緊急特別総会 - Emergency Special Session - 6
◯エンパイア国・アテナイ市・世界連帯構想本部・会議棟・ロビー
正面入口の大扉からイスマイールが姿を現すと、待ち構えていた各国の代表団が一斉に動き出す。
加盟国代表1「イスマイール殿下! 少しお時間を──」
加盟国代表2「融資の優先権について確認したいことが──」
加盟国代表3「ホラーサーン地方の関税権の期間ですが、我が国の計算では──」
イスマイール、瞬く間に各国代表団に取り囲まれる。
✕ ✕ ✕
アヴェス、代表団の輪の外へ抜け出す。
ロビーを見回し、バラトール共和国の一団を見つける。
柱のそばに立つ高齢の男へ歩み寄る。
アヴェス「テオドーロ前大統領」
バラトール共和国前大統領テオドーロ・クラント、ゆるやかに頷く。
アヴェス、一礼する。
「加盟申請の手続きでは、多大なご助力をいただきました。
おかげで、今日を迎えられました」
テオドーロ、穏やかに微笑む。
「他でもない、リートゥス名誉教授のご子息の頼みだ。
断る理由はない」
目を細める。
「リートゥス名誉教授の国葬のとき、君は7歳だったな。
あの少年が、世連で演説するまでになった。教授も喜んでいるだろう」
アヴェス、目を伏せる。
テオドーロ「今日の決議、我が国は賛成する。
リートゥス名誉教授の志を継ぐためにもな」
アヴェス「…ありがとうございます」
✕ ✕ ✕
「アヴェス」
振り向くと、メシーカ国代表団の若い女が立っている。
アヴェス「イツェルさん! 代表団だったんですね」
イツェル「エスペラント語ができるからね」
アヴェスがメシーカ国を訪問した際に通訳だったイツェル、
改めてアヴェスを頭から靴先まで見る。
「それにしても、立派な男になったもんだ」
アヴェス、苦笑して腕を広げてみせる。
「もう小学生じゃありません」
イツェル、小さく笑い、それから表情を引き締める。
「メシーカ国は、リートゥスのおかげで救われた。
だから、同じ境遇の国を見捨てない。
カナン地区も自由にならなければ、私たちの自由も不完全だと知っている。
メシーカ国は、賛成するよ」
アヴェス「ありがとうございます!」
✕ ✕ ✕
「アヴェス!」
ティボーが、アヴェスの背中をバシッと叩く。
アヴェス「先輩」
ティボー「お前、やるじゃないか!」
アヴェスの首に腕を回す。
「ステファンのメモを読んだ。派手にやったな!」
アヴェス、ティボーの腕を押さえながら「ありがとうございます、先輩」
ティボー、ふと視線を上げる。
「あ、事務総長だ」
声を潜める。
「お前は知らないだろうが、特別総会がすんなり開かれたのは、あの人の根回しのおかげだ。
その後も各国に働きかけてくれている」
ティボー、にやりと笑う。
「きっと今日、決まるぞ」
✕ ✕ ✕
「アヴェス君」
世連事務総長ターハ・マンスールが声を掛ける。
アヴェス「事務総長」
事務総長「良い演説だったよ」
アヴェス「ありがとうございます」
アッバース国の特命全権大使でもある事務総長、アヴェスに微笑みかける。
「カナン地区は、元はアッバースの地だ。ディーンの民が多く暮らしている。
君とイスマイール皇太子が立ち上がってくれたことに、同胞の一人として心から感謝している」
アヴェス「臨時理事会と特別総会の開催、ご尽力に感謝いたします。
本総会での承認を、心より願っています」
事務総長「私もだ。各国が良識ある判断を下すことを祈ろう」
✕ ✕ ✕
◯シオン国・北・ヤッファ市・門前
ノストルム海沿いの街道を疾走するヤッファ県の騎馬隊。
10代の若い兄弟を先頭に、縦に長く隊列が伸びている。
間断なく砲撃が襲いかかるが、そのたびに散開し、再び隊列を立て直して突き進む。
早朝から走り続けた馬たちが、口から白い泡を吹き始めている。
兄、カラカラに乾いた喉で、馬を必死に鼓舞する。
「もう少しだ…、あともう少しだけ、頑張ってくれ!」
斜め後ろを走る弟が、叫ぶ。
「兄ちゃん! 見えた!」
ノストルム海にせり出した大きな港湾都市、ヤッファ市。
小高い丘に沿って薄黄色の石造りの家々が連なり、街全体が巨大な淡い金色の岩山のように輝いている。
兄、3年振りに目にする故郷に、胸の奥が熱くなる。
(もうすぐ、高台のミナレットとモスクの屋根も見えるはず…!)
後方を走るヤッファ県首長が声を張り上げる。
「銃撃が来るぞー! 身体を伏せろーッ!」
街の門を背に、シオン軍の守備隊が、横一列の一斉射撃陣形を敷いている。
ガガガガーン!
轟く銃声と共に馬が嘶き、ドッ! 倒れる。
兄、地面に投げ出されるが、咄嗟に、激しくもがく馬の陰へ転がり込む。
ガカッ
そのすぐ横を、4色の旗を翻したヤッファ県首長の騎馬が飛び越えていく。
直後、銃弾を浴び、馬ごと崩れ落ちる。砂塵が舞い上がる。
兄「首長ーっ!!」
ヤッファ県首長、馬の陰に伏せながらニッと笑ってみせ、背負っていた銃を素早く引き抜き、発砲する。
シオン兵の一人が、のけ反るように倒れる。
すぐさまシオン軍から猛烈な一斉射撃があり、兄、慌てて身を伏せる。
兄「…落ち着け…落ち着け…、訓練通りにやるんだ…」
馬の陰に這いつくばったまま、夢中で自分の銃を構える。
馬体からわずかに顔を出し、装填中のシオン兵に狙いを定め、引き金を絞る。
ドンッ!
薬室付近から熱い発射ガスが吹き付け、肩を殴られるような強烈な反動が歯を鳴らす。
火薬の臭いの中、再び身を伏せる。
背後の弟や隊員たちも次々と発砲を始め、シオン軍と激しい銃撃戦となる。
銃弾が頭上を切り裂く中、震える手で腰の布袋を探り、次弾を装填する。
兄「…障壁が出るまで…、障壁が出るまで粘れば…、みんな助かる…。
──カナンを取り戻せる…!」




