」


アヴェス「えっ…」


ティボー「俺だって、希望に燃えて世連に入ったクチだよ。世連に入れば、法の知識を活かして何だってできると思ってた…。だが、フタを開けてみれば、条文を翻訳しろだの、過去の判例を調べろだの、会議用の草案を書き直せだの、総会・理事会・特別委員会の資料作成ばかりだ。加盟国サマたちから要請された事務作業を、ただひたすらこなす日々だ」


アヴェス、他の法務部職員の様子を窺うが、年上の職員たちは驚いた様子もなくティボーの言動をニコニコと眺めている。


ティボー「俺は…歯がゆい! 俺は、加盟国サマのためじゃなくて、世界平和のために働きたいんだ!

例えば、現在(いま)、戦時下の非戦闘員を保護する法は存在しない。民間人は戦火にさらされ、傷病兵や捕虜が劣悪な環境に置かれている。俺は、そのような人々を、法を使って守りたいのだ。加盟国の利害を超えて、世連の枠組みも超えて、普遍的な国際人道法を作りたい!」

熱くなったティボー、机を拳で叩く。

「だから、俺は、早く出世して、世連の中に独立した国際法専門の組織を作る。加盟国の要請に従うだけでなく、独自に条約を提案できる、国際法委員会を作るんだ!」


ティボー、がしっとアヴェスの手を握る。

「ということで、必ず5年で院を卒業しろ。俺と世連を改革しよう。待ってるぜ」


アヴェス「は…、はい…」



◯事務局オフィス・政治部デスク


政治部職員ステファン、ニヤニヤ笑う。

「ティボー、あいつ熱すぎるよな。俺、あいつと同期だけど、入局した頃からあんな感じだぜ」


アヴェス「すごく…志の高い人ですね。大変刺激を受けました」


ステファン、にっと笑みを見せる。

あいつ(ティボー)のあのシャツ、あいつをかわいがっていた先輩から譲られた物なんだ。皆、あいつの暑苦しいところを気に入ってるのさ」


アヴェス、微笑む。

「そうですか」


ステファン「君はティボー(法務部)に誘われてるようだが、政治部も面白いと思うぜ? 国家間で紛争や問題が持ち上がった時に、背景事情を調べ、関係国と裏でやり取りして、最も現実的かつ平和的な解決策を提示する──要するに、皆が納得できるような〝落としどころ〟を見つける──こういうのが得意な人間には天職だぜ?」

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