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d+d【先行公開版】  作者: Hilde
【先行公開版】第三章 戦闘 - Battles -

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ホラーサーン - Khorasan - 1

◯アッバース国・ホラーサーン州・マルウ市・総督府(月曜日・夕方)


この世界最大の大陸、アルテラシア大陸。その中東に位置する大帝国、アッバース国。

その東方を守るホラーサーンの中枢にして、バグダードに次ぐ繁栄を誇る〝母なる都〟マルウ。

その賑やかな商業区を見下ろす高台にそびえる総督府。


その広大な行政棟の執務室で、ホラーサーンの財政・文書・人事を一手に握る行政長官、サフル・アル・ハーリスが、積み上がった書類の山を前に眉間を揉んでいる。


音もなく侍従長が入室する。

「行政長官殿、総督閣下がお呼びです」


サフル、書類から目を上げ、うんざりした表情になる。

「…またか」



◯総督府・総督の私室


サフル、侍従長に伴われ、いくつもの内庭を抜け、奥まった私室へと進む。


「総督閣下、お呼びと承り参上いたしました」


内庭の水音が、低く響いている。

足元には豪奢なペルシア絨毯、壁には精緻なアラベスク模様。


その中央、権威を示す長椅子に、一人の幼い子供が座している。


ホラーサーン総督としてバグダードから送り込まれた、カリフ・ラフィの息子、ムーサ。

6歳のムーサの傍らには、総督代理アフマド・イブン・ヤズィードが控えている。


サフルより数歳若く、隙のない身なりのアフマド、鷹揚にうなずく。

「ご苦労、行政長官殿。

このところ暑気が厳しい。総督閣下が、冷えたソルベをご所望だ」


「承知いたしました。すぐに厨房へ手配しましょう」

サフル、侍従長に合図しようとする。


アフマドの鋭い声が遮る。

「待たれよ」


「…閣下がこちらに赴任されてから幾月かが過ぎたが、

総督府の職員の中には、いまだに前総督の影を追い、閣下への忠誠を欠く者が多いと聞く。

閣下は心を痛め、不安な日々を過ごしておられる」


アフマド、薄い微笑を湛える。

「ゆえに、口に入るものも、そこらの者には任せられん。

ソルベは行政長官殿()()()()運んでいただきたい。それが閣下の望みだ」


「…は…?」

サフル、ホラーサーンの名門に生まれた行政長官である自分に、給仕を命じられたことに戸惑う。


アフマド、上体をかがめ、ムーサに確認する。

「…そうでございますね、閣下?」


ムーサ、アフマドに向かってうなずく。

続けて、上目遣いでサフルを見上げ、甘えるような声を出す。

「…サフル、頼む」


ムーサ、否とは言えぬ行政長官の表情のわずかな揺れを、じっと見つめている。


「…かしこまりました。総督閣下」

サフル、屈辱を押し殺して頭を下げる。


ムーサ、勝ち誇った笑みを浮かべ、アフマドを見上げる。

アフマド、褒めるような眼差しでムーサを見やり、満足げに頷く。



◯総督府・渡り廊下


銀の盆に載せたソルベを運びながら、サフル、こめかみを押さえる。

(…あの(よわい)で、すでに他人の自尊心を削る愉悦を覚えたか。バグダードの血は、何色をしている)


「行政長官殿」

死角となる曲がり角で、サフルの書記補が影のように寄り添う。


書記補、周囲の目を盗み、サフルの手に小さな書簡を滑り込ませる。

「官舎より急使にございます」

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